詩織達の冒険者登録
突然ギルドに現れた高レベルの召喚者。
普段彼らが城下町に来る時は遊戯施設にしか出没しないのに、ギルドに現れたのだから、またとてつもない獣を納品しに来たか……と思っていた受付。
この者達が、今回の召喚者の中で最高戦力の一角であるという事は理解しているギルド。
もちろん、実績として龍の素材すら入手してきたのだから、疑いようはなかった。
その四人が、獣の納品ではなく、何故か殊勝な態度で冒険者登録を希望しているのだから、受付としては確実に裏があると思っていた。
詩織一行の対応をしていない、少々遠くにいる受付達はこんな話をしていた。
「何あの一行。この間とすっかり態度が違うじゃない」
「何か、悪い物でも食べたのかしら?」
「そうかもしれないわね。でも、ヒスイさんからギルドマスターを通して教えて貰った情報、忘れていないわよね?人はそう簡単には変わらない。たとえ変わったとしても、今までの行動が許されるわけじゃないわよ」
「その通りね。でも、王城を追放されたと言う情報も入ってきていないのでしょう?あのレベルEの召喚者達と違って」
最後の受付の言葉に、深く頷く他の受付達。
そうなると、王国の中枢からの指示によるものなのか、詩織達独自の判断による行動なのかが分からない受付。
もし前者であれば、アーム王国の領地奪還に気を良くしたクイナ王国の中枢である翠達が、次の行動をするべく詩織達をギルドに派遣した事になる。
つまり、次の作戦はギルドが巻き込まれる事になるのだ。
そうなると当然冒険者達の命が危険に晒されるので、一受付である自分達の判断だけでは行動できないのは当然で、ギルドマスターである晋に連絡が入る。
詩織を筆頭とした高レベルの召喚者達の対応をしている受付に、連絡を受けた晋が近づいていく。
その気配を察知した詩織一行は受付の奥を見つめる。
「ギルドマスター!」
晋の姿を見た詩織は、まるで出待ちをしていたアイドルのファンが、お目当てのアイドルに出会う事が出来たかのような表情と声を出した。
「えっ?」
当然そのような詩織の姿を見た残りの三人の召喚者は困惑するが、一番困惑したのは当然交際している昭だ。
そんな昭とは対照的に、普通であれば見惚れてしまう程の笑顔と、聞く者全てを蕩けさせる様な声を出している詩織に対して表情一つ変えずに、晋は近づいていく。
晋としては、この目の前にいる詩織と言う女が、ヒスイが大切にしている沙織の一番の敵であると認識していたのだ。
正直、数回しか目にした事が無い沙織に対しては、かなり良い感情を持っていた。
見た目も奇麗だし、周囲への気配りも出来る。
何と言っても、自然と優しい雰囲気が溢れ出ているのだ。
悪い感情を持つはずがない。だが、その感情が何なのかまでは今の所は晋自身も認識してはいなかった。
対して、目の前にいる女は、上辺だけ取り繕ったような態度が見え見えで、嫌悪感しかわいて来なかった。
しかし、見た目の方向性は違っているが、沙織と同様に整っている為、一部の冒険者は詩織の笑顔と声にやられているようだ。
「今日は冒険者登録をされに来たという事ですが、宜しいですか?」
嫌悪感を一切出さずに、晋は受付の横に立って詩織達に問いかける。
「はいっ、その通りです。皆さんと同じ活動をする事で、この国の事をもっとよく知る事ができると思ったのです。もちろん、翠さんに許可も貰っています」
晋は、自分が知りたかった情報を勝手にしゃべってくれた詩織に感謝する。
そう、国家中枢である翠の指示ではなく、自分の意思でここに来たと明確に詩織は伝えてきたのだ。
この発言は、何か裏をかくような気配もなく、単純に勢いで伝えてきているのは間違いなさそうなので、同じように判断した受付達に安堵の空気が流れる。
「そうですか、承知しました。では、これからの活躍をお祈りしています」
労せずに聞きたい事が聞けたので、さっさとこの場を後にする晋。
その姿を残念そうに見ている詩織の姿を、流石に残りの三人や受付達も見逃す事は無かった。
「おい、詩織!まさかお前……あんな奴のために冒険者をやろうとしているんじゃねーだろーな!」
当然言葉が荒くなる昭。
だが、言われた詩織はレベルの違いからか、一切恐れる事無く平然と返す。
「ウザッ、何それ?何勝手に邪推してるの?みっともないわね。そんなに自分に自信がないのかしら?」
こう言われてしまうと、昭としても何も言い返す事は出来なかった。
「では、登録を進めても宜しいでしょうか?」
そんな痴話喧嘩を一切意に介さないように、受付は作業を進める。
そもそも、今は夕刻。
これから依頼を終えた冒険者が多数戻ってくるのだ。
登録程度に時間をかけるわけには行かないので、さっさと仕事を進めておきたかった事もある。
腕輪のおかげで問題なく登録は終了し、注意事項を聞いた後に講習の話もされた。
もちろん薬草採取や、獣の素材剥ぎ取りの講習だ。
受付としては、高レベルの者達であるのだから最低限の対応だけはしておかないと、後々力技で文句を言われかねないと言う懸念があったのだ。
「そんな講習、受ける訳ねーだろ。めんどくせ」
「そうね。私達であれば、現場に行けば薬草採取程度は理解できそうだし、獣はそのまま持ち運べるから解体の講習も不要ね」
「そうだな。本当に収納袋様様だ」
勝手に三人が普段の態度で回答してしまい、唖然とする詩織。
自分だけでも講習を受けて謙虚な姿勢を晋にアピールしようとした所に、このギルドの少し前までの最強パーティーである四人と、ヒスイ、沙織が現れたのだ。
そう、今の最強パーティーは詩織達が登録したこの瞬間に詩織達に代わっている。
隣の受付が、そんなレベルCのパーティーとヒスイ、沙織にねぎらいの言葉をかけている。
「お疲れ様でした、皆さん。今日の健司さん達は……なるほど、依頼の帰りにヒスイさんと沙織さんと鉢合わせたのですね」
手元の依頼書を見ていた受付は、六人が共にギルドに来た理由を理解できていた。
「そうなんだよ。今日の依頼は比較的簡単だったから、早めに帰れて助かったよ」
「健司ったらいつもこう言っているけど、依頼以外の獣も常に安全のためにと言って一生懸命始末しているのよ」
「そうそう、いつも依頼だけならこの時間に帰れるんだけどな。まっ、流石は俺達のリーダーだ」
「今日は珍しく、ヒスイさんと沙織ちゃんと会ってから余計な獣はいなかったものね」
このパーティーリーダーである健司は、受付に自分の行動が他のメンバー、忠明、千尋、理沙に暴露されて顔を赤くしている。
「フフ、知っていますよ。依頼以外の獣も持ち込まれていますからね」




