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Ephemeral note ~リディアス国立研究所  作者: 瑞月風花


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 ランドは研究室の前まで戻って来ていた。そして、元に戻る鉄を改良すべくそこでしばらく籠ることにした。出勤時刻も終わった今は、マリアに小言を言われることなく、めいっぱい集中出来る。


 ラルーがオリーブの会議で拘束されるのは二日間だ。その間ランドは長官の仕事も取りあえず任されることになる。そして、それは長官しか知り得ない仕事に関わり、盗み見出来る機会でもある。あまり勝手なことは出来ないが、あの実験の詳細を知るためには十分すぎる時間があった。引きこもりに飽きてきたランドは、少し休息を取ると長官室にある資料を引っ張り出してきて、ページを繰り始めた。それはランドが引き継ぐ前に記されたワカバに関する日誌である。そこには、ワカバが研究所に来る前の様子が書き連ねられていて、外部にも伝わっている部分と隠されている部分が残っている唯一のものだった。それは線の細いきれいな字で留められており、まるでそんな恐ろしいことが書いてあるとは思えない。ランドは静かにそのページを繰った。静かな夜だった。


 魔女は村人推定六十名を殺し、八十七名の傭兵部隊を殺した。


 灰と化した村には傭兵の姿は形すら残っておらず、影が地面に焼き付けられている。同じ場所にいたはずの魔女たちの死体は、炭で出来た人形のように綺麗な形で残っていた。不思議なことに、兵士が壊しただろう家屋や踏み散らかされた畑が煤けもせずに残っており、兵士が何をしたのかを物語っていた。魔女は村の中央に佇んで確保される。魔女を確保したのはラルーだった。


 魔女はリディアスの地下監獄へと連れて行かれ、死刑を待つことになる。魔女よりも優先されるべき死刑囚と、魔女よりも優先されざるべき死刑囚を、各所属長が寄り集まって話し合ったそうだ。その頃、ランネルは研究所所長の肩書、ラルーは指揮官の肩書だった。二人はもちろん、国王もその話し合いに参加されていた。


 独房の中、時を待つ彼女は静かに一人を見つめていた。そして、その目つきの悪い看守が死亡した。そして、隣の房の者。そして、呪いだと騒ぎ出した軍の者たちに変わり、魔女に対する主導権が研究所へと移り始めた。実験という名の許、絞首刑が決まっていた者が隣の房に入れられた。全て死亡。魔女による殺人が証明された。魔女の様子は冷静沈着。悶え苦しむ人間を見つめて動かなかった。誰もがこの結果に震撼した。


 目隠しをされた魔女が絞首台に向かった。アナケラスもアーシュレイも賛成し、ラルーすら異議を唱えなかった。その間も魔女は静かにしていた。


 異議を唱えたのは、ランネルだった。ランネルが国王に魔女の引き渡しを求めた。理由は、永遠の命とその力の有効利用法だ。そして、目も当てられないような実験が繰り返されるようになった。魔女は痛みを感じるのか、から、その心臓がどの時点で止まるのかまで。細かい血液検査の数値や拍動の数。腑分けを意味するような手術が数回。そして、魔女は人間と変わらないもので出来ているという結果。瀕死状態の魔女はその度に生かされ続けた。死んでも構わないくらいのことをされながらも、彼女は生かされている。その背景はやはりラルーよりもランネル色が濃い。しかし、この頃は魔獣を嗾けて魔女の力を引き出そうとする動きはないようだった。ただ、その知能を持った生き物がどんなふうに生き、どんなものに興味があるのか、というような観察だった。しかし、魔女はランドが出会った頃と変わらず、動かない。そして、正式にラルーが研究所に招かれたようだ。それからはランドの知っている検査ばかりが続いていた。


 そして、文字を消した跡があった。うっすらと形だけを残して、滅びの魔女という文字。


 あの子にそんな力はない。人間と同じだというのなら、どうしてここに出て来る者たちは死んだのだろう。答えは出なかった。



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