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『なにかが見えてくる予感』 管理人視点。

 脳裏に浮かんだひとは、この三人のうちのひとり。

 裏付けなんてなかった。でも自信はあった。しかし、みごとにはずれた。

 リビングテーブルに広げた三冊のアルバムを閉じた僕は、椅子から立ち上がって、深々と頭を下げた。

「すみません。期待を裏切ってしまって……」

 すると、三人は微笑みを浮かべて「とんでもありません」といった。

いの一番に、自分たちを思い浮かべてくれただけでも、ありがたい。もしこの中の誰かだった場合、他の二人に嫉妬心が芽生えていたはず。異口同音に、そんなことをいった。

 その言葉に一安心したが、どうやら本心は、別のところにあったようだ。

 三人は同時に黙り込んでしまった。申し合わせたように、焦点を結ばない目を自分の足元に向けた。

 ったく、もう。僕は自分をなじった。

この状況を作り出したのは、お前だぞ。お前が責任とれ。場の雰囲気を変えろ。いますぐに。

 しかし思いつくものといえば、写真を見た感想ぐらいのもの。

 でも、若いころから美人だったんですね。今も昔も変わりませんね、なんて、月並みなことはいいたくない。

 とそのとき、助け舟がやってきた。

「早めの夕飯、ご一緒しませんか?」

 ベッキーの自慢のひとつが円卓らしい。特別注文、四人掛け。でも、ここ数年使ったことはないといった。

 ベッキーが腕を振るったのは、本格的鍋料理。

 具材は豊富。白菜、ニンジン、大根、えのき、ネギ、シイタケ、豆腐、カシワ、つくね、それに僕の知らない野菜がどっさり。締めくくりは、おじや。 

 具だくさんの料理は、味覚テストも兼ねていた。でも幸いなことに、梅昆布茶に匹敵するものは何もなかった。

 ベッキーの本当の目的は、食後にあったようだ。

 熱いほうじ茶に、息をふうふう吹きかけながら、さり気なく切り出した。

「むかしからそうなんだけど、ひとつの鍋を囲むと、お互いの結びつきが強くなるような気がするの」

 カモシンとガウチを見ながらだったが、間違いなく僕に向けられたもの。

 ベッキーの心理が分かっていた僕は、途中を省いた。

「お願いがあるんです」それからつい先ほど確認した壁時計に目をやった。

「まだ、六時です。できれば今夜中に見つけ出したいんです。僕と皆さんとの出会いの意味を」


 今度の予想は、当たった。

 ガウチの質問は、やっぱり携帯電話からはじまった。

「名義人は、どなたなのかご存知ですか?」

 僕は名義人の意味が分からなかった。するとガウチは質問を変えた。

「携帯を手渡された日を覚えていますか?」

「日付は忘れましたが、管理人を引き受けた日でした。四年ちょっと前です」

「どなたにですか?」

「おじいさんと、おばあさんです」

 ガウチが首を傾げたので、急いでつけ加えた。

「あのアパートのオーナーです」

 でもガウチの表情は変わらなかった。

「受け取った場所は、どこでしたか」

 細かい質問の連続。でも気にならなかった。気分を害することもなかった。確認のとれる記憶をたどれば、失った記憶にたどり着く。質問の主旨がダイレクトに伝わってきたからだ。

「駅裏の不動産屋です」

「……なるほど」

 僕から視線を外したガウチは、何度もうなずいたが、納得とは逆の表情だった。

 そりゃそうだろう。ネットによると、僕の携帯の発売日は、六年前。同じ携帯を十年以上使っている人はいくらでもいるから、発売日は問題なし。

 だがそれに、オーナー夫妻を重ね合わせると、計算が合わなくなる。オーナー夫妻の命日は、その二十年以上も前。それだけではない。不動産屋があった場所に、高層マンションができたのが十二年前。

 この状況をスーパーコンピューターに放り込んでも、答えが出ないことは算数が苦手な僕でもわかる。 

 でもこれまで一度も通信不能に陥ったことはない。誰かが電話料金を払っているからだろう。だいいち、毎月七万円もらっている。

 だとしたら、僕が会ったあのふたりは何者なんだ。電話料金を払っているのは、給料を郵便受けにいれるのは、誰なんだ。

 ふと思いついたことがあった。

「おじいさんとおばあさんに、子どもはいなかったんですか?」

 一瞬の沈黙のあと、ガウチの視線が、ゆっくりと戻ってきた。

 その目を見た瞬間、悟った。

 バーシュウレインの三人も、僕と同じことを思っている。


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