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『カモシン。ガウチ。ベッキー。ニックネームの由来』  バーシュウレイン視点

「それって、封印を解けっていうことよね?」

 エメラルドが確認するように訊くと、黄色地のブラウスに、戸惑いの表情が浮かんだ。

「そこまでは言っていないけど、それに近いかな。でも裏付けなんて何もないの。ふと思っただけ……」

 自信なさそうに語尾を濁したが、目には確信のようなものが宿っていた。

「わかったわ。じゃあ、はやくつづきを聞かせて」

 エメラルドが促すと、黄色地のブラウスは、パソコンに顔を向けた。

「さっき、検索したでしょ。私たちが、むかし使っていた口癖を」

「ああ、あれね。カモシン、ベキ、チガウ」

 即座に返ってきた反応に、黄色地のブラウスの表情が和らいだ。

 唐突に話を始めたけど、私がこれから何を言おうとしているのか、ちゃんと分かっている。そう思ったからだ。

「たまにむかしの口癖がでるのは、珍しくないかもしれないけど、今日の場合、三人同時。しかも、だれひとりとして自分が言ったことには気づかなかった。あれは絶対に偶然じゃない。何か意味がある」

 そこで、頭の中を整理するために黄色地のブラウスが言葉を切ると、エメラルドがあとを引き継いだ。

「つまり、こう言いたいわけね。一連の出来事には、私たちが若かった頃の口癖が関わっていた可能性がある」

「そういうこと」黄色地のブラウスは、うれしそうな声でつづけた。「突然の口癖は、ニックネームを復活しなさいのサイン。チクリ光線をはじめとする一連の出来事は、いくつかの条件が重なった時に起きた現象。それに新しいものが加わることによって、これまでとは違う現象が巻き起こる。こんな推測は強引すぎるかしら」

「なるほどね。試す価値はありそうね」大きくうなずいたエメラルドは、少し間を置いてから口を開いた。「ニックネーム封印の採決の時、反対したのは私だった。で、その考えは今も変わらない。ということになると」と言ったところでエメラルドは、ルビーに視線を向けた。「ここで採決すれば、ニックネームの復活は決まったようなものなんだけど、ガウチは、どう思うの?」

 ガウチ、とむかしのニックネームで問いかけられたルビーは、それを待っていたかのように、にこっと微笑むと、冗談めかした口調で返した。

「もちろん私めも大賛成でございますよ。カモシン大先生さま、いますぐ解除命令を」

 

 カモシン。ガウチ。ベッキー。

 バーシュウレインの最高幹部の三人が、ニックネームで呼び合っていたのは、三十数年前のこと。

 カモシン。それは、いまエメラルドのブレスレットを付けている彼女。口癖の、かもしんない、がニックネームの由来。ちなみに、ラッキーカラーはグリン系。

 ガウチは、ルビーの指輪をしている彼女。違う違う違う、反対意見を唱えることが多かったから、最初のころはアマノジャクと呼ばれていたが、あからさますぎるという本人からの申し出を検討した結果、ガウチに変更。ラッキーカラーは赤系。 

 ベッキーは、いま黄色地のブラウスを着ている彼女。ニックネームは外国人風。でも、顔立ちは純和風。なになにすべき。物事を決めつけたがるところから、ベキベキと呼ばれていたが、いつの間にか、ベッキーに。ラッキーカラーは、イエロー。


「では、封印解除を祝して」

 カモシンがワイングラスを持ち上げようとしたとき「ちょっと待って」と言ったのは、ガウチ。

「ね、ね、ね、乾杯は後回し」

 忙しそうな声でそう言いながらワイングラスを置いたガウチを、他の二人はこんな思いで見つめた。

 ニックネーム解禁になったとたん、むかしのガウチに戻ってしまった。

 しかし、そうではなかった。

「私だけかしら」ガウチは首を傾げると、右肩の辺りを手のひらで撫でた。「こっちの方だけ、異常に温かいの」

「異常?」ベッキーが心配そうな声で言った。「痛みがぶり返してきたってこと?」

「ううん」ガウチは笑顔で首を振った。「心地良いの。右半分だけに太陽が当たっているみたい」

「太陽なんて、とっくのむかしに見えなくなっているわよ」と言って、窓の外に視線を向けようとしたカモシンの体が、ビクッと震えたのと「あ、私もそうだわ」とベッキーが言ったのは、ほぼ同時。

 それを目撃したガウチは反射的に壁時計に目をやった。

 午後九時。

 その時刻を記憶に刻み込んだ時、ガウチは自分の体の右半分が、真西に向いていることに気づいた。


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