表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/129

『シロワンミ氏と僕たちを繋ぐ糸口?』 管理人側視点

 その時の僕は、バーシュウレインの三人も僕と同じ考えだと思い込んでいた。

 これからはじまる会話は、あなたとこうやって会うのは、今日が最初で最後ですからね。そのことをはっきりシロワンミ氏に伝えるため。

 ベッキーはそれを短時間でやってのける。それが終わると僕たちは、食事なしでこの店を去る。そんな段取り。

 しかし、伺いを立てるようなベッキーの声で、彼女たちと僕には違う部分があることに気付いた。

「わたしたちに頂ける時間は、どれくらいありますか?」

「それは気になさらないでください」シロワンミ氏は笑顔で答えた。

「ありがとうございます」

 感謝の礼を述べたベッキーは、そのまま身を乗り出すと、当たり障りのないような質問をした。

「幼いころから、民話に興味があったのですか?」

 するとシロワンミ氏の表情が強張った。

 あれっ、聞こえなかったのかな。そういえばさっきの電話で、何度も聞き屋をケーキ屋といっていたよな、と思っている途中で彼は、急にうつむいてしまった。

「どうかなさったんですか?」

 ベッキーの問いかけに、シロワンミ氏は消え入りそうな声で答えた。

「結果的に、皆さんを騙してしまったようですね」

 え?

 予想外の言葉。僕はベッキーとカモシンの様子をうかがった。しかし、二人の横顔に戸惑いの表情を見つけることはできなかった。

「その理由を教えていただけませんでしょうか」

 騙してしまった、の部分を省略したベッキーに、シロワンミ氏は言葉を選ぶようにして答えた。

「さきほどの電話で、郷土史家、といいました。でも正確に言えば、あれは嘘になります。郷土史家のようなものを目指している、というべきでした。申し訳ありません」

さらに頭を下げるシロワンミ氏に、ベッキーは明るい声で応じた。

「そのことでしたら、ご心配なさらずに」そのあと優しい声でこう付け加えた。

「我々四人、最初からそのように理解しておりましたから」

 車の中でそんな話は出なかった。席順と、最初の飲み物は相手に合わせます、の二点だけだった。でもカモシンとガウチがうなずくのが見えたので、僕もそれに合わせた。

「これでやっと、落ち着くことができます」

 ほっとしたような表情を浮かべたシロワンミ氏が、残っていたウーロン茶を飲み干したところで、ガウチが僕に声をかけてきた。

「別の飲み物を持ちしましょうか」

 いつのまにか僕のグラスは空になっていた。

僕の二杯目は、もちろんコーラ。最初ウーロン茶のシロワンミ氏は、ジンジャーエール。体に良いものを、が合言葉のひとつのバーシュウレインの三人は、植物性繊維豊富なホットココア。

 その時点で僕たちは正式な自己紹介をしていなかった。僕はコーラを待ちながら、さり気なくシロワンミ氏を観察してみた。

 年齢は七十歳前後。身長は175センチより少し高め。年齢の割には引き締まった体型。片方の耳がつぶれている。ひょっとすると、柔道の有段者。でも、優しい目をしている。

茶色系で統一されている服装のほとんどは、ユニクロ。

このあたりまでの僕は、僕たちとシロワンミ氏がつながっているなんて、夢にも思っていなかった。

「民話の指導を受けていらっしゃる先生は、どのような方なんですか?」

 ココアで喉を潤したベッキーが、ゆっくりとした口調で訊ねると、シロワンミ氏は苦笑いを浮かべた。

「先生なんていません。すべて自己流です」

 そこまでは、コーラをちびちび飲みながら話を聞いていた。

「この辺りに、民話は残っていません」

 この言葉はバーシュウレインの三人にも予想外だったらしく、僕と同じタイミングで動きをとめた。それに気づいたのか、シロワンミ氏は、あわてたような声でつづけた。

「江戸時代の終わりのころの大洪水で、ほとんどの古文書が消滅。そのとき難を逃れた古文書も、太平洋戦争の空襲によってすべて灰になった。そのように聞いています」

 それならそうと、最初からいえばいいのに。僕はそんなことを思いながら、テーブルに置いたばかりのグラスに手を伸ばした。

「残っていない民話を、どのような方法で収集していらっしゃるんですか?」

 的を得たベッキーの質問に、シロワンミ氏は背筋を伸ばした。

「後で誤解が生じないように申し上げます。わたし、好きでやっているわけではないんです」

 ベッキーはすこし首を傾げた。

「といわれますと?」

 居心地が悪そうな表情になったシロワンミ氏は、指先で頬を何度か掻いた。

「義務感のようなもの、と思ってください」

「義務感?」

 つぶやくようにいったベッキーは、しばらく沈黙した後、確かめる口調で訊いた。

「何か、特別な理由があるということですか?」

「はい」

 その質問を待っていましたというような顔で、大きくうなずいたシロワンミ氏は、なぜか周囲を見回した。

 六時前という時間帯のせいだろう。広い店内にいたのは、ほんの数組だけ。しかも、僕たちからずいぶん離れていた。にもかかわらず、シロワンミ氏は声を潜めていった。

「笑わないで聞いてくださいますか?」

 話を聞く前に、そんなことを言われてもなぁ、僕は心の中でツッコミを入れながら、他の三人と同じようにちいさくうなずいた。

「収集していません。浮かんでくるんです。でも、断片的なんです」

 その瞬間、僕に鳥肌が走った。しかし、僕以上に、衝撃を受けた人物がいた。

「ど、どのような、じ、状態で……」

 といったところで、ベッキーは、言葉に詰まったように、口をぱくぱくさせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ