『電話を待ちながら』 管理人側視点
ドキドキしながら発信ボタンを押した。
でも、空振り。三コール目に聞こえてきたのは、電子音のメッセージだった。
ただいま電話に出ることができませんの後、留守電に切り替わることもなく、後ほどこちらから連絡を差し上げます、で通話は終了。
「どうしますか? このまま待ちますか?」
胸のドキドキはつづいていたが、冷静を装って訊ねた。
「そうですねぇ」カモシンは壁時計にちらりと目をやった。
「かかってきたとき、電話に出る。あとは流れに任す。それでいきましょう」
すると、すかさずベッキーが、カモシンに声をかけた。
「ちょっと気になることがあるんだけど……」
「わたしに?」
「そう、あなたに」そのあと、言いにくそうな声でつけくわえた。
「ぶり返すわけじゃ……ないんだけどね」
カモシンはすこし首を傾げた。
「ぶり返す?」
「あのとき、声だけ女っていったわよね」
カモシンは考える目になった。
「あ、あのことね。いった、いった。でも一回だけだったわよ、声だけ女といったのは」それからカモシンは、怪訝そうな顔をベッキーにちかづけた。
「それが、どうかしたの?」
「ここを見てほしいの」
ベッキーは、サイドテーブルのノートパソコンを開くと、カモシンに向けた。
いつの間に電源をいれたのか、画面はすでに立ち上がっていた。
「ここよ、ここ」
画面の中央あたりを指さしているようだが、僕からはノートパソコンのロゴマークしか見えなかった。
「その、声だけ女が、ここに載っているの、ほら」
「え? 女の子の顔が?」
「違う違う」ベッキーはあわてて首を振った。
「文字だけ」
「なによ、もう、期待させるようなこといわないでよ」
といいながらパソコンに顔をちかづけたカモシンは、すぐに怒ったような声をだした。
「なによ、これ、声だけオンナの大暴走?」それから横目でベッキーを睨んだ。
「わたしが聞いた声と、どんな関係があるっていうの?」
ベッキーは力なく首を横に振った。
「いまのところ、はっきりしたことはいえないんだけど……」
語尾を濁したままベッキーは、僕に顔を向けた。
「ここからは、ちぎれ雲さんにお訊きします」
板チョコ半分を口にいれたばかりの僕は「「ち、ちょっと待ってくださいね」といって、急いでそれをかみ砕くと、一気にコーラで流し込んだ。
「先日、浮かんできた映像の中に、ちょんまげロボットがありましたよね」
真顔でいきなりいわれて、むせそうになった。そんな映像なんてなかった。どこから出てきたんだ、ちょんまげロボット。
「なんですか、その、ちょんまげロボットって」
びっくりしたような表情は、ベッキーだけではなかった。バーシュウレインの三人は、不思議そうな目を僕に向けた。
「おぼえていらっしゃらないんですか?」
ベッキーが心配そうな声でつぶやいたとき、あ、そうかと思った。なにかのゲームがはじまったのだ。これは、さっきの電話がかかってくるまでの時間つぶし。
しかし、その考えをすぐにひっこめた。三人の顔から表情が失われていくのが見えたからだ。
でも、僕に落ち度はない。彼女ら三人、同じ勘違いをしているだけ。
たしかに僕が見た映像の中に、ちょんまげをつけた人物がでてきた。でもロボットではなかった。志村けんだった。バカ殿の扮装をした志村けん。共演者は、アニメの女の子。虎柄のラムちゃん。
その時点の僕は、そんなふうにガチガチに思い込んでいた。
どうすれば、三人の勘違いを正すことができるのだろう。
そんなことを考えていたとき、ウエストポーチの中に、決定的証拠が残っていることに気がついた。




