終章
ミヒャエルの情報で、ルドベキアの残党は捕縛されることとなった。
これが最後の戦いになればいいと、パーシヴァルは言う。アンネリーゼもそれを願い、彼の帰りを待った。
捕らえられたものの中には、ケイオスを殺した者もいた。
彼らは『ケイオスを守るように、赤い巨大な熊が現れた』と証言している。
アンネリーゼが小鳥たちに尋ねたら、小鳥たちは『リゼットを守るのが、役目』と教えてくれた。
そして『間に合わなかった』『ごめんなさい』『助けられなかった』とも言っていた。
精霊たちも万能ではない。できることもあれば、できないこともあるのだろう。
だが精霊たちのおかげで、ルドベキア兵はケイオスからリゼットについて聞き出せなかった。
リゼットは──本当に、皆に助けられて生きているのだと、あらためて感じた。
ルドベキアの残党は捕らえられ、トルクメニアの民を搾取していた者たちはもういない。
失われたものも多いが、得られたものも多くある。
ルドベキアの残党を探し出していたために、予定よりも長く時間がかかってしまったが、無事に城に帰還したパーシヴァルとアンネリーゼは正式に結婚することになった。
城の敷地にある、荘厳で広大な神殿のような礼拝堂である。
アンネリーゼは婚礼着を身に纏い、パーシヴァルの隣に並んでいる。
レイチェルやミドラー夫人、イザベラがアンネリーゼを祝福することで、他の貴族たちもアンネリーゼを受け入れている。
薬師としての功績だけではきっと足りなかっただろう。
皆がアンネリーゼを受け入れ、アンネリーゼもまた皆を受け入れた。
ほんの些細なきっかけで──すこしずつ色々なことが変わっていく。
「アン、ここまで長い道のりだった。あらためて──俺の妻となり、ラングフォードや周辺諸国に平和をもたらすための支えとなって欲しい」
皇国の主神である女神像と、最高司祭の前で、多くの貴族たちに見守られながらパーシヴァルは厳かに誓いの言葉を口にする。
「俺の、アン。アンネリゼット・トルクメニア・ワーグナー。俺は──君に生涯変わらぬ愛を誓う。君は過去、俺を救い、そして現在も俺を救ってくれた。君の傍でなら、俺は呼吸をすることができる。愛している、アン」
アンネリゼット・トルクメニア・ワーグナー。
アンネリーゼの新しい名だ。アンネリーゼでもなければ、リゼットでもない。
過去も現在も全て含めて、自分自身だと、今は思う。
形式的なものではない、確かな熱の籠った言葉だ。
ここまで長い道のりを歩んできた。けれど、彼との人生はこれからはじまるのだと、アンネリーゼは──アンネリゼットは、パーシヴァルの精悍な顔を見あげて微笑んだ。
「はい、もちろん。どんな嵐の中も、あなたと手を繋いで歩いていきましょう。私があなたの傘になり、あなたを包む優しい風になります。多くの民を守り、平和を実現し、そして──あなたが安らげる家庭を、二人で築いていきましょう」
婚礼の儀式が行われている神殿が、あたたかな拍手に包まれる。
自分の死を求めていたパーシヴァルも、誰かのために犠牲になることを厭わなかったアンネリーゼも、もうここにはいない。
多くの困難が立ちふさがっていても、二人でならきっと乗り越えていけるはずだ。
レイチェルが立ちあがり「お兄様、お義姉様、おめでとう!」と明るい声で祝福する。
彼女に引っ張られてイザベラも立ちあがり、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑っている。
ミドラー夫人が涙ぐみ、ランディスがハンカチを渡している。
フュリアは祈りを捧げるように深く礼をして、護衛として静かにたたずむミヒャエルもまた、臣下の礼を捧げた。
属国とされたルドベキア三国は、元々の王たちの搾取が重なりかなり疲弊した状況になっていた。
パーシヴァルやランディスの指導の元、徐々に民主化の動きが活発になってきている。
やがてルドベキア民主主義共和国として、市政の中から新しい指導者が生まれてよく国を治めたという。
かつて血の皇帝と呼ばれたパーシヴァルは、解放王と名を残している。
そしてその傍によりそうアンネリゼットは、多くの子供に恵まれながら、薬師としても働き、ラングフォード・トルクメニア皇国の医学の発展に大いに貢献した。
彼女は生涯、星のように多くの命を優しく照らし続けた。
解放王の最愛は薬師の女神と呼ばれて、民たちから慕われた。
そう、吟遊詩人は今も各地で歌っている。
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