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あの時 満開の桜の下で私たちは  作者: 綾瀬 桜


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迫り来る時 美幸side

 奈月と別れて一人で歩く道は、いつもより色が乏しい気がして。ひんやりと吹き抜ける風に、心を持っていかれそうになる。

 奈月が……遠くなっていく。

 そんな寂しい気持ちを打ち消すように、地面を思いっきり踏み締めた。


 家に着いても、あんなに気になっていた本の続きを読む気分にもなれない。スマホを開いて、拓哉に連絡しようかとも考えたけれど、やっぱり辞めた。

 これは、私の問題だ。

 スマホをポイッと放り投げて、枕に顔を埋める。


 ……なんで、引っ越しちゃうのよ。

 まず最初に出てくる言葉は、どこにもぶつけようがないものだった。


 あなたが、奈月のそばにいてあげなくて、どうするの。

 まだ会ったこともない彼に、強く言ってやりたい。


 ……すっごく、好きなくせに。

 泣かせたくないくせに。どうしてよ。

 奈月だって、あなたのこと、好きなんだよ。

 ……もうとっくに、分かってるでしょ?


 私も、つらいんですけど。

 そう言って、彼に詰め寄ってやりたい。


 奈月が、あなたの為にいっぱい泣いてるの。

 奈月が、どんな気持ちで毎日いると思ってるの?

 一人で、ずっと……


 でも。

 彼を、完全に憎むことなんてできない。

 だって。彼が本気で奈月を好きなことは、私が一番知っているから。

 会ったことがなくても分かる。奈月の態度も。少しずつ教えてくれた彼との話も。

 全部が、彼の誠実さを。奈月に向けられた愛情の深さを。証明している。


 何より。

 奈月が好きになった人だから。

 憎むなんて、できっこない。


 でも。でもね。

 避けることができない別れを告げるより。もっと先にすべきことがあるでしょう?

 

 好きだよ、って。はっきり伝えてあげてよ。

 息もできなくなるくらい抱きしめて。安心させてあげてよ。

 それが。

 私の大事な人の心を奪った、あなたの責任でしょ。


 これから、あなたがどうするつもりなのかは分からないけど。

 奈月を傷付けるような真似をしたら、許さないから。

 絶対に、許さないから。覚悟してね?


 その代わり。

 あなたが奈月のそばにいられない間は、私が彼女のそばにいる。

 彼女をずっと、見守ってる。

 だから。

 なるべく早く、彼女の心を幸せで満たさせてあげて。


 ……私じゃ、駄目だから。

 それが、悔しくてたまらない。

 彼じゃないと駄目なんだ……


 なんて。私がこんなに沈んでどうするの。

 いつかは訪れるものなんだから。


 そう言い聞かせて、勢いよく起き上がった。


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