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あの時 満開の桜の下で私たちは  作者: 綾瀬 桜


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待ち侘びた季節美幸side

この作品は恋愛描写を含みます。苦手な方はご注意ください。

 じめっとした空気のせいか、冷たい紅茶を飲んでも頭がすっきりとしない。


 最近、奈月の様子がおかしい。

 そのことが、気になって仕方がない。

 大学に入学してから知り合った私たち。今思えば、奈月の性格にしては、不思議なくらいに早い段階で打ち解けた。いつしか一緒に授業を受けるようになり、自然と待ち合わせをして空き時間を一緒に過ごすようになった。今となっては、二人でいるのが当たり前になっている。

 それなのに。

 最近の彼女は、ボーッとしていることが多い。授業中も、私がどんなに彼女を眺めていたって、気付く気配がない。

 ……あれは、恋をしている女の子の顔だ、まさしく。

 うっとりしているかと思えば、急に切なそうな表情を浮かべて。頬を赤らめているかと思えば、眉間にシワを寄せて。見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、彼女は恋に落ちている。

 知り合って二年と少し。こんなこと、今までなかったのに。

 そりゃ、奈月だって女の子だもん。恋したって、何も不思議じゃない。でも。

 どんな人なの?

 そこまで考えて、再び紅茶に手を伸ばす。


「なぁ」

「ん?」

 向かいに座る拓哉が、ムッとした表情でこちらを見ている。

「何かあった?」

「別に。ちょっと考え事」

「それ、彼氏の部屋ですること?」

「うん」

 紅茶に伸ばしていた手を引っ込めて、立ち上がる。カーテンを少し開けて、窓の外を眺める。


 奈月って、どんな人がタイプだろう。きっと、優しくて、包容力があって。それでいて、あの子の感受性の高さを理解してくれる人で……

 って、これ。理想が入ってない? 私の。

 彼女が安心して恋愛できる、そんな男であってほしい。


「美幸」

「ん? ……んっ」

 振り向きざまに、キスをされる。

「ちょっと、何?」

「それはこっちの台詞。さっきから何考えてんだよ?」

「心配しなくても、他の男のことなんかじゃないよ」

「ふーん」

 向こうから質問しておきながら、たいして興味がなさそうな返事をされる。

「なぁ、俺たち、もうちょっと頻繁に会えない?」

「なんで?」

「なんで、って……」

 拓哉がわざとらしく大きな溜め息をつく。

「恋人なんだから、いいだろ」

「付き合う前に言ったでしょ? 自分の時間も大切にしたいって」

「……言ってた」

 彼の横を通り過ぎて、椅子に戻ろうとする。

「だったら、せめて一緒にいる時くらい」

「ちょっ……」

「俺のことだけ、考えてよ」


 ドサッ。

 勢いよく、ベッドに押し倒される。


「もっ……ちょっ」

 キスをされながら、服越しに体を触られる。

「やっ……」


 パシッ!

「いっ、てぇ……」

 彼の頬を思い切り引っ叩いて起き上がる。

「……今日は、そういう気分じゃないの」

「だったら、次いつ会える?」

「分かんない」

「だったら、今日やらせて」

「えっ……きゃっ!」

 また、ベッドに押し倒される。

「……んっ」

 いい、とも言っていないのに。続けられる。

「あっ……もうっ」

 手でガードしても、服がどんどんはだけていく。

「んっ……っ、やめ……っ、あっ」

 彼の手が……

 えいっ!!


「うわっ!!」

 枕が、彼の顔に直撃する。

「……やめてって、言ってるじゃない」

 起き上がって、息を整える。

「だってさ……」

 彼が、明らかにしょんぼりした顔をしている。

「来週、また来るから」

「え?」

「だから、今日はやめて」

「……分かった」

 彼が、ベッドから立ち上がる。

「ごめん。顔、痛くなかった?」

 服を整えながら、尋ねる。

「大丈夫。けど、ちっとは手加減してよ」

「だったら、無理にしないでよ」


 あぁ、どうか。

 奈月の想い人が。

 彼女の気持ちを、何よりも優先してくれる人でありますように。


 窓から差し込む夕日に、そっと願いを忍び込ませた。


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