「全てを飲み込むもの」
ゼルクロノスは叫んでいた。
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
だが止まらない。
身体から伸びる無数の光。
それは戦場全体へ広がっていた。
空間を埋め尽くし。
次元を貫き。
逃げようとするゼルクロノスたちへ絡み付く。
「離せ!!」
「やめろ!!」
「くそっ!!」
悲鳴が響く。
だが光は止まらない。
一人。
また一人。
ゼルクロノスたちの身体が粒子へ変わる。
そしてゼルクロノスへ流れ込む。
吸収。
ただそれだけだった。
殺している感覚ではない。
奪っている感覚でもない。
存在そのものが一つへ集まっていく。
そんな感覚だった。
「違う!!」
ゼルクロノスは頭を抱える。
「俺はこんなことをしたいんじゃない!!」
しかし身体は言うことを聞かなかった。
もっと。
もっと。
もっと。
頭の奥で声が響く。
力を。
さらに力を。
足りない。
まだ足りない。
「黙れ!!」
ゼルクロノスは叫ぶ。
だがその声すら別の声に飲み込まれる。
何億もの記憶。
何億もの感情。
何億もの人生。
それらが一斉に流れ込んでいた。
あるゼルクロノスは英雄だった。
あるゼルクロノスは王だった。
あるゼルクロノスは誰も救えず絶望していた。
あるゼルクロノスは幸せな人生を送っていた。
あるゼルクロノスは最後まで戦い続けた。
全てが流れ込む。
全てが混ざる。
ゼルクロノスは膝をついた。
「ぐああああああああ!!」
戦場が揺れる。
宇宙が揺れる。
遠くの恒星が砕ける。
次元が歪む。
ゼルクルスはそれを見ていた。
傷だらけの身体で。
血を流しながら。
「止まらないか」
小さく呟く。
もう分かっていた。
誰にも止められない。
戦争は終わっていた。
勝者も敗者もない。
残るのは一人だけ。
その未来が見えていた。
「こんな終わり方かよ」
苦笑する。
周囲では次々とゼルクロノスたちが消えていく。
統一派も。
安定派も。
個々派も。
関係ない。
思想も。
目的も。
過去も。
未来も。
全てが一つへ吸い込まれていく。
ある者は抵抗した。
ある者は逃げた。
ある者は叫んだ。
だが結果は変わらない。
光に触れた瞬間。
身体が崩れる。
粒子になる。
そして消える。
「なんでだ!!」
「俺たちは生きてるんだぞ!!」
「ふざけるな!!」
怒号が響く。
ゼルクロノスは聞いていた。
全部聞こえていた。
だが何もできない。
止められない。
それが何より苦しかった。
「ごめん」
呟く。
「ごめん」
また呟く。
だが吸収は続く。
その謝罪に意味はなかった。
時間がどれほど経ったのか分からない。
数秒だったかもしれない。
数年だったかもしれない。
感覚は既に壊れていた。
気付けば戦場は静かになっていた。
何億といたゼルクロノスたちが消えていた。
残っている者は少ない。
数百。
数十。
そして。
最後には数人。
その中にゼクロスもいた。
ゼクロスは静かに立っていた。
逃げなかった。
叫びもしなかった。
ただゼルクロノスを見ている。
ゼルクロノスもゼクロスを見る。
言葉が出ない。
何を言えばいいのか分からなかった。
ゼクロスはゆっくり口を開く。
「結局こうなったか」
ゼルクロノスは俯く。
「ごめん」
「謝るな」
「でも」
「謝るな」
ゼクロスは強く言った。
「俺は今でもお前を友達だと思ってる」
ゼルクロノスの目が見開かれる。
「は?」
「だから余計に腹が立つ」
ゼクロスは笑った。
だがその笑顔は少し寂しかった。
「お前は俺たちを吸収した」
「……」
「許さない」
「……」
「でもな」
ゼクロスは空を見る。
「お前は最初から悪いやつじゃなかった」
沈黙。
ゼルクロノスの目から涙が流れる。
「俺は」
「知ってる」
ゼクロスは頷いた。
「力が欲しかったんだろ」
ゼルクロノスは何も言えなかった。
その通りだった。
力が欲しかった。
誰にも負けない力が。
何も失わない力が。
だが。
その結果がこれだった。
ゼクロスは小さく笑う。
「本当に馬鹿だなお前」
光が伸びる。
ゼクロスへ。
ゼルクロノスは慌てる。
「待て!!」
だが止まらない。
光が触れる。
ゼクロスの身体が粒子になる。
「ゼルクロノス」
最後の声だった。
「ちゃんと生きろ」
次の瞬間。
ゼクロスは消えた。
ゼルクロノスの身体へ流れ込む。
膨大な記憶。
膨大な感情。
全てが流れ込む。
ゼルクロノスは叫んだ。
「ゼクロォォォォス!!」
その声が宇宙へ響く。
そして。
残るは一人となった。
ゼルクルス。
最後の一人。
ゼルクルスは笑っていた。
「よぉ」
ゼルクロノスは震えていた。
「来るな」
「無理だな」
ゼルクルスは肩をすくめる。
「どうせ吸収される」
「やめろ」
「無理だ」
「やめろよ!!」
ゼルクルスはゆっくり歩き出す。
「ゼルクロノス」
その声は不思議と穏やかだった。
「お前は何も考えてない」
以前言われた言葉だった。
ゼルクロノスは目を閉じる。
「分かってる」
「だから考えろ」
ゼルクルスは笑う。
「これから先ずっとな」
光が伸びる。
ゼルクルスを包む。
身体が粒子になる。
「立てよ」
最後の言葉だった。
「俺たちを吸収したなら」
ゼルクルスの姿が消える。
「最後まで立て」
そして。
全てが終わった。
戦場には誰もいない。
残ったのはゼルクロノスだけ。
静寂。
音もない。
声もない。
誰もいない。
本当に一人だった。
ゼルクロノスは立っていた。
何億もの人生を抱えて。
何億もの記憶を抱えて。
何億もの感情を抱えて。
そして。
その瞬間だった。
身体の奥で何かが弾ける。
ゼルクロノスコア。
全てのゼルクロノス。
二つが完全に融合する。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!
宇宙が爆発した。
光が広がる。
次元を越える。
世界を越える。
別宇宙を越える。
その衝撃は無限の宇宙へ到達した。
ある宇宙では恒星が揺れた。
ある宇宙では空間が歪んだ。
ある宇宙では誰かが空を見上げた。
全ての別宇宙に影響が走る。
そして光の中心で。
ゼルクロノスは目を開いた。
身体の中に宇宙があった。
違う。
宇宙が身体の中に流れ込んでいた。
手を伸ばす。
そこに何もない。
だが。
宇宙から直接エネルギーが集まる。
無限に。
際限なく。
「……」
ゼルクロノスは理解した。
自分は変わった。
もう以前の自分ではない。
終わりと始まり。
宇宙と存在。
その境界そのものになっていた。
宇宙が終われば。
自分になる。
そんな確信があった。
誰にも負けない。
誰にも届かない。
最強。
無敵。
全宇宙の特異点となった。
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