LAST
色々と懐かしい夢を見ていた。
夢の中の私は、学園生だったり、宰相だったり、全てから引退した世捨て人だったりした。
ふむ。
今、私は起きているのか?
「何か、思い残す事は……ありませんか?」
傍らに立つのは……神父?
まるで最後の懺悔の時間が来たみたいだ……
家族が集められ、皆心配そうな顔をして私のベッドの周りに侍る。こうして見ると、意外と人数が多い。
アルバートが愛妻家で嫁のソフィアがそれによく応えたから、か……孫にも子が生まれて……人数も増える……
主治医は看護婦と共に壁際に待機している。オースティンの姿も……ある。
重苦しい空気。
あぁ、最期なのか。私の。
ふむ。
思い残す事、か……
「あれと……卒業パーティーで……踊りたかった……な……」
リリーは中途退学した為に卒業式そのものに出ていない。彼女と踊りたかった。美しい彼女と踊るのは、さぞ楽しかった事だろう。
娘とも。
あの日、私は朝から仕事で王宮に詰めていた。
前日の晩に、王太子の伴として式とパーティーに参加する旨、報告を受けた。
夜中にこっそり衣装部屋に忍び込んで、保管されていたドレスを見た。
深紅の生地に金糸でフォーサイスの家紋をモチーフにした刺繍が施された、美しいドレスだった。あの子ならば鮮やかに着こなすだろうと思った。
……せめて、あれを着た姿をちゃんと見ていれば良かった。
母親そっくりに育ったグレースは、人目を惹かずにはいられない艶やかさと優雅さを兼ね備え、各国の上層部を虜にしてきた。グリフォン帝国皇帝にまで気に入られたと報告があった時は驚いた。
もし、あの子に健全な精神が無ければ、男を手玉に取る稀代の悪女になっていたかもしれない。
公爵家令嬢として生まれ蝶よ花よと育てられ、どんな我儘も叶い、この世のありとあらゆる特権を手にする───だが、母親とは早くに死に別れ、父親は彼女の言う事を叶える臣下、兄とは没交渉。果たしてこんな幼少期を過ごしてマトモな人間になっただろうか?
賢さを早くから発揮したあの子は、親を必要としなかった。早くから自立し、自分のしたい事、出来る事と出来ない事をよく理解していた。あの子は本当の意味で奇跡の存在なのだ。
誰にとってもあらゆる意味で影響を与える存在……。
それがグレース・フェリシア。
波乱万丈の人生を己の才覚で掴み取った。
私の自慢の娘。
「父上……」
何を泣いているのだ、この息子は……いい歳をして、みっともない。親が死ぬくらいなんだ。
「……じーさんのお前と 踊っても つまらんだろ?」
「……父上ぇ……えぇ! えぇ! 私は孫もいますからね! じーさんですよ、間違いなく! グレースは何時までも歳をとりませんけどね!」
そう。思い出の中では、歳を取らない。変わらず、色褪せない。
でも。
恐らくきっと……あの健全な精神と不屈のバイタリティを持った私の娘は……
何処かの空の下に……58才か……
……それなりの婆ぁ だなぁ……
リリーが亡くなったのは25だったから……50以上になった姿なんて想像出来ない。
「父上ぇ……なにニヤニヤしてるんですか?」
全く、こんな時にとブツブツ文句を言う息子。クスクスと笑うその妻。場が和やかな雰囲気になった。
先程までの張り詰めた重々しい空気は消えている。
ふむ。この方が良かろうよ。
確か……笑う門には福来る、だったかな……
なぁ? グレース。
そんな『諺』とやら言うものがあるのだろう?
「ひーじーさま、たのしいことがあったのですか? わらってますー」
可愛らしい声で曾孫が問う。名前は、なんと言ったかな……
そう、たしか ブライアン
我がフォーサイス共和国の明日を担うに相応しい名前だ……
友だち100人は……
大変だぞ……?
あぁ、リリー
来てくれたのか
ずっと、
ずっと君に会いたかったんだ
君に褒めて貰いたくて頑張って来たんだよ
私は、頑張っただろ?
娘を守りきることは、ごめん、出来なかったけど
あの強運に恵まれた子は
自らの手で自身を護る者を選びとった
その秘密は
私もちゃんと守ったんだ
褒めてくれるよね?
『会いたかったわ、サイモン』
俺も お前に───────
馨しい百合の香りが、した。
「帝国暦806年6月16日、午前8時59分、 ご臨終です」
【フォーサイス公爵の走馬灯・完】
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