4
目が覚めた。オレの食事タイムだ。腹が減って自動的に目が覚めてくれる。時に便利でまた不便でもあるが…。
「いつもと様子が違う!」
オレはもそもそっと大石の裏側から這い出るとまわりを見渡した。
「これはどう言う事だ?この家中が真っ暗だ!」
…いや一ヶ所だけ明るくなっている所がある。それは門灯でも外灯でも家の窓でもない。ベランダの手すりからやや下方だ。そこだけがやけに明るい。どんな動物も変化に対する反応、興味は強い。特に弱小動物というのはその変化が直接自分の生死に関わってくるので最も強い部類に入る。
悲しい習性でオレはついついその明るい方へと向かって壁を登りはじめた。
外灯は壊されて以来明かりがない。昨日までついていた門灯も今日は故意なのかどうなのか分からないがじっと暗闇の中で息をひそめた様だ。気のせいか家の中まで静かなもので、おまけに窓からの明かりももれてこない。
これではエサとなってくれる蚊など寄ってこないじゃないか!どうしてくれるんだ!!と誰に腹を立てるわけでもなくプンプンとしてオレはそのたったひとつの明るい所へと登った。
今まで見たこともないものが壁に取り付けられていた。
”これは一体何だ?”
オレはこの何とも知れないものに一層興味をそそられた。無論、明かりに群がる蚊の飛び交う様にオレのノド(?)はグルグルっとなりっぱなし。おまけに口中に生唾がどっとわいて来たことは言うまでもない。
懐中電灯を固定しその明かりの真下に何やら紙の箱のようなものが置いてある。その箱のまわりをブンブーンと蚊の群れが飛び交っているのだ。この作品は例の父子だ。という事は?これはオレを捕まえるための罠?! オレはもう少し近寄ってみた。
すると、これはもう何とも言えずいい香りがしてくるではないか!
どうやらこの紙の箱から匂ってくるようだ。まるでこの匂いを嗅いでいると体中がいい気持ちになって何でも出来る最強のハ虫類(スーパーやもり!)という気持ちになってくるから不思議だ。オレは飛び交うエサをパクパクと食い始めた。生まれてこのかた、こんないい気分で食事が出来るなんて。こいつは最高だ! いつしか気付かないままに紙の箱に近づいてしまっていた。
『ニャーオ!』
オレの夢気分を破ったのはミャーゴの鳴き声!ベランダの手すり越しにやつの目がキラリと光っていた。
いっぺんに目が覚めた気分でオレがこの作品の下側へ潜り込むのと、ミャーゴが飛び降りて来るのがほぼ同時だった。
懐中電灯はもちろん例の紙の箱と、それらを支えていた枝切れがヤツの重みに耐えかねて崩れた!
”バリッガチャッ”
地面へ突き刺さるように落下した懐中電灯の明かりが消え、辺りは真っ暗闇になった。オレはもちろん必死に枝切れの裏側にはりついていた。
『ニャーオ!』
ミャーゴの悔しそうな鳴き声。
その時暗闇の世界にパッと明かりがさした。窓に明かりがともり門灯もついた。
そして今まで静かで物音すらしなかった家の中でゴソゴソと動き出す音もしだしたのだ。
ベランダの出入口のドアがバタン!と開いた。オレはとっさに壁へとはりつき、窓の雨戸の戸袋の中へと滑り込む。
『くっそぉ~~~~!あの猫だ。僕の仕掛けをつぶしやがったぁ!!』
悔しそうな坊主の声がしてきた。
「オレも危うい所だったが。フン!ざまぁみろ!!」
オレは戸袋の中から叫んでやった。その後こんな事しか出来ない自分がみじめな気持ちになって暫くは動く気もしなかった。
”今夜の食事は最高だったなぁ”そう思う事にしたのは夜も明けかけた頃だった。
そしていつものように夜明けとともにオレのまぶたが重くなり眠りの誘いに負けたオレはいつしか我を忘れていた。
雨の降る音がする。ポツン!ポツン!と。やがてザーッと振り出して世界中がその音に満ち満ちた。
今夜まで降り続くのか?眠りながらもオレの五感は動き続けているようだ。