第十五章 西国平定戦(毛利征伐)
山崎合戦の勝利から数週間後、安土城の政庁には新たな緊張が走っていた。
毛利家――西国最大の勢力が、光秀討伐後の織田家の動きを警戒し、備中・備後の国境に兵を集め始めたのだ。
柴田勝家が報告する。
「殿、毛利家は未だ大軍を保持しております。
吉川元春、小早川隆景の両川が健在。
このままでは西国が不安定にございます」
信忠は静かに地図を見つめた。
毛利家は強い。
だが、信忠は「戦って勝つ」よりも「戦わずして従える」道を選ぼうとしていた。
「勝家……毛利家を討つのではない。
毛利家を“織田幕府の一部”にするのだ」
勝家は驚き、そして深く頷いた。
「殿……それは、戦国の常識を覆す策にございますな」
信忠は微笑んだ。
「戦国の常識は、もう終わらせる」
■外交の一手
信忠は毛利家へ使者を送った。
使者は織田家の新しい政策――
街道整備、湊の管理、南蛮貿易の改革、鉄砲外交――
これらを丁寧に説明し、毛利家が織田幕府に従うことで得られる利益を示した。
「毛利家が湊を開けば、瀬戸内の物流は倍増する。
鉄砲の供給も安定し、南蛮貿易の利益も増える。
戦を続けるより、従う方がはるかに得だ」
使者の言葉は、毛利家の重臣たちの胸に響いた。
隆景は静かに言った。
「信忠殿は……信長殿とは違う。
戦ではなく、国を動かすお方だ」
元春は腕を組み、唸った。
「だが、毛利家が従えば、西国の独立は失われる」
隆景は首を振った。
「独立よりも、民の安定だ。
信忠殿の天下は、戦国の乱を終わらせる天下だ」
毛利家は揺れ始めた。
■軍事の一手
外交だけでは足りない。
信忠は同時に軍を動かした。
「勝家、備前・備中へ進軍せよ。
ただし、戦はするな。
毛利家に“織田家はいつでも動ける”と示すだけでよい」
勝家は笑った。
「殿……それは戦より難しい策にございますな」
「だからこそ、勝家に任せる」
勝家は一万の兵を率いて備前へ進軍した。
だが、城を攻めず、村を荒らさず、ただ整然と街道を進むだけだった。
毛利家は驚いた。
「織田軍が来たのに、戦わぬ……?」
「これは……脅しではなく、示威か……?」
「信忠殿は、戦を望んでおらぬ……?」
毛利家の動揺は、外交の効果をさらに高めた。
■毛利家の決断
数日後、毛利家から正式な返書が届いた。
「毛利家は織田幕府に従い、西国の安定に協力する」
信忠は静かに頷いた。
「これで西国は安定する。
戦わずして天下を治める――
これが、織田幕府の力だ」
勝家が深く頭を下げた。
「殿……毛利家を戦わずして従えたお方は、殿だけにございます。
信長様を超える天下人にございます」
信忠は天守から西国の方角を見つめた。
「父上……私は戦で天下を取るのではなく、
戦を減らして天下を治めます。
これが、私の天下です」
瀬戸内の海風が安土城を静かに揺らした。
西国平定――
それは、織田信忠が“戦国の終わり”を告げる大きな一歩だった。




