参話 ヨウコソユウエンチ
土曜日の朝。楽しみなはずなのにずっしりと重たくなった心で目が覚めた。
重い体を起こしてベッドから降りる。
力を入れるにつれて、ギギギッときしむ音を奏でる。
心ここにあらずといった状態で俺は出かける支度をしていたようだ。
気づけば俺はもうドアの前に立っていた。いや、確かに記憶はある。
だが、その時はただ無心だった。
無心―いや無心とも違う。ずっしりと重い何かに縛られていた。
この一歩を踏み出すのにどれだけの勇気がいるだろうか?
この一歩を踏み出して歩めば、関係は悪化するかもしれない。
遊園地。何故か、何かが起きる気がする。
俺の杞憂だということを望むが...
俺は空っぽだ。
こんな絶好な機会だというのに、関係の崩壊を恐れるばかりで香苗との距離をさらに知事目用とは考えていないんだから。
俺の意思は何処に行ったのだろうか?
俺は今、とても苦しい。
▲▽▲▽▲
土曜日の朝。楽しみだけれども緊張のある心でいつもより少し早くに起きた。
ドキドキと今から鳴り響くのを感じながらベッドから降りる。
いつもは不快に思うギシギシというベッドの軋む音も祝福に聞こえる。
ルンルンとした弾むような気持で朝出かける支度をした。
鏡の前で長い時間自分と格闘をしても行く分か時間が残っていた。
その間、ずっとドキドキとなり響く心臓を聞いていた。
これが彼への私の気持ちの表れというのならば、心地よいいい音にも聞こえる。
この一歩を踏み出すのにどれだけの勇気がいるだろうか?
この一歩を踏み出して歩めば、もう後戻りはできない。
遊園地。その単語を聞くだけでドキドキしてしまう。ちゃんと言えるかな?いい答えがもらえるかな?
でも今はそれを考えるだけでも、とても楽しい。
▲▽▲▽▲
土曜日の朝。もう何もかもが嫌な気分だ。
もういっそのこと全部壊してしまおうか...でも、関係を壊したくはない。
壊そうとしているのは私なのにね...矛盾してる。
私は何がしたいんだろう?親友と彼、私はどっちともを望んでいる。
でも、どちらともを叶えるなんてことは不可能なんだろう。
...今日の遊園地でどちらをとるか決めるしかないな。
▲▽▲▽▲
集合場所の駅の銅像に着くと、そこに立つ見知った人影を三つ見た。
もう全員が銅像にそろっていた。どうやら俺が一番最後らしい。
「ごめん、遅れたかな」
「いや全然!!ただ皆が速かっただけだぜ」
政宗は明るく元気にそう答える。
今はその元気さが俺の心に安らぎを与え、それと同時にイラつきを感じる。
その感情に気づいたとき、自分自身に自己嫌悪を感じる。
俺が今苦しいからといって幸せそうなやつをねたむのはお門違いだろう。
三人は俺が来ると銅像から離れて俺のもとへやってくる。
「それじゃあバス停いこっか」
香苗は明るい笑顔を俺に向けて皆に言う。
その笑顔が今は苦しい。
「あ、あぁ行こうか」
この銅像からバス停まではさほど遠くない。道路を渡ったすぐそこだ。
ならそのバス停を集合知にすればいいとも思うのだが、この銅像をよく使っているから癖や習慣のようなものになっている。
バス停まで四人でそろって移動する。
今日会ってから鈴音の声を聞いてなく、気になったため鈴音を見るが目が合わない。
鈴音は無表情で前だけを向いていた。何か考え事をしているようにも思えた。
何かがある気がした。今日、何かが起こるのか?何かをする気なのか?
その後バスが来るまで、とりとめのない会話をただ続けるだけだった。
その時は鈴音も周りに悟られない程度には、会話に参加していた。
でもその最中、鈴音は誰とも目を合わせなかった。
何を考えているのだろうか?いや、考えても意味はない。時は刻々とただ過行くだけだから。
今日行く遊園地、ぼさつの里への道のりはニ十分ぐらいだ。
だがこのたったのニ十分はバスの中で話をして、少しは心を落ち着けることができた。
どれが楽しみか、どれから周るかという会話をずっと繰り広げていた。
飽きることもなくずっと、ずっと。
そんな話をしている間にもう、ぼさつの里の入口へとバスが止まっていた。
ぞろぞろとバスに乗っていた人はおりていく、重い腰を上げて俺たちも降りて行った。
ぼさつの里の中に入園すると、初めに決めていたミミズジェットコースターへと一直線に行った。
ミミズジェットコースターは名前の通り、ミミズを模したジェットコースターで子供向けのジェットコースターだ。
子供向けというが意外と怖い。
乗る組み合わせはグッパで決めた。パーが俺と政宗、グーが鈴音と香苗。
乗ると後ろからは華やかな悲鳴が聞こえるが、隣からは野郎の太い漢らしい悲鳴が聞こえる。
うん。運わるいな。
まぁ、そんなことはどうだっていい。
問題はお化け屋敷だ。政宗は隠し設定に怖がりというものがある。もし、政宗と一緒になったら...腕に飛びついてくるのは政宗ということになる。
まぁ、誰であってもあれだがな。
鈴音だったなら気まずさで、お化け役の方がかわいそうだ(お化け役なんてものはいない)。
香苗だったなら腕に飛びついてこられても、うれしいが逆にやばい。
まぁ、だから誰だっていいんだがな。結局そう言う結論に落ちうる。
ジェットコースターを降りると、その足でお化け屋敷へと向かう。
「あのジェットコースター、子供用にしてはずいぶんと難しいよね」
「あぁ、360°回転するのは結構怖いよな」
先のジェットコースターの感想を各々述べつつ、歩く。その途中、またグッパで入る組み合わせを決めた。
パーが鈴音と政宗、グーが俺と香苗で、先に俺たちが入ることになった。
「わぁ、ドキドキするね~」
「あぁ、女の子と二人暗い密室というのにドキドキするよ」
「もうっ‼」
冗談を言ってそれに香苗が優しく怒る。
中は暗く、所々不気味に光っている。バンッと急に作り物のミイラが飛び出してきたり、冷たい煙が噴出したりしたときに、香苗はビクリと肩を跳ねさすだけで抱き着いては来なかった。
まぁ、普通はそうか。
俺たちが出た後、鈴音と正宗が入ったのだが...出て来た鈴音は変わらず心ここにあらずという感じで、そんな鈴音の後ろにビクビクしながら政宗はついて出て来た。




