弐話 ユガムココロ
翌日、木曜日の朝。
普段と同じように目覚まし時計の奏でる音で起き、カーテンを開けて日を浴びる。
いい朝...いや、そうは思えないな。学校へ行った時のことを思うと、心が重く感じる。
呼吸がいいようにできず、吸う息が重く感じた。
布団を出ることでさえ億劫だ。いや、それはいつもか。
だが、学校に行くための支度が進むたびに体がどんどん重くなっていく。
「どうしたの?元気ないようだけれども」
母さんは俺を見ると心配してそう言う。
あぁ、多分どこか壊れてしまったんだろう。でも、それを母さんに誰かに言うことはできない。
言ったら...いや、これ以上考えるのはやめよう。もっとダメになっていく気がする。
「何でもないよ」
俺は今、笑えているだろうか?もしかしたらぎこちなく笑っているかもしれない、もしかしたら困った顔をしているのかもしれない。
「そう、でも何かあったら私じゃなくてもいい。誰か信用できる人に相談してね...」
その心配が今は痛い。俺の罪悪感をさらに増加させてしまう。
あぁ、学校に行きたくない。
でも、行かないと。行かないと何も進まない。
靴を履いて、ドアを開けて外に出る。
「行ってきます」
静かに一言零して、学校へと向かった。
足が重く時間がいつも以上にかかる。教室のドアを開けるときもひどく重く感じた。
もう、俺の知る彼女達はいないかもしれない。
俺は今、どんな顔をしているんだろうな...
ガラリと扉を開けると、いつも集まっている政宗の机によく見知った三人がいた。
カバンを自分の席において、その場所へと俺も行った。
「おはよう」
香苗は俺が来ていることに気づき、ひらひらと小さく手を振りながら言う。
それによって、政宗と鈴音もこちらを見る。
「おはよ」
「あぁ、おはよう!!」
「お、おはよ」
政宗はいつも通り馬鹿元気そうな声で、鈴音は困ったような表情で詰まった声で言った。
あぁ、やっぱりそうなんだな鈴音。
「なぁ、清明!鈴音の様子が朝から少しおかしいんだ」
昨日の事から鈴音もずっと悩んでいたんだろう。後悔しているかは知らない。けれども、この関係を悲しんでいるのは同じだろう。
でも、ばれてはいけない。彼女と俺の過ちが...何も知らないそぶりをしないと。
「どうかしたのか?鈴音」
後ろにいた鈴音は少し驚いたような悲しいような表情をしたが、笑みを浮かべて「なんでもないよ」と言う。俺でも分かってしまうような作り笑いだった。
きっと、それを見た政宗と香苗は大丈夫ではないと思っているだろう。
バレない様にしないと...バレてしまっては、この関係が終わってしまう。
壊す原因を作ったのは自分なのに、壊したくないと思っている。
きっと、俺はずっとこのキモチを抱えるんだろうな。
未だ壊れそうにない...このまま何も起こらなければいいのだがな。
チャイムが鳴り響きガヤガヤとしていた教室は静まり、己の席へと座る。
朝のSHRも授業中も内容が全くもって頭に入って来なかった。
ずっと昨日の事、これからのことを考え続けていた。
だがそれがずっと続くだけで何も変化は起こらない。いや、変化は十分に起こっているか。でも、悪化はしなかった。
そのまま金曜日の夜がやってきた。
チャットアプリLIMEのグループでは、明日を楽しみに心待っているのが文面からも伝わってきた。
その文章を読むたびに、返信を打つたびに体の内を握られるような感覚だった。
時計の短針が11を指したごろ、政宗が「明日のためにそろそろ寝よう」と送ってきたため「おやすみ」と送り、スマホを充電器にさし、布団にもぐった。
静かにしているからかドクンドクンと心臓の波打つ音が聞こえる。
明日、鈴音がどう行動するかによってこの関係は変化するだろう。
鈴音が何もせず、ただ楽しむのを祈り眠ることしかできなかった。
▲▽▲▽▲
LIMEに表示されるチャットはひどく私の心をかき回す。
見るからに楽しそうな吹き出しがポンポンと出現してくる。
その吹き出しは香苗のアイコンから出ている。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
やめて!!楽しそうに幸せそうにしないで!
香苗は清明くんに告白する気なんだ。そしたら、そしたら...
そしたら、清明くんはきっと香苗を選んでしまいそうだから。
薄々、分かっていたよ。 清明くんも香苗のことが好きだってことぐらい。
ずっと清明くんを見ていたら分かるよ。
でも、私も清明くんが好きなんだ。諦めれるわけない。
どんな手を使ってでも......たとえ、この関係が崩れ去ったとしてでも。
▲▽▲▽▲
あぁ、楽しみだなぁ。でも、すごく緊張するし不安もある。
明日、私は清明くんに告白するんだ。
でも、もし断られたらどうしよう...断られたらきっとこの関係も自然に終わってしまう気がする。
終わらせたくない。でも、進むためには必要なことなんだ。
ずっとこのままなんて無理だよ。だって、私は清明くんを愛してしまったから。
もし、他の人に取られなんかりしたら...何をしてしまうかわからないなぁ。




