第15話 ダーク、娼館で外道
「いらっしゃいませ……え?」
入口のドアを開けた瞬間、おうっふ! 異世界えぐいぜ! めちゃくちゃ肌色多めだな。ビキニとかエッチな下着はないんだね。薄いタオルで胸をまいていたりするんだ。これはこれでイイ!! 女の子にさりげなく熱視線を送っている俺に気付いたローナが思い切り腕をつねってくる。何だよお前?
金髪のお姉さんが笑顔で迎えてくれたけど、俺を見た瞬間ちょっとだけ気味悪そうな表情を浮かべてた。ま、無理もないか。上から下まで真っ黒だもんな。店内にたくさんいるお客さんも頭を振ってる。お前らだって仮面だから気持ち悪いぜえ。
「……ペルケレ族にサテンカーリ族。そうか昨日の借金の件か」
どこからどう見ても、この人はいい人じゃないよねという人が俺に話しかけてくる。身なりはいいんだけど平気で人殺しをしちゃう目だよ。俺はビビって黙ったまま、そいつを見つめてしまった。
男はふっと目をそらすと、
「おいおい。あんたとやり合う気はないぜ。暗黒魔法を使われたんじゃ俺も無事じゃいられないからな。ま、座れよ」
と、椅子をすすめてくる。ローナは俺の後ろで隠れるように立っている。男の視線が怖いようだ。
お姉さんがやってきてビールをテーブルに置いてくれる。無関心を装いながらも、お姉さんの胸を念入りに確認した。すげえ、童〇には刺激的すぎるし顔も美しい。
ん? 何だ? 肩が痛え。ローナの奴、俺の肩に置いた手が鎖骨に食い込んでるぞ。おいおい、そこまで怖いのか? リラックスしろよ。
「俺は娼館を仕切ってるゲトリだ。お前の名前は?」
「……ダーク」
びびって、小さな声になっちまったぜ。
「で、借金は払えるのか? 銀貨243枚だったよな」
「無理だ」
予想通りだという顔つきでゲトリは舌なめずりしそうな顔で俺たちを眺める。正確に言えばローナだけどな。
「じゃあ、その子をかけて一勝負しねえか?」
ん? 何でこんなガリガリの、しかもサテンカーリ族をほしがるんだ? 店内にはナイスバディのお姉さんがいっぱいじゃねえか。俺は腑に落ちない展開のため黙っていた。その沈黙を破るようにゲトリはイスに座り直して口を開く。
「旦那はその子の価値をご存じでしたか……。さすがペルケレ族は抜かりがねえですな」
何だか勝手に想像して勝手に納得しちゃってるよ。でも、これはチャンスだな。
ローナ、合図を頼むぜと後ろを振り返ると、不安そうな表情を消して少しだけ笑顔を見せてくれた。奴隷として売られるかもしれないのにと良心が痛む。でも、やるしかねえ。
曖昧にうなずくと娼館主ゲトリは部下に金を持ってくるようにと手を挙げる。急いで奥の部屋に戻った手下が、バスケットボールくらいの大きさの麻袋を俺の目の前に置いた。ちらっと見せてくれた中には金色が輝いており、さすがにテンションが上がる。
「とりあえず金貨50枚(5000万円)分を用意させてもらった。それでいいか?」
俺の目がおかしいのか?
こいつにそれだけの価値があるとは思えない。その瞬間ローナが少しだけ胸を反らす。はる胸もないくせに! どうですかと言わんばかりの態度に少しイラッとさせられる。
黙ったままの俺を見てゲトリは手を挙げて部下に何かを命じていた。
「確かに少なかった。じゃあ金貨100枚(1億円)を出す」
俺は気持ちを押し殺して、ただうなずく。その一言でカードをすることが決定した。
「何のゲームだ?」
これを聞いておかないとマズイ。
「プリモビストだ。知ってるよな?」
「いや、初耳だ」
「じゃあ、あとでやり方を詳しく教えるぜ」
やべえ。訳のわからんゲームだと不利になっちまうぜ。内心の焦りを隠した俺のポーカーフェイスを眺めながら、ゲトリは話を続ける。
「その奴隷の値付けは金貨100枚だ。昨日の借金に利息を含めた金貨103枚を返してくれたら連れて帰りなよ。うちのゲームは10回が1セットだ。それを越えるまで終わることはできねえから気をつけな」
理解したと目で合図を送る。そうか10回だな。
「勝った場合は?」
鼻で笑ったゲトリは馬鹿にしたように言葉がぞんざいになる。
「いくらでも払うぜ。心配すんな」
そう言い放つと顎をしゃくって隣に控えていた男に合図を送る。背の高い上品そうな男が俺の前で一礼した。
「このディーラーとの1対1の勝負だ。ベット(掛け金を上げること)できるのは、ワンゲーム中に2回。勝てば掛け金の分だけ相手からもらう。降りる場合は相手の掛け金の半分を支払うってルールだ」
その後、ディーラーにゲームのやり方を聞いた。聞いていくうちに、俺はほっと胸をなで下ろす。何のことはないポーカーと同じルールだ。それなら、やり方が分からず不利ということはない。ローナの「占い」を信じるだけだ。
俺が理解したというと目の前の男は丁寧に頭を下げた。
「クレメッティと申します。コラリ村出身です」
ほう、コラリ村か。
「村長は元気か?」
「この前、モンスターに襲われましたが無事でした。本当に良かったです。村長は親戚なんで」
なるほどねえ。まあ、いい。さっそく、かますか。俺は机の上でいじっていたカードをクレメッティの方へ押しつける。
「さぞかし腕がいいんだろうな。例えばカードの上に5枚、仕込んだり……とか」
クレメッティは俺からカードを受け取ると無表情のままゴミ箱に投げ捨てる。
「カードはこちらで指定されたものだけ使いますよ。お客様、こちらの席へどうぞ」
部屋の真ん中にある一際大きな木の机に案内される。背中側にはカードができる机が4つ置かれているけれど遊んでる人はいない。俺の正面側には、お姉さんと酒を飲む席が6つほど設置されていて、3組の仮面紳士がお姉さんと会話を楽しんでいる。カウンターでは何人かがお酒を楽しんでいるけれど、常に横にお姉さんはいない感じか。
俺がギシリとイスに腰掛けた瞬間、クレメッティはカードを配り始めた。
ローナをかけたカードゲームが、ついに始まったのだ。




