ブリスベン五輪2032 満天の星
順調に代表となった4人は壮行会で口論となる。それを乗り越えて集大成となるブリスベン五輪に出場し大接戦となる。衝撃の結果が。 感動の最終話。
2032年 オリンピックイヤーになった。
世界陸上の惜敗をバネに冬季練習に取り組み、日本選手権を経て順当にオリンピック代表に選ばれた4人。
後日行われた五輪壮行会終了後、ちょっとしたことがきっかけで口論になってしまった。
結衣「私は3人とは違うの。だって10秒で走れるし。みんなは10秒で走れないのに児童養護出身といってメディアとかにチヤホヤされるのは正直どうなんですか?」
さくら「おー、ゆぃてぃー言ってくれるねぇ。私たちは施設や里親等の社会問題を広く知ってもらいたくて背負っている。好きで名乗っているわけではないんだよ!」
その会話を聞いていたいつもは温厚で紳士な朝倉が激怒した。
「結衣君いい加減にしないか! 100を10秒と言うがリレーのLAPは陽菜より遅い時もあるじゃないか。それに君はいつもスマートにゴールする。個人の100とチーム種目のリレーは違う。もっとチームの為に泥臭くできないか!! 最後の一押しが足りないのは、もしかしたら君の心かもしれないな」
朝倉の迫力と指摘に結衣は号泣した。
その姿の気の毒さに他の3人は声をかけられなかった。
すると近くで見学にきていた施設の幼児の一人が突然やってきた。
「ねーえ、おんぶしてよ」
「私でいいの?」
「お姉ちゃんがいいの~」
「でも私は施設じゃなくて...」
七海「大丈夫よ。施設出身とかどうでもいいから」
結衣は幼児の女の子を照れながらおんぶした。
純真無垢で喜ぶ女の子の姿に結衣の笑顔が戻った。
さくら「ウチら4人は代わりのない仲間だから。もう一度一緒にオリンピック目指そう」
ポンと結衣の肩をたたいた。
結衣「うん。本当にごめんなさい。一緒に頑張ろう」
ついに4人は心が一つになった。
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2032年9月
豪州・ブリスベンでオリンピックがはじまった。
国民の期待は、4年前に比べても相当高く、今度こそはやってくれるだろうと女子短距離への注目度は高かった。
28歳の3人にとってもこのオリンピックが集大成だった。
まず個人種目が行われた。
100m
さくら 準決勝敗退 4位 11.09
陽菜 準決勝敗退 4位 11.05
結衣 史上初めて日本人でこの種目で決勝進出を果たした。 7位 10.90
200m
七海 準決勝敗退 5位 22.72
それぞれがベストに近いタイムを出したものの、決勝やメダルまでは届かなかった。当初から本命視されていたリレーでメダルを獲ろうと切り替えて、調整に入った。
2032年 9月24日 女子4*100mリレー 決勝
実況「日本のみなさんこんばんは。こちら豪州・ブリスベンは昼間はぽかぽかした春の涼しい陽気でしたが、夕方から一気に冷え込んできました。夜空には南十字星がキラリと見えています。」
実況「スタジアムは10万人の超満員です。日の丸の旗を持った日本からのファンもたくさんいます。本日はオリンピックの華、陸上のトラック最終種目であります、女子の4*100mリレーの決勝をお伝えします。32年前の今日、同じ豪州・シドニーで、あの高橋尚子さんが女子マラソンで日本初の金を獲りました」
スタンドには、七海の旦那の藤森と息子の陸翔君の姿があった。
直子が本橋の遺影を手にしてた。光が岡園卒園の同世代の連中も駆け付けていた。
実況「注目はなんといっても、五輪史上初めて決勝に進出した日本が悲願のメダルをとれるかでしょう。いかがですか、解説の朝倉さん?」
朝倉「そうですね。前回のロス五輪は9位で決勝ならず、昨年の世界陸上は惜しくも4位でしたからね。なんとかしてメダルに食い込んでもらいたいです」
.....
4人が登場した。カメラに向かって手裏剣を投げるようなジェスチャーをした。
実況「おなじみのメンバー、1走さくらは正確なAIスタート、2走陽菜はパリコレに出たモデルと2刀流、3走七海はママさんランナー アンカー結衣は100mで7位入賞の10秒台ランナー。そして1走から3走の出身は高校から一緒で児童養護施設出身です」
スタートの瞬間が訪れた。
実況「8レーン 日本。1走 中川さくら 2走 桜井 陽菜 3走 田原七海 4走鈴木 結衣」
「シーーッ!」
超満員の会場が静まりかえった。
「オン・ユア・マーク」
「セット」
パァーン!!
「がんばれー!! ファイト―!!」「Common!!」
実況「スタートしました。先頭は、ジャマイカ、アメリカか、日本はどうか⁈」
朝倉「いいっ、いいですよ!」
実況「2走へのバトンパス、さくらから陽菜へ、どうか?」
朝倉「完璧に決まりました!」
実況「2走陽菜、くの一の如く速い! 先頭争い、ジャマイカ、アメリカ、日本。3走七海へのバトンパスは?」
朝倉「これも完璧。トップスピードです」
実況「七海のコーナリング!、ジャマイカ、アメリカとほぼ並んでます。
さぁアンカー結衣へ!」
朝倉「ここもバトン完璧、よぉし!」
実況「先頭はジャマイカ100m金のロッティ、日本結衣とアメリカ100m銀のナシュフォードがついていくがどうか?
ジャマイカがトップでゴール、すぐ日本とアメリカが...」
朝倉「ああっ!」
実況「転んだ! 日本の鈴木結衣選手」
朝倉「大丈夫、ゴールはしてます」
実況「つまづきましたかねぇ。競って力んだのか。額から出血しています。大丈夫でしょうか......」
「さぁ、結果がでます」
朝倉「ああ、マジかっ⁈」
実況「なんと、ジャマイカ失格! どういうことでしょうか」
VTRが流れる。
朝倉「アンカーへのバトンのところでゾーンを1歩でてますね。うわーっ」
実況「そうすると1位はアメリカか?それとも日本か?......
時間かかっています。最後は結衣選手が飛び込むようなゴールでしたね」
朝倉「あれは転んだのではなく、先にゴールしようと前傾をかなり深くやったのでしょう」
6分後
実況「おっ、ようやく記録がでました!」
1. JAPAN 40.931 2.USA 40.932
(3秒ほどして、再度表示)
1. JAPAN 40.94 2.USA 40.94
実況「なんと、なんと、日本が金メダルです!!」
朝倉「やったぁぁーー!!」
実況「あのアメリカに1000分の1秒差で優勝です!!」
朝倉「すばらしい!!、歴史を作りましたー!」
グラウンドでは、流血していた結衣のところに3人が駆け寄っていた。
さくら「ゆいてぃー大丈夫?」
結衣「うん。勝ったの?」
陽菜「勝ったよ!金だよ」
係員が結衣をタンカで運ぼうとしたが、結衣は断った。
七海「ついにメダル、しかも金だよ」
結衣「信じられない」
さくら「ゆいてぃがあんなゴールするなんて、信じられない」
結衣「私だって、...みんなと同じくらいリレーに懸けてたんだ」
七海「ゆいてぃありがとう」
結衣「みんながあんないい位置で継いでくれたから」
4人に日の丸が渡されて、ビクトリーランが始まった。
スタンドを見ると、藤森が大きく手を振っていた。
陽菜「あらら、陸翔くん、ねちゃっているよ」
さくら「こんな遅い時間だからね。ママが金とったのにね」
七海「あっー直子さん、おおーい!」
陽菜「金メダルとりましたよー」
直子は号泣していた。
さくら「後で挨拶いってさ、本橋さんにも報告しよう」
七海「そーだね」
・・・・
決勝のリザルトは、
さくら リアクションタイム男女全選手で1位 0.118
陽菜 くの一走りで驚異的なLAP 10.1
七海 コーナリングの女王が好位置をキープ 完璧なバトンパス
結衣 エリートスプリンターが最後にど根性で見せた奇跡の大逆転ゴール
予想外の大快挙にネットもテレビも日本中が大騒ぎとなった。
この夜、4人は紛れもなく満天の星になった。
表彰式では、直子から本橋の遺影を借りて、金メダルを首に下げた後に、さくらが遺影を高く掲げた。このシーンは(施設出身の3人が金を獲って殺害された恩師の写真を掲げた)と世界中で話題となった。
光が岡園の卒園式の時に本橋から「プロなんだから陸上の日記を書くように」と言われた3人は、滝野川大に入学してからこの日まで10年と5か月、毎日、一日も欠かさずに書いた。さくらは児童養護の仕事していても、陽菜はモデルをしていても、七海は出産・休養しているときでさえも、書いていた。
その年の暮れ、4人に時の首相から国民栄誉賞が贈られた。陸上選手に贈られたのは2000年マラソン金の高橋尚子さん以来だった。児童養護施設出身のアスリートが受賞したのはこれが初めてであった。
3人の活躍で児童養護施設は国民の多くに認知され、国や自治体の予算やサポートする制度も2021年に比べてかなり充実していた。併せて里親制度も広がり、児童の受入数も飛躍的に増加していた。
おわり
◎登場人物
中川さくら/さくちん 158cm あねご肌
桜井 陽菜/はるはる 175cm 物静かな美人
田原七海/みーなな 166cm 知恵袋
鈴木 結衣/ゆいてぃー 172cm 孤高の天才 日本人とウクライナ人のハーフ
本橋 光が岡園 指導員
直子 光が岡園保育士
朝倉宣伸 元五輪リレーメダリスト 陸連理事
藤森健次郎 滝野川大監督 元世界陸上リレーメンバー
普通の児童養護施設で暮らす女の子3人組が様々な人物と出会い、葛藤しながらも努力を重ね道を切り拓くストーリーの完結。




