9バッハ バハムートちゃん同担拒否とオシャレ機能
見渡す限りの雪原地帯、ゴウゴウと吹雪く中バハムートちゃん達御一行は目的地に向かって進んでいた。 ん?雪原地帯? バハムートちゃん達が拠点にしてる市街地は時期によっては雪も降るけど今はポカポカである。 では何故冒頭からこんな所を歩いているのだろう? その発端はイフリートだった───
「───オレさ〜フェンリルの野郎キライなんすわ」
朝目覚めてから間もないというのに、出し抜けにイフリートが言い放った。
「あいつイケすかねえんすよね──旦那もそう思いません?」
──フェンリルか、前にあったのいつだったかな、精獣時代は此奴と違って彼奴とはあまり関わりなかったからなぁ───と、寝起きの回らない頭でボンヤリと記憶を探った。
「……ふむ、別に我に対しては普通だったぞ? お主とはあれか?炎と氷だから相性も良くないのであろう」
「それだけじゃないっすよ! あいつ旦那の事崇拝してるからな〜〜バハムート教の教徒っすよ。 旦那の前では猫被ってるんすよ!狼のくせにとんでもないヤツっすわ! 旦那と仲良いオレにはホント酷かったっすよ。 同担拒否っすよ!」
憤慨しているイフリートをよそに──バハムート教ってなんぞ? ネコでオオカミ? ……ドウタン?と小首を傾げる。 寝起きの頭は全くと言っていい程機能してなかった。
まぁ、教は置いといても、確かに精獣界では高位になればなる程に派閥に近しい崇拝者達がつくものであった。 弱肉強食の世界ならではである。 ───もちろん、崇拝者もいればその逆もいるという事だが、その事は今はいいであろう。
「次あいつにしましょうよ、ね、魔導士パイセン!」
いつの間にかパイセンと呼ばれる様になっていた魔導士は、ふむと指で描いて地図を出す。 それを見てヤベーヤベ──と騒ぎながら此処ここ!と地図に指差すイフリートを見て、あ、これ最近見たヤツだ────とバハムートちゃんは、ははんと察した。 魔導士に姿を変えられたモノが1度は通る道─────とばっちりの巻き添えである。
さき程よりも吹雪く強さが増してきた。常人ならば凍えて動けなくなり、雪洞を掘って暖をとらねば危険レベルである。 そんな中バハムートちゃんはホクホクしていた。
──ふぁぁあああ、あったけぇ〜〜。
魔法のマントのおかげで寒さ知らずである。 それよりも、だ───とイフリートを一瞥する。
「お主、我より薄着であるが寒くないのか?」
当の本人は、銀世界のTPOを度外視した薄着で平然としていた。
「ああ、コレっすよ、魔導士パイセンに出してもらったっす」
そう言いながら首元のチョーカーを撫でる。 は?とバハムートちゃんは聞き返す。
「これ便利っすよね〜〜温度調整自動完備で、多少の衝撃は吸収してくれるなんてマジパネエっすわ。 魔導士パイセンまじリスペクトっすよ」
──はぁあああああああああああああああああああ???????
「き、きき、貴様!またやってくれたな!!」
そう言いながら魔導士に詰め寄ろうとしたが、雪がとにかく邪魔で、歩く度ズボッズボッっと埋まって一向に差は縮まらない。むしろ開くばかりだ。 イフリートは涙目のバハムートちゃんを土に埋まってる大根よろしくズボッと引き抜いておんぶをし、ニカっと笑う。 喜んでくれると思いきや、何故もっと早くにしないのだと頭をポカポカされた。 ───なんて日だ。
イフリートのおかげで何とか追いつけたバハムートちゃんはモンスタークレーマーと化す。
「貴様、何故此奴にはこんなオシャレなもので、便利機能も付いておるのだ?! 我のにもオシャレ機能満載なモノをよこせ! 少なくとも此奴よりいいモノだぞ!」
オシャレ機能満載は違うっすよ旦那───と心の中で突っ込んだ。 ポカポカされたくなかったからである。
「うるせー」
「うぬぅ、贔屓であろう! ヒーキ!ヒ──キ!!ヒ───キ!!!ヒ─────」
「イヤなら返せ」
一刀両断であった。 ぐうの音もでず、やり場のない怒りをイフリートをポカポカする事でぶつける。 ────全く、なんて日だ。 イフリートは諦観した。
───ゴウっと一際大きく吹雪いたと思ったら、先程の吹雪が嘘の様にピタッと止まった。 主が侵入者の存在に気付いた様だ。 威嚇をするような雄叫びが聞こえた。
さぁ、ここまで来るなら来てみろと吹雪を止め、来たらどうなるかわかってるだろうな?と言わんばかりの遠吠えが挑発するかの如く鳴り響いていた。
おもしれ───!とイフリートは両手の拳を水平にガキンと合わせ、やってやる気モード全開である。 ───まぁやるのは魔導士なんだが。
───主の名前はフェンリル。 全てを凍て尽くす絶対零度の銀狼の精獣である。