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花の鳥籠  作者: 白基支子
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枕 法令条項 端書

「速報です。先程、参院本会議で、婚姻後の不貞を取り締まる『不貞防止法』が、与党の賛成多数で可決され、成立しました。近年増加する不貞を原因とする離婚率を抑える為、夫妻関係にある者の不貞行為を刑事罰化する『不貞防止法』は、本日十五日、本会議にて討論と採決が行われ、先程成立しました。施行は来月を予定しており、これが施行されますと、戦後初の姦通による処罰が認められる事になります。野党からは『事実上、姦通罪の復活であり、明確な憲法違反に当たる』との指摘もあり、国会では今後も激しい論戦が予想され……」


 世紀の悪法! ~不貞防止法という破滅~


 半年前、与党連合の強行採決によって成立した不貞防止法が、我が国の未来に巨大な影を落としている。帝都大学法学部の佐藤教授はこう語る。「不貞防止法は戦後最悪の法律と言っても過言ではない。政府は自由恋愛に足枷を嵌めたのだ。取りも直さず、政府は国民を全く信用せず、政府は国民に不義者のレッテルを貼った。こんな政府を、国を、国民が信用出来る訳がない」。

 現在、我が国の結婚率と出生率が過去最低を記録している。原因は不貞防止法であると、佐藤教授は断言している。「不信感の蔓延(まんえん)した国に、国民はどんな未来も描けない。懲役刑の危険があって、誰が結婚などしようと考えるか。誰しもどんな間違いを起こすか(わか)らない。たった一度の過ちで牢獄に放り込まれる、こんな恐怖が横行した社会で、結婚率が下がらない方がおかしい。過去、憲法違反として破棄された姦通罪を蘇らせた様な、時代錯誤な本法律は、(ただ)ちに撤廃されるべきだ」。


「と、御紹介した週刊文龍でも大変批判的に書かれている『不貞防止法』ですが、世間の風当たりも相当強いみたいですね。実際、若者を中心としたアンケートの結果を見ても、『不防法』制定後は結婚に消極的になったという回答が目立っています。私の周りでも結婚を控えているという知り合いは多いです。結婚率の激減は、数字だけでなく実感としてもヒシヒシと肌に感じています。しかし、問題は結婚率の激減だけではありません。犯罪数の激増も社会問題になっています。鈴木さん、元警視正というお立場から、現在の犯罪数について、どうお考えですか?」

「はい。結局、政府は新しい犯罪を作っただけなんですね。新しい刑事法を作るっていうのはそういう事なんです。だから(こと)(さら)に慎重にならないといけないんですね。今迄は民事で済んでいた浮気が警察の管轄に代わった訳ですから、これは、まぁ、単純な足し算ですな。昔から浮気はいけない事ですから、倫理的には大して変わらないんですが、これが犯罪に数えられる訳ですから、犯罪数が増えるのは当たり前でしょう。で、犯罪数が増えた事による弊害ですが、当面の課題は()ず捜査員不足でしょう。浮気が刑事事件になってしまったので、家庭の問題にも警察官が駆り出される。一番の問題はこれです。何より捜査員の数が足りない。警察が浮気調査にかまけている間に、凶悪事件が発生したら、対処する人間がいないんですからね」


 「打開策を検討中」 首相答弁


 昨年制定された不貞防止法に起因する結婚率の低下と犯罪数の増加への対応が遅れている問題で、高橋首相は6日午前の参院決算委員会で「両課題については目下政府内で打開策を検討している」と述べた。野党の田中議員が「国民の不信感を払拭する為にも不貞防止法はただちに撤廃すべきでは」と質問したのに答えた。

 不貞防止法を巡る一連の問題にはこれまでも野党から激しい反発を受けていたが、首相は具体的な答弁は避けていた。対応を明言したのはこれが初となる。


「たった今入ったニュースです。『風営法』の改正案が可決、成立しました。つい先程、『風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律』の改正案が、参院本会議で与党の賛成多数で可決され、成立しました。『不貞防止法』による結婚並びに出生率の低下に対応する為提出された本改正案は、政府が認可した施設内に()ける行為を『不貞防止法』が定める不貞行為から除外するとした骨子を(もと)に策定され、事実上、昭和33年に施行された『売春禁止法』を一部(ゆる)める内容となっています。採決前より野党からは『遊郭を(よみがえ)らせる危険性を孕んだとんでもない法改正であり、人権保護の観点からも到底容認出来ない』と非難する声が上がっており、成立した場合、内閣不信任案の提出も視野に入れていると……」


 探偵を免許制に 捜査権を付与 改正案概要決まる


 与党は今国会で提出する「探偵業の業務の適正化に関する法律」の改正案の概要を発表した。探偵職を免許資格制に改め、免許を持つ探偵には刑事事件の捜査権を付与する事が柱となる。私立探偵を捜査員に加える事で、長引く警察の人員不足解消が期待されている。

 関係者によると、免許交付試験は国家公務員一種と同程度の難度になる見通し。



「不貞防止法」

(二〇××年六月十五日法律第六六六号)

 第一章 総則

 (目的)

第一条 此の法律は、恋愛の環境の整備を助長すると共に、恋愛の福祉を阻害する怖れのある行為を防止し、以て恋愛の健全な育成を図る事を目的とする。

 (定義)

第二条 此の法律に於いて、次の各号に掲げる用語の意義は、夫々それぞれ当該番号に定めるところに因る。

 一 恋人 恋姻届に記載された男女両名の関係性を言う。

 二 夫妻 婚姻届に記載された男女両名の関係性を言う。

 ……………………。

 第六章 恋人及び夫妻の義務

 (純潔)

第四十八条 何人も、法務省に因り認定された恋人及び夫妻以外の人物と性的交渉を持ってはならない。

 ……………………。

 第八章 罰則

第百八条 恋人及び夫妻の一方は、配偶者に不貞な行為があった場合、関係性の破棄の訴えを提起出来る。

 2 猥りに不義な性的交渉を持ち、夫妻関係を著しく損なった者は、五年以下一月以上の禁錮に処する。

 ……………………。


「風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律改定版」

(一九四八年七月十日法律第百二十二号)

 最終改正:二〇××年二月二十六日法律第四八号

 第一章 総則

 (目的)

第一条 此の法律は、善良の風俗と清浄な風俗環境を維持し……。

 (用語の意義)

第二条 此の法律に於いて「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業を言う。

 一 キャバレー其の他設備を設けて客にダンスをさせ、且つ、客の接待をして客に飲食させる営業。

 ……………………。

 九 遊郭、茶屋其の他設備を設けて客の性的昂奮をそそる怖れのある遊戯をさせる営業。

 ……………………。

 第四章 性風俗関連特殊営業等の規制

  第一節 性風俗関連特殊営業の規制

   第一款 店舗型性風俗特殊営業の規制 撤廃

  新第一款 遊郭及び茶屋の業務の適正化に関する規則

 (営業等の届出)

第二十七条 遊郭及び茶屋を営もうとする者は、厚生省の審査を受けた上で……。

 ……………………。

 (特例)

第三十三条 遊郭及び茶屋にて執り行われた性的交渉は、「不貞防止法」に定められた不義不貞な行為とは見なされないとする。

 ……………………。


「探偵業の業務の適正化に関する法律」

(二〇〇七年二月二十二日令第十九号)

 最終改正:二〇××年七月一日令第五六号

 第一章 総則

 (目的)

第一条 此の法律は、近年増加する刑事事件、殊に夫妻関係に於ける不貞を調査する者として、能率的に其の任務を遂行するに足る探偵営業を定める事を目的とする。

 (探偵の責務)

第二条 探偵は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、客及び警察組織の依頼に応じ、民事、刑事事件を問わずこれを解決する事を責務とする。

 ……………………。

 (探偵免許)

第八十八条 探偵業を営もうとする者は、公安委員会の探偵免許を受けなければならない。

 ……………………。


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