準備期間―3
早速今からこの道場で働くことになった。今はちょうど昼ご飯の用意をしようとしている所だったらしい。
腰に巻いていたブレザーをベッドの上に放っておばちゃんの後について行った。男性は道場に戻ってこの場にはいない。
「あんた、名前は?」
「四宮亘亮です」
「じゃあ、コースケ、料理は出来るかい?」
「出来ない事もない、といった感じです」
おばちゃんの質問に正直に答える。実際、料理は授業の調理実習ぐらいしかしたことがない。その時は特に失敗をしてなかった。
「それじゃあ、薪割りと盛り付け、それから皿洗いだね」
「はい、分かりました」
仕事は適材適所に割り当てられるようだ。下手な人が手伝っても邪魔にしかならないと言う事だろう。理に適っていると思うし文句はない。
食堂に戻ると炊事場から湯気が漂ってきていた。他にトントンと何かを切っている音も聞こえてきた。調理がもう始まっていた。
「ゲンちゃん、ちょっとおいで」
炊事場に入るとおばちゃんが奥の方で薪を割っていた青年に声をかけた。青年はすぐに手を止めてこっちに小走りで来た。
「どうしました?」
「この子、新しい子だから色々と教えてあげて」
「こんにちは」
青年は俺の方を見ると、ニカッと白い歯を見せて笑った。その笑顔からは気の良いお兄さんという印象を受けた。
「おう、俺は石田 源基ってんだ。気軽にゲンって呼んでくれ」
「四宮亘亮です。よろしくお願いします、ゲンさん」
自己紹介が済むとゲンさんが色々と教えてくれた。薪の割り方からお皿がどこに置いてあってどう盛り付けるかまで。
皿洗いはまた後でその時になったら教えると言われた。ある程度料理が出来上がるまでは薪を割り続けた。
大量に調理する為に薪がすぐになくなってしまうらしい。確かに割った先から炊事場に持って行かれて薪が一向に溜まらなかった。
腕が疲れてきて上がらなくなってきた頃、ようやく薪割りから解放され盛り付けするように指示された。
献立はご飯と野菜炒め(半分ほど肉)とポトフ(のようなもの)だ。俺が担当するのはポトフだ。
大釜から掬ってお椀に入れてお盆にのせる。それをひたすら繰り返した。大釜は未だに温められているので、湯気が熱く汗がにじんできた。
大釜の中身が半分ほどなくなったところで終わった。半分残っているのは門下生は大体おかわりするからいつも多めに作っているのだそうだ。
大釜は食堂とつながる穴の前に置くらしい。半分しか入っていないにも関わらず重い大釜を何とか持ち上げて穴の前まで行く。
穴の前にあったテーブルの上に不思議な文字が書かれた紙?が置いてあった。その紙の上に置くように言われたので従い置いた。
聞けばあの紙に書かれていたのは魔法陣で、上にのせたものを温めてくれる代物らしい。簡単に言ってしまえば卓上ヒーターのようだ。
お箸を並べ終えると同時に門下生がぞろぞろと食堂に入ってきた。最後にあの男性が入ってきた。男性が入り口から最も遠い位置の席に座るとみんなも座った。
俺は当然のことながら一番入り口に近い席だ。隣がゲンさんなのは気を利かせてくれたからだろう。




