準備期間―2
お金の単位である事は話の流れから分かる。そんな事は常識だろうから、もし聞いたりしたら変な目で見られるに違いない。
「いえ、大丈夫です」
「そうか、では説明を続ける。黄の列は休みとなるが、朝と夕は一緒に食事をとるので注意するように。昼は自由だから外で食べても良いし、私は特別な用事がない限りここにいるから一緒に昼をここを食べてもいい。好きにしなさい」
また新出単語だ。『黄の列が休み』と言う事は曜日の事かな。『黄の列』がどこに位置するかは分からない。月曜なのか土曜なのかそれとも別の曜日か。
それもまたおいおい調べるとして、いま重要なのは週に一度休みがあると言う事だ。何とも怪しい臭いがするのは気のせいだろうか。
こちらの職業事情が分からないだけに断言できないけど、日本だったら色々な問題が出てきそうだ。
「それで、どうする?働くか?」
「えぇっと…仕事内容を聞かない限りは何とも…」
「あぁそうだな。マチさ~ん、ちょっと来てもらっていいですか~」
男性が席を立ち、壁の上半分があいていて食堂と炊事場を繋ぐ穴の向こう側に身を乗り出して奥へと声をかけた。
暫くしてやってきたのは恰幅の良いおばちゃんだった。前掛けと三角巾を着けていて、まさに食堂のおばちゃんだ。
「はいはい、どうしましたか?」
「いえ、彼がですね、仕事内容を教えてほしいそうです」
「てことは、新しい使用人さんかい?」
「いえ、違います。仕事内容を聞いてから考えるみたいですよ」
そこまで話して漸くおばちゃんが俺の方を見てきた。まるで品定めをするような眼に居心地の悪さを感じる。
「賢明な判断だね。仕事としては食事の用意と掃除が主になるね。あとは買い出しだったり道場の武器の管理だったりかねぇ…あぁ、朝は6時からだからちょっと早いねぇ」
「だそうだ」
仕事内容は普通だ。朝が早いのはちょっと辛いけど、他に住み込みの仕事はあまりないだろうし、ここでいいかもしれない。
そう結論付けて男性に伝えようとしたところで、おばちゃんの「あっ」という言葉に遮られた。
「そう言えば、部屋がなかったんじゃないかい?」
そう言われた男性は少し止まり、すぐに「あっ」と声を上げた。ここまできてやっぱり無理でした、なんてことにはならないよな。
俺が不安に思っていると、男性がもう一度考える素振りを見せてから俺の方を見てきた。
「ついてきなさい」
男性が食堂を出て行ったので大人しく後をついて行く。廊下を進んでいくと男性が階段の前で足を止めた。
「今ちょうど使用人用の部屋が全て埋まっていて…開いているのはここしかないんだ…」
そう言って男性は階段下にあった小さな戸を開けた。中にはベッドと壁に取り付けられた小さな机(小物ぐらいしか置けない)があった。
ベッドも寝転ぶのが精々で目の前には階段が迫っていた。中で立つことは出来ないだろうことは容易に想像できた。
「こんなだが…どうだろうか…」
「はい、大丈夫です」
「と言う事は…」
「はい、俺をここで働かせてください」




