準備期間―1
いつまでも道の上に座っていては邪魔になるので、立ち上がり道の端に寄った。どうやらここは街の入り口付近らしい。
太い丸太で造られた壁に穴が大きく開き、武装した集団や商人が出入りしていた。それらを横目に、目の前にあった掲示板を見る。
そこには様々な紙が張り出されていた。行事や迷子犬を探しているなど実に様々だ。そんな中にあって、一番俺の目を引いたは下の方に括り付けられた箱に入っていた紙だった。
一枚引き抜いて目を通す。どこかの道場の勧誘チラシのようだ。そのチラシの左端に小さなスペースを使って書かれていた。
『家事使用人も募集中!!詳細は道場にて!』と。それを見た瞬間、俺は走り出していた。
仕事が見つかった。働けるかは分からないがとにかく一歩だ。地図を頼りに走っていると、遠くに道場らしき建物が見えてきた。
走る速度を上げて一目散に走り、息も絶え絶えに辿り着いた。両手を膝にのせ肩で息をしながらも道場を見上げた。
道場は日本にあるような剣道や柔道などの道場ではなく、土俵がない相撲部屋と言った方がしっくりとくるものだった。
その道場では1人の男性を前に、何人もの男女が綺麗に並び立ち剣を振っていた。暫く門の前に立ち眺めていると男性が近づいて来た。
「どうした?入門希望者か?」
「いえ、家事使用人希望っす」
未だにどの路線のキャラになりきるか定まっていない為に変な口調になってしまった。「~っす」は妙な恥ずかしさがあるからこれはない。
「そうか、では少し待っていなさい」
男性は俺の口調には頓着せず道場へと戻っていった。一方で俺はこれからのキャラについて考えていた。
今の見た目だったら誰にでも砕けた口調で話すのが合っていそうだけど、それは無理だ。
いくら見た目を変えても芯の部分ではヘタレのままなのだ。見た目がヤクザなあの男性にため口はきけない。
むしろ逆にしてみる。誰に対しても敬語で話す。敬語で話されて嫌な気分になる人はそう多くはないと思う。
今後のキャラが定まったところで男性が戻ってきた。道場を見るとみんな剣を振りながらもチラチラとこちらを見ていた。
「待たせたな。行こうか」
男性の後をついて行くと1つの部屋に通された。そこは食堂のようで大きな長机と大量の椅子が並んでいた。
「そっちに掛けなさい」
男性が椅子を指差し、その椅子の対面に座った。俺は言われた通りの椅子に座り男性の言葉を待った。
「まず初めに、家事使用人と言う事だが、住み込みでやってもらう事になるが良いか?」
「あ、はい、大丈夫です」
むしろ願ったり叶ったりだった。これで住む場所を改めて探さなくて済んだ。
「ふむ。次に食事は一日3回、門下生や家事使用人を含め皆で食べると決めている。それから給金は翌月の1日に支払う。基本的にはひと月で大銀5枚なのだが…今は月の途中だから…大銀3枚と中銀6枚になる。ここまでで質問はあるか?」
食事も出る事に喜んでいると、聞きなれない単位が出てきた。大銀、中銀ってなんだ?




