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ガラス越しに恋をした  作者: 佐藤菓子
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灰色から桃色へ

登場人物その1


テレビ

本作の語り手。日々、主人のだらしなさを嘆いている。


健太郎

一人暮らしの大学生。彼女が欲しい今日このごろ。好みのタイプは可愛い系の顔で年下で背が低い巨乳。


電子時計がきっかり0時0分を表示した。

私は、かれこれ四時間前からずっとつきっぱなしのままになっている。 

床に散らばる成人雑誌、ちゃぶ台の上には

空っぽや飲みかけの缶ビールが何本もある。

それらを散らかした主人はさっき脱いだ

ジャージを毛布代わりにして寝てしまった。

毎日、毎日こんなんで本当にだらしがないと

思う。私の上にも、掃除をしないから埃が

積もっていて、この家のテレビになってしまうなんて運が悪かった。と日々後悔している。

といっても、主人が私を選んだのであって 

物言わぬテレビの私に選択権など無かったのだが。私は主人が大学生になって一人暮らしを

始める時に買われてきて、それから親の目が無いのをいいことに好きなだけ夜更かしをする

主人にずっとこき使われている。

以前はそれで大変疲れていたのだが、最近は

「彼女欲しーなー」と言ってしょっちゅう

合コンに参加するようになり、夜は家に居なくて帰って来たらすぐ寝てしまうからおかげで

少し楽になった。これで彼女が出来たりすると主人が家に居る時間が減るから私はもっと楽が出来るようになるかもしれない。

私から見て主人の顔は、私が映す映像におよく

登場する最近人気が出だした俳優に似ていると思うし、身体つきは、高校時代運動部だったせいかマラソン選手のそれとほぼ変わらない。

多分、女性からのウケは悪くないはずだから

すぐに彼女が出来ると思ったけどそう簡単にも行かないようだ。主人が借りてくるビデオに

出て来る女性は若くてかなり可愛いくて胸が大きく、今にもあちこちこぼれそうな服を着ている。その女性が甘い嬌声を上げるのを見ながら主人は「たまんねえな」と喜んでいるがこれらの要素を全て兼ね備えた女性はそういないたろう。電子時計が13時を表示した。

私はもう何でも良いからさっさと女を作って楽をさせてくれ…と強く願った。



午後三時、ベランダにカラスが遊びに来て、主人が

放置したゴミ箱を漁っている。

ゴミぐらいちゃんと出せよ…と思っていたら廊下から

足音が聞こえてきた。

この時間には主人は帰ってこないから同じ階のよその

人だろう。

ところが、足音は私の部屋の前で止まった。 

鍵穴に鍵を差し込んでガチャリと回す音がする。

こんな時間に帰って来るなんて今日はどうしたのだ

ろう。

しかし、ドアを開けて入って来た人物は主人では無かった。

それは女性だった。しかも美しい。

一瞬、頭からその女性以外のことが全て吹き飛んで

全神経が彼女に集中した。

でも、彼女は誰なんだろう。

彼女は「へぇ…」とか「ふーん」とか言いながら部屋を見渡している。

彼女は主人が高校時代の友人らと写っている写真を

白い指先でそっと撫でて「健太君…」と呟いた。

なるほど、今の所作でピンときた。

写真を撫でながら名前を呼ぶというのは、愛しい相手にする事である。

すなわち、この女性は主人の恋人なのだろう。

胸の奥から喜びの熱い塊がこみ上げてきた

こんな美人をゲット出来たとは。

確か主人の好みは背の低い年下の巨乳だったはずだが

彼女はそれとは対照的なすらりと背の高いスレンダーだった。

それに年も主人より少し上に見える。

実は、主人と私の好みは正反対なので彼女は私にとってはまさしく理想の女性なのだった。

ご主人様、こんな素晴らしい恋人を作ってくれて

ありがとうございます。

これならもうどんなオーバーワークだって苦になりません。

タンスの引き出しを開けて中の洋服を楽しそうに眺めている彼女の後ろ姿を見ながら、私は幸せな気持ちで満たされていった。



そうして彼女と私の時間は過ぎていき、私は彼女のことを色々知っていった。

彼女の名はマキというらしい。

スマートフォンのストラップのビーズにMAKIと綴られていた。

彼女のお気に入りの番組には決まって同じ俳優が出ている。

例の主人によく似ている俳優だ。

だから主人を好きになったのか、それとも主人が先なのか、私にはわからない。

ある時、彼女は主人万年布団の下から成人雑誌を見つけてしまった。

あまり女性が見て気持ちの良いものでは無いから少し心配だった。

彼女は主人が付箋を貼ったページを見て「こういうのがいいんだ…」と表情を曇らせた。

暗い気分の時はお笑い番組をおすすめしたかったが

彼女は突っ伏したままでテレビをつけようとしなかった。

彼女は散らかった部屋がやはり気になるようで「ゴミを捨てたい、掃除機をかけたい」とよくこぼしていたが本当にそれを実行したことは無かった。

が、私の頭を見たとき「ちょっとくらいいいよね」

そう言って私の頭の埃をティッシュペーパーで拭き取ってくれた。

その時の気持ちは言葉にし尽くせない。

強いて例えるなら、魂がどこまでも上へ上へと天まで昇っていきそうなそんな気持ちだった。

そして、彼女が帰る時はいつも、こんな毎日が続きますように…と祈りながら見送った。

最後まで読んでくださってありがとうございます。続きも読んで頂けたら嬉しいです。

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