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三月、幽霊少女と出会いました。  作者: 藍川ことき
一章 三月、幽霊少女と出会いました。
2/26


 契約ってなんだオイ。

「余計面倒なことになってきやがったよ。ってかいくつか質問させてくれ。取り敢えず現状の理解を第一にしたい」

「まあいいよ」

 一つ息をつき、深呼吸する。落ち着け俺。こんなお先真っ暗な状況でも案外希望があったりするかもしれないじゃん!

「…まず、俺の魂はお前に取り込まれてて、俺の寿命は残り1ヶ月しかない。間違いないか?」

「うん。正確には君の魂と体を私と君で使ってるって感じなんだけどね」

「じゃあもう一つ。俺の残り1ヶ月の寿命で何が出来る?」

「というと?」

「俺が残り少ない余命を生きる中で、俺がより延命できる方法を探せるかってこと」

「何とも言えないかな。私との契約を解除さえしちゃえばOKだけど私がまずしないし、さりとてそれ以外の方法は今のところ見当たらないし」

 思わずガックリとうなだれてしまう。お先真っ暗どころかあの世行き決定。

「まあ気に病むこと無いって。死ぬときはそんなに怖くないはずだから。多分」

「その多分が一番怖いんだけど!?」

「私も自分の仇討ちはしたし、むしろ成仏してしまいたいくらいなんだけどね」

「こちらとしても成仏してくれたら願ったり叶ったりなんだけど」

「ヒドいことを言うね、君も」

「成仏したいっていったのはそっちだろが」

「それとこれとは別!」

「はいはい」

 詭弁だ…と口にしないのが大人の礼儀だということぐらい、俺だって頭に入れている。

「そうだ。まだ聞いてないことがあった」

「何?」

「何で俺なの?」

「ああ、それはまあ」

 そう言って少し考え込む少女。

 俺も一人の健全なる日本男児だ。ここはなんかこう、夢のある答えを期待しておきたいところなのだが。

「…魂の容量がここらの界隈で一番多かったから?」

 だが現実は残酷だった。

「そうっすか…」どんだけ合理的なんだ。おまけに何故疑問形?いや、そんな夢物語なんて無いってのは一応最初っから分かってるけどね。

「どうしたの?ため息なんかついて」

「いや、現実って本当めんどくせぇんだなぁってつくづく実感したんだよ」

「…私何かしたの?」

「いや別に何も」

 …本当、残酷なんだよ、現実って。マジKYだから。

「まあ、それはおいといてだな。本当に方法は無いのか?」

 しぶとく少女に質問すると、当然のようにそっけない回答が返ってきた。

「無い物はないの。ていうかそれより気になることがあるんだけどさ、あなた余命1ヶ月っていう突拍子もない事実を何でそんなに容易く受け入れられるの?」

「そこが疑問なのか?でもな、仮にその余命1ヶ月だとかなんとかが嘘だったとしても本当だったとしても、俺は本気にしないってことは絶対に無かったと思うぜ」

 少女の表情がふっと和らいだ。

 俺もそれにあわせるように軽く微笑む。

 その微笑の裏には非現実的な毎日を求める厨二全開な思考回路がどっしりと腰を据えていることを忘れてはならない。勿論口にするのは御法度である。ここ重要。

「君いつまでにやけてんの?流石に気持ち悪いよ」

 しまった。やりすぎたか。

  《名も知らぬ少女 の 好感度が 5 下がった!》

 こんなウィンドウ↑が出れば分かりやすいのに、現実ってマジ不便。

「ねー、いつまで黙ってんの?…もしかしてさっきの発言に傷ついちゃった?だったらあやまるけど…ていうか冗談だから」

「冗談かよ!?まあ、お前ごときの発言にいちいち心を傷つけられて腹を立てるような器の小さい人間だからいいんだけどな」

「じゃもっとヒドいこと言っても大丈夫だね!」

「すみません冗談です」

 怖すぎるっての。

「で、どんな話してたんだっけ」

「あんたが俺に絶対服従を誓ったとこまでは覚えてるけど」

「ああそうそう、それで君がその絶対服従の内容に裸エプロン着用を1日三時間義務づけるを増やそうとか言い出したから流石にそれは同じ人間として引くわーとか話してたんだっけ」

「ごめんやっぱ絶対服従とか一言も言ってなかった」

 なかなか侮りがたいぞこいつ。会話スキルが俺より上だな、多分。

「まあ、取り敢えず私は出来るだけ永く生きながらえていればいいんだから、君は残り一ヶ月の余生を楽しく生きてね」

「はぁ…」

 余命一ヶ月ねぇ。何しよう。今が三月の初めぐらいだから、高校に入学してすぐ死ぬのか俺。そういや積みゲーいくつかあったし、死ぬまでには片づけておきたいよな…。うん。それでいいや。確かせいぜい10、11個しかなかったから、今から昼夜問わずやれば死ぬまでには全部消化出来るんじゃね?

刹那、もう一人の自分が、『いやダメだろそれ!』と叫んだ。ような気がした。

「あぁ…それにしてもお腹すいたな」

「あれですか、すでにこの世の人ですらないのに晩御飯をご所望ですか」

「腹が減っては戦はできぬ」

「いやそんなしたり顔で言われても困るんだけど!?」

「まぁまぁ」

「あれ?おかしくない?そのセリフは本来お腹が減ったあまり自己の生存本能に従って台所に向かおうとするやつに俺が言うはずのものでは?」

「じゃお望み通りに」

 そのまま彼女は、俺の横をすり抜けて颯爽と階段を駆け下りてしまった。

「何やってるんだろ俺…」

 本来なら今頃は、買い込んだラノベを読みあさっているか、ネットの波でサーフィンをしているかのはずなのに…。

 その時、下からガラガラガラッ!!という凄まじい落下音―というか恐らく棚の上にあった大量の缶詰めが崩落した音――と、「きゃあああ!?」というありがちな悲鳴が聞こえたので、俺は頭をかきつつ、音の発生源へと向かうことにした。



「いただきまーす」

「どーぞ、召し上がれ」

 言うなり、ため息がもれる。

 あのあと、予想通りに一つ残らず落下していた缶詰めに埋もれていた少女をサルベージした後、お腹空いたを連呼する彼女に適当な物を作り、そのあと床に散らばった幾十を軽く越す缶詰めを棚の上に上げていたのだが、これがなかなかに骨の折れる作業だった。

 そもそもなんでそんなに缶詰めがあるのかと言えば、両親が共働きの家ではちょくちょく食材を買いに行って料理するという事が無理らしく、なので自分たちはインスタントラーメン等を食べ、足りない栄養を保存のきく缶詰めやらで補うという生活が日常化しているのだ。ちなみに両親の料理スキルが皆無のため俺は自炊生活。

 というか足りない栄養だったらサプリメントで補えるのでは?という問いを昔両親にぶつけてみたこともあったのだが、「あんな人工の物に頼ってたら人間ダメになっちゃうでしょ」とかいう答が返ってきた。あんたの食べてるインスタント食品もご立派に人工の#食品添加物#(モノ)が使われてるっつーの。

「あんまりジロジロみないでもらえるかな」

「…んあ、ごめん」

 と言いつつも、視線はバッチリ眼前の少女を捉えている。

 よく考えてみれば、今俺は素性の知れない少女を家にあげて(あげた覚えはないのだが)夕飯を食べさせている状況なのだ。何この攻略フラグ丸出しなシチュエーション。

 だが、そんな暴食家の少女でもやっぱり女の子で、俺はやっぱり一人の男だということを思い知らせるイベントがやってくる。

「じゃ、風呂借りてるね。覗いたらコロすから、がんばって君の野生を理性で抑えててね」

「善処する」

 どっかりとソファに腰掛けていると、しばらくしてシャワーの音が聞こえ始めた。

 しかもよく耳を澄ませてみると、気のせいでなければ鼻歌が混じっている。

「…さて」

 どうしたものか。この状況。


脳内会議でも招集してみようかな?

『――……脳内会議招集!関係者は席に着くように』

『今度は何だ!?窃盗か?ハッキングか?色恋沙汰か?』

『うむ。最後のが近いだろう。では会議を始めるとしよう。最初に。君たちはこの状況を見てどう取る?』

『これは間違いなくチャンスだ!男なら迷わずその十円玉でそんなやわな鍵なんざこじ開けて中へ入って押し倒せ!!』

『いや、それはマズい。仮にも今こちらは魂を人質に取られたも同然の状況。迂闊に動けばそれは即刻我々の死に繋がろう』

『どちらにせよ俺たちはあと1ヶ月で死ぬ身だ!死ぬ前に卒業の一つや二つはしておきたいだろうが!』

『お前には貞操観念というものが存在しないのか、バカめ!仮にも乙女の純潔を奪うのだぞ、好感度を最大にしてセーブをしてから挑むのが常套手段という…』

『バカはお前だ間抜け!こんな好機が二度と巡ってくると本当に思うのか!?』

『じゃあいっそ、風呂の中で愛と友情を同時に…』

『ええい、こう話し合っていても始まらん!採決を取る!一人一票で、押し倒すか否か、どちらかに投票しろ!?』

『ぎ、議長!その言い方では…』

『ではまず、押し倒した方がいいと思う奴!…半数を越したな。本部に伝令だ、押し倒せ、と』

『………はっ』


採決をとった脳内会議に従い、決心を固めた俺は窓に鍵をかけ、薄手のカーテンと厚いカーテンを閉める。こんどは玄関に向かい、こちらもドアに鍵とチェーンがかかっているのを確認し、財布から10円玉を取り出して、鍵のかかった風呂ドアの前に立ち―

「――…ってオイ」

 何考えてんだ俺は。

 相も変わらずドアの中からは鼻歌とシャワーの音がして、風呂のドアに映るシルエットと相まってイヤでも中の様子を伝えてくる。

 しばし自分の内なる野生と接戦を繰り広げること数分、どうにか勝利を収めた俺は先ほどのソファに座ってテレビのリモコンを片手にジュースを煽っていた。『ふははは、やはり好感度を上げてチャンスを待つが吉なのよ!』とか『ほ、本部はなにをしているッ!?』とか聞こえたが気のせいだ。うん。

 押し倒すのもそれなりに魅力的なのだが、やっぱり命は惜しいんです。チキンとでもなんとでも言ってくだせぇ。

「おーい、あがったよ」

 唐突に声がかかり、振り返った俺は思わず飲みかけのジュースを吹きそうになった。

 なぜなら彼女はバスタオル一枚を身に纏っただけの、俺の精神衛生に非常によろしくない格好をしていたからだ。

 文章を見るのと、実際にこうして見るのとでは本当に雲泥の差がある。百聞は一見に如かずとはこのことか。

「あのさ、さっきも言った気がするんだけども、あんまりジロジロ見ないでもらえないかな」

「じゃあ、せめてその格好をどうにかしてくれ!」

 今回は謝るつもりなど毛頭無かった。

 これは絶対に格好が悪い。格好悪くはないけど。まあ眼福だが。

「どうにかするって?」

「服的な事象を身につけるという行為によって一刻も早く俺の精神衛生を回復させてくれ」

「あのさ、着の身着のままの着た切り雀でこの1ヶ月を過ごしてきた私が、同じ服をわざわざ着ると思う?」

「…ごもっともで。じゃあどうしろと?」

「あなたの服を貸して」

「え?」

「ああ、あんまり年の離れてない姉妹がいるならそっちでもいいけど」

「いや、いないけどさ…」

 嘘だろ。女の子が自分の服を(やむを得ず)ご所望してるとかどんなギャルゲーだよ。

「けど?なにか問題があるなら別に他の方法を探すけれど…」

「いや、大丈夫。貸すよ。ちょっと待ってて、今取りに行くから」

「あ、私も行くから。そのまま寝ることにする」

「…はぇ」

「なに間抜けじみた声出してるの。ほらさっさと行く」

「あ、ああ」

 未だバスタオル一枚の少女に急かされるようにして階段を上がる。

 上がりざまに『実はこの子貞操観念って言葉知らねーんじゃね?』とか『これなら押し倒しても問題なさそうだったな』とか頭の中で聞こえた。黙れ俺の野生。


今更気づいた。

ガラケー(4年目)で執筆してるから、区切りがものっそい気持ち悪い。

でもそれを直すだけの気力がない。


そんな感じで2話目です、アキです。

2話目っていうよりは、ひとつの小説を20個前後に分割したうちの2個目っていう表現のほうが正しいかとは思いますが、そんなことは気にしないで行きましょう。今日はとりあえず3話目まで出しときます。

もしかしなくても僕自身がこの更新ペースであっているのかも怪しく感じていますので、そこらへんに関するご意見もぜひいただければと思います。


では次行ってみよう→

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