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三月、幽霊少女と出会いました。  作者: 藍川ことき
一章 三月、幽霊少女と出会いました。
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16



「ずばり言おう。君の余命は今日限りだ」


「……え?」


自分の耳を疑った。


真奈は俺の余命が今日限り……つまりあと数時間だと言ったのか?


「もう一度言う。前に君の余命は一カ月と言った。それに、私もそのつもりでずっと行動してきた。だが、今となってはその予定もパーとなってしまったんだ。少年、君は今日何も行動を起こさなかった場合、桜原優人という一人の人間は、この世から消滅する」


「…………」


真奈は肩をすくめ、「嘘じゃないぜ」とおどけるそぶりをして見せた。


「これから私は少年に全ての事情を話そう。だけどそれは、これから君が起こすアクションによって変わる。私と一緒に着いてくるならば、少年には全てを話し、最善を尽くすことを共に誓おう。でも、もし少年が私やお嬢さんにこれ以上関わるのが嫌ならば、私は早々に作業の準備に取り掛かる」


「その作業の準備っていうのは―」


「もちろん、君とお嬢さんの関係をすっぱり切り離し、彼女をこの世から消滅させる」


「………っ」


「同情はするなよ、少年。これは本来自然な流れなんだ。もうこの世にいない者が、まだ生きている者を喰らって生き残るのは自然の摂理に反しているんだよ。少なくとも私は、それを止めたい」


「でも………」


「問うておくよ、少年」

 今の真奈の目には、鋭い光が宿っていた。少なからず、普段のような調子で話をしようとしているわけではないのだろう。

「少年には、全てを私に任せてお嬢さんとの縁を切るという選択肢もあるんだよ?少年には、その権利がある。ここで彼女と関わり続けたら、……今は敢えて具体的には言わないでおくが、少年はもう『日常』には戻れなくなってしまう」


「………」


「だけれども、これは強制じゃあないし、上から目線のアドバイスや勧告でもない。あくまでも今私は君に問いかけをしているんだ。その点を踏まえて、本当に私に付いてくるかどうか、決めてほしい」


「………………」


思わず歯を食いしばる。


いいのか?これで終わりにしていいのか?


今の真奈の言い方的に、ここで縁を切ってしまうという選択肢が最良であるのだろう。


自然の摂理に反せず、生者が残って死者が消えることが全世界共通の常識であろうことは容易に想像がつく。


でも、でも。


そんな堅っ苦しいもので、あっさりと美穂いうひとりの人間をこの世から消し去ってしまっていいのだろうか?


「でも、」


自然と声が口から洩れた。真奈はゆっくりとほほ笑み、俺の言葉を拾って語り出す。


「でも。それでも。少年がもし、そんな理不尽に抗いたいと思うなら。これから向かう道の先が茨の生えた悪路だとしても、燃え盛る火炎が路を塞いでいても、たったひとりの少女を救えるならそれでもいいと思えるなら。血反吐を吐いても、全身のどこもかしこも動かせないような疲労に見舞われたとしても、自分の信念の為に動けると誓えるような人間ならば。教えよう。世界を欺き、自らを痛めつけ、それでも尚、最後にたった一人の女の子を救うことができる、ヒーローになる術を」


その言葉を聞いた瞬間、全身を駆け抜ける熱い感覚とともに俺の中にあった不安や逡巡は、一瞬で消え去っていた。


「分かりました。行きます。―俺は、美穂を救いたい。美穂を救って、あいつにとってたったひとりの、ヒーローになりたい」

 そう言った直後に真奈が見せた表情は、今まで俺が見て来たものの中で一番すがすがしく、輝いて見えた。


「ならば決まりだ。出陣といこうじゃないか少年。弱音を吐くなよ?」






「で、さっきさらりとのたまいやがった美穂の名前が天城美穂じゃないとか、性格が美穂本来のものじゃないとかって、あれはどういう意味なんですか」


「その口調はもう固定なんだね」


今、俺と真奈は遊園地のど真ん中を話をしながら歩いていた。


ひとまず移動手段を遊園地の外に設置しているから、そこまでは徒歩で移動してほしいとのことだった。


「まあ、いまのところは真奈さん固定ですかね」


「………。名前と性格の話だったね。順を追って話していくから、おいて行かれないようにしっかりついてきてくれよ?」


「できればそれより先に、なんで俺の余命が数時間しかないのかってことが知りたいんですけど」


「分かった。そこから話していこう。一番最初、私が少年と初めて会った時にその日の夜の電話で人の体は魂に自分の魂に対して最適化されて、複雑に組み合わされていて、他人の体を借りたくらいでは魂が漏れていくのを押さえるのは恐らく難しいから、噛み合わずに魂が漏れていく隙間の部分を未練で補っているといったよね?」


「言ってましたね、そんなことも」


「今、理由は明確に分かってはいないのだが、モニタリング中のお嬢さんの精神状態が少し前から非常に不安定になっているんだよ。精神状態が不安定っていうのは、生きたいという願望、未練や心残りといったものでこの世にとどまり続けている幽霊にとってそれはもう、放っておけばすぐに消えてしまうほどに致命的なんだよ。でも、本人は本能的に生き続けようとしているから、失われ、自分の魂が漏れ出て行くぶんを補おうとして少年の魂が今、とんでもないスピードで消費されていっているんだ」


「で、そのタイムリミットが今日、と…」


「偶然の一致か運命のいたずらか、その時間は日付が変わる瞬間とほぼ重なっているね」


頭の中で、真奈が言ったことを咀嚼して反芻していると、ふと頭の中の一つの情報に、意識がひきつけられた。


「あっ…そういえば俺、少しそれに関して思い当たる節があるんですけど…」


「何だい?」


「えーと、それが…」


俺は、観覧車から降りてすぐ、美穂が自分の不注意から若いカップルにぶつかってしまったいきさつと、その時に一瞬美穂が見せた表情について話した。


「…なるほど、それは興味深い話だね。少年たちの事は逐一監視していたが、確かに今の少年の話とモニタリングしていたお嬢さんの精神状態の乱れが、ぴったりかさなる」


「…何か、分かりそうですか?」


「いや、今は何とも言えない。でも、これはあとで貴重な情報になりそうだ。ありがとう、少年」


「いえ、こちらこそ…で、美穂を救うったって俺は結局のところ何をどうすればいいんですか?」


「さっき言った通りに、お嬢さんの精神状態は今かなり不安定になっている。具体的に言うならば、自殺願望と生存願望が両方混在しているような状況だね。だから、少年はお嬢さんに会って直接話をしてきてほしい。ここは少年の力量が試されるところだよ」


「待って下さいよ、俺いままで他人と、ましてや女子と話したことなんてほとんどないのに、どうやって他人を説得しろって言うんですか」


「心を込めろ。人を説得しようと思ったら、相手の目を見て、真摯な態度で心の底から思ったことをそのまま話せばいい。飾ろうとせずに、ありのままの自分をさらけ出せば、それなりに言いたいことは伝わるものだよ」


「でも……」


「これは少年にとっての茨の道、即ち試練だ。がんばって乗り越えてこい」


「…まあ、善処しますけど」


「ならよし。じゃあ次はお嬢さんの名前と性格の話だよね?しっかりついてきてくれよ?」


「はいはい」


「まず、お嬢さんが自分が被害に遭ったという殺人事件。じつは、ここに天城美穂という名前の人はいないんだ」


「ええ?じゃあ、あいつは全くの別人になり済ましてずっと今まで生活していたってことですか?」


「ああ。あの連続殺人事件は、当時の天城株式会社の社長、天城泰造の娘であった天城美帆を狙ったものだ。犯人は、会社でリストラされて家庭崩壊を起こし、社長を逆恨みした元社員だったそうだよ」


「漢字違いなんですね。……ってじゃあ、その時に巻き込まれた人たちはただ単に巻き添えを食らっただけってことになるんですか?」


「うん、本当にかわいそうな話だけどね。ちなみに、不思議な事に全く面識のないはずのお嬢さんと天城美帆は、驚くほどに性格が酷似しているんだが、これはおそらく彼女自身がその社長のブログに書いてあった娘の性格や生活習慣を模倣したからだろう。これがひとまず現時点で分かっているお嬢さんに関する情報だね」


「…知れば知るほど、嘘偽りばっかりなんですね」


「私もつくづくそう思うよ。でも、わざわざ嘘をつくような理由がわからないんだ。あと、お嬢さんの本当の死因、そして生前の本当の名前も。一応下の名前は美穂だろうと予想しているんだけどね」


「じゃあ今はとりあえず美穂って呼んでてもいいんですかね」


「まあ、名前なんて呼ぶ人と呼ばれる人に相互の了解があればいいんだから、それでいいと思うよ」


「……にしても、こんなにゆっくり歩いていて間に合うんですか?やっぱり走ったりした方がいいんじゃ…」


「まあそう急くなよ。どうせ時間はいくらでも短縮が利くんだから」


「え?それってどういう意味……」


「まあ、もうすぐ着くよ。少年。さっそくだが心の準備はいいかい?」


言われた通り少し歩くと遊園地の外に出て、そこからしばらく歩くと駐車場についた。


「ほら、少年」

 そう言って真奈はヘルメットを造作なく投げてよこしてきた。

危うくキャッチし、頭につけたところで、ふと疑問が頭に浮かんだ。

「…あれ?自動車じゃないんですか」

「あれは来客用だ。それに、今回はこっちのほうが都合がいいしね」

 ぽんぽん、と排気音を響かせるバイクのボディを叩く。


真奈は遊園地にはバイクで来ていたらしい。にしても、バイクと自動車の両方を持っているとは、かなりリッチなのだろう。是非とも真奈の予算通帳を一回は拝見しておきたいところだ。

「さあ、乗れ少年。ここからお嬢さんのいるところまでは少しばかりかかるから、私がすぐそこまで送っていこう」

「ありがとうこざいます」

「礼を言うのはまだ早いよ。その言葉は、全部終わらせてから聞きたかったね」

「じゃ、そのときにまた改めて」


おk、今日はここまで。

また明後日かなあ

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