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「…俺が、嘘をつけるようなヤツに見えるか?」
その逡巡の末に思考回路から絞り出したのは、本音に蓋をした嘘だった。
「…そっか」
そう一言だけ呟き、美穂はまたすたすたと歩き出してしまった。
置いて行かれないように歩き出してから、なにか気の利いたセリフでもないかと考えてみる。
「なあ、少し休まないか?………俺、ちょっと疲れちゃったし」
前半部分を言った段階では返答はおろか、振り返ってこちらを訝しむような素振りを見せたため、さてはあまり気を使われたくないのかとアテ勘で慌てて後半を追加してみたところ、「そうだね」と一言ではあれど返事があった。グッジョブ俺。誉めても何も出やしないけど。
辺りを見渡すと明かりに照らされたベンチが見えたのでこれ幸いと美穂を促して腰掛ける。、
「…………………」
「…………………」
『―お待ちかねの沈黙タアァイム!時間と共に重くなる空気を桜原選手はどう解消していくのか!?』黙れ脳内MC。お前はすっこんでろ。
「えーと、」
「…?」
「今日、楽しかったな」
「うん、まあね」
「俺は、また来たい」
「私もかな」
「…………………」
「…………………」
ああもうなにやってんだよ俺。会話途切れちゃってんじゃん。さっき美穂に言葉のキャッチボールが大事って言われたばっかなのに。
救いを求めるみたいにベンチに座ったまま周囲を見渡すと、少し離れた所に自販機の目に優しくない光が見えた。
「……俺、ちょっと飲みもの買ってくるわ」
場の沈黙に耐えきれずに、美穂の無反応を振り切り、なんとかそれだけを告げて立ち上がり、自販機の方へ歩き出す。
背後で美穂が声をかけようとためらっているような錯覚に襲われて、思わず歩かずに駆け出してしまった。
「よく考えたら、なにが飲みたいか全く聞かずに来ちゃったんだよな……」
と、そんなミスに俺が気づいたのは、ぼんやりとして自販機の前まで来て、ポケットから小銭を取り出し、自販機に入れようとして手が滑り、その小銭を拾い上げた瞬間だった。
「…じゃなくて、」
俺のは例の国民的炭酸飲料(のとなりに並んでいるコーンポタージュ)でいいとして、まだ俺は美穂の好みを知らないのだ。ついでにいうと知るような機会もなかったし。
しばらくの黙考の後、たどりついたおしるこという結論を引っ提げて手の中の小銭を自販機に投入し、商品のボタンを押しこむ。無機質な音とともに出てきた缶を手にとり、二本目の金額を投入しながらも、俺の頭は全く別のことを考えていた。
美穂の、本当の未練。
前に聞いた時には、「自分の両親に未練がある」といって誤魔化していたが、じゃあ実際のところは何なのだろう?
真奈が言っていた『すでに死んでいるにも関わらず、この世にとどまっているのには未練があるからだ』という言葉を言い換えてみると、それはつまり生前報われない人生を送っていたということになるだろう。
美穂は自分の死因について『私はちょっと前にあった殺人事件で死んだ』と言っていたが、もしそれすらも嘘で、本当の死因が別にあるとしたら?
美穂から聞いたあの過去が、全くの偽物であったとしたら?
…俺はまだ、美穂から本当の生前の話を聞いていないことになる。
だとしたら、なぜ美穂はそんなことをする必要があったのだろうか?
考え得る可能性はそれなりにあるが、今考えてもおそらく結論は出ないだろう。
「まあ、明日以降に考えるかな…」
誰に聞かせるともなく呟き、思考をいったんそこで打ち切って俺は二人分の缶を手にその場を立ち去った。
第四章
―あとから分かったことだが、俺たちが遊園地に出かけていた日に出ていた月は、待宵月と言って満月のちょうど一日前に上がる月だったらしい。
観覧車から見えた空に浮かぶ丸い月を見て、これは満月だろうと直感したのだが、よく思いだすと、確かに若干欠けていたような気もする。
その月は、待宵月を満月と錯覚した俺をあざ笑うように夜空に煌々と輝いていた。
そう、俺は錯覚を、勘違いをしていた。信じ込んでいた。
…美穂が俺に接するのに見せていたあの表情が、美穂のものだと。
…美穂の名前が天城美穂だと。
…俺が飲み物を買って来た時に、美穂は座っていたベンチにそのままで座っていると。
「…………って感じのことがあったって言ったんだよね、少年?」
「違いますよ!何ですかその詩的でセンチメンタルでぶっちゃけ厨二全開な言い方は!?」
「でもお嬢さんがいなくなってるのは事実だろう?」
「そうですけど!ってか何ですか今さらっとのたまってくれやがったのは!?」
「口調が乱れてるよ、少年。人に話を聞きたいならきちんと真摯な態度で接しなくちゃね」
「…分かりましたよ、ちゃんと―」
「あ、ちょっと待って」
「?」
「……よし、準備OK。さあ、こっちの準備はできている、いつでも来てくれ少年」
「いやちょっと待てどこから出てきたんだそのハンディカムは」
「…少年はビデオカメラ=ハンディカム的な勘違いをしていないかい?あいにくとこれはキャ●ン製だ」
「でもそこにソ●ーのロゴが」
「ああ、キャノ●のロゴが気に入らなかったからがんばって付け替えた。で購入したア●ゾンの商品レビューの所に『ふぁっきんへる!BY美しいお姉さん』って書いといた」
「●ャノンとアマゾ●に謝ってきてください、今すぐに」
「よし、口調は乱れてないね。これなら大丈夫そうだ。じゃ、始めるよ」
「何をですか」
「もう音声入ってるからね、ほらお願いしてお願いして」
「こんなところでやれと」
「人は少ないから大丈夫だと思うけどねぇ」
「……女子トイレでする会話じゃない気がするんですが」
ということでそういうわけです。
かなり熱めの缶を二本も抱えてベンチに戻ったら美穂がいなくて、びびって真奈に電話かけてみたら場所を指定されてそこで話そうと言われて、とりあえずそこに向かってみたらさびれた風の女子トイレ(!?)で、そこにいた真奈に事情を話したところ、少々の黙考を挟んで真奈が何やら語り出したので、怪しみながらも聞いてみたら以下略って感じなんです。
「ほら早く早く」
「…えーと、じゃあ、教えてくださいお願いします」
「心がこもってない!もう一回!」
「教えてくだされば幸いです」
「それにしてもトイレに誘ってお願いするなんてなんていやらしい」
「色々抜けてるっつーの!!(アンタが自分から女子)トイレに誘って(美穂に関する情報提供を)お願いする(ことを強制する)ことのどこがいやらしいんだよ!?」
「まあまあそうカリカリしてないで落ち着いて」
「ア・ン・タ・の・せ・い・だ!!」
「分かった分かった、じゃあ今から私が言う通りのことを復唱したらちゃんと教えてあげるから」
「嫌な予感しかしないんですが」
「偉大な真奈さま」
「…………」
「はい復唱」
「いい加減ぶち切れますよ?」
「はぁ…。これだから最近の若者は…」
「こんなにいいように振り回されてキレない人はいないと思うんですが」
「しかたないなあ、このままじゃ会話も進展しないし、ここは偉大で聡明な上に容姿端麗でひと目見るだけで草食系はとろけちゃうようなこの私が直々に教えてあげよう」
「心の上澄みから数ミリリットル分の感謝と心の底から数キロリットルの憎しみを捧げておきますね」
「あ、少し待っててくれ」
そう言うと真奈は何を思ったか、ハンディカムもどきを持つ手を大きく振りかぶり、トイレの窓から外に勢いよく投げ捨てた。
「はあ!?」
直後、がっしゃあん!!という取り返しのつかない音が響き、ハンディカムもどきの確実な御臨終をこの場にいる人間に知らしめた。
「いやあ、一回ぐらいはやってみたかったんだよね、これ」
「やってみたいからって何でもやることが許されると思ったら大間違いですよ!?」
「ああ大丈夫、あの物体は私が自主制作した製作費三桁のハリボテだから、全然心配なくていいよ。もちろんレビューの話も嘘だ。…ただあれだな、すこし満足感に欠けるな。これは次にやる時は本物を―」
「使わないでください!」
「分かった分かった、ちゃんと少年には秘密でやるから」
「やるなっつってんだろ!!」
「じゃあ楽しいやり取りはここら辺にして、本題に入るよ」
「ああもうどうぞ、入っちゃってください」
「あれ?思ったより食いついてこないんだね、少年」
「時にはスルーすることも大事なんです」
「そうか…つまらないな……」
「いいから早く」
「はいはいっと。じゃあまあ、時間もないし単刀直入に言うよ」
時間がないならいまの会話はなんなんだと思ったが、ここで不用意に発言するとまた時間を削ってしまいそうなのでやめておいた。
なんだろう……
あんまり時間がないからほとんどチェックができてないけど…
ちゃんと文章として成り立ってるのかなこれ……




