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三月、幽霊少女と出会いました。  作者: 藍川ことき
一章 三月、幽霊少女と出会いました。
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 そう言いながら、ずいっとこっちに身を乗り出してくる。ってまて近い近い!!顔近いから息かかってるから!!どんだけ乗り出してんだよお前!

「いや、なんか、その、ごめん」

 混濁した意識と早まった動悸に促されるまま、気づいたらなんだか訳も分からずに謝ってしまっていた。

「分かればいいのよ、分かれば」

 何が面白いのか、美穂はすぐ目と鼻の先でニヤニヤと笑いながら、俺の前の席に戻っていった。

 最初と違う、少し俺に近い位置に座ったことに意味があるのかどうかは知らないが、とにかく俺はどぎまぎしてるのを知られないようにと、ポーカーフェイスを保ち…果たして保てているのかどうかは定かではないが、まあ真偽のほどはさておくとして、今現在ポーカーフェイスを保つために精一杯の努力をしているのだ。

「あれ?君顔赤いよ?…ははぁ、さてはさっき私が君に超接近したからどぎまぎしてるんだな〜?」

「違う違う、そんなんじゃないって」

 ちなみにお前も言いながら顔赤らめたりときおり声若干裏返らせかけてるから。おかげでこっちが少し落ち着けたわ。やっぱり男子に超接近する機会なんて女子にもそうあるもんじゃないのか?

「駄目だよ〜ちょっと女の子が近寄ってきたくらいで同様しちゃったらあっはっは」

「いや別にしてないし」

 だんだん早口になってきてる上にイントネーションが狂い始めてるし。

「その否定が逆に怪し」

「…なあ、別に我慢しなくてもいいんだぞ?」

 そろそろ美穂が可哀想に見えてきたので、助け舟を出すことにした。

「……………………」

「あの」

「別に我慢なんてしてないんだからね!?」

 ぴしゃりとはねつけると、美穂はそのままそっぽを向いて黙り込んでしまった。

「あのさ…」

「……………」

「会話、するんじゃなかったっけ…」

「あーもーどうせ私は我慢してましたよ!」

「いや、指摘するつもりはないんだけど」

 そう言うと、美穂は一つため息をついて、こっちをじっと見つめ、たと思えばすぐにまた真横に視線を向けてしまった。髪の隙間から見える耳がやや赤いことから察するに、俺(男子)に急接近していたことを思い出して恥ずかしくなったのだろうか。

「ええと、やっぱ、こう…男子に急接近するって、生前は無かったのか?」

「そんなに男子と話したことなんて無かったんだし、私が恥ずかしいと思うのは当然なんだから、そこら辺は察して欲しかったな」

「無理ゲーだろ、俺エスパーじゃないんだし」

「どちらかというと常識的な方の意味で」

「あー、そこは何というか、うん」

 謝るのはなんだか癪に障ったので、ちょっとうやむやにした。

「なんなのよ、言いなさいよ」

「何でもないよ」

「言いなさいって」

「別に何も隠してなんてないから大丈夫だって!」

「その言い方は何か隠し事をしてる人が誤魔化そうとして誤魔化し切れてない#定番#(ベタ)なセリフ!よって君には隠し事があると見た!!」

「違うって、今のは言葉のあやで…ってかどんな」

「その発言は君がどつぼにはまっていくだけだよ!!さあさあ吐くんだ、吐いちゃえばすっきりするぞ!?」

「だからあれだよ、ただ単に謝るのがなんか嫌だったから言いよどんだだけだって」

「そんなたった今思いついたとでも言わんばかりの嘘で神様は誤魔化せても私は無理だからね!?」

「だ、だから本当なんだっての…」

「どこまでしらばっくれるつもり!?仕方ない、こうなったら拷問でも…」

「待てっての!そんなお前に有益な情報は持ってな…って言ってるそばから高速で手をワキワキさせんな!怖いから!!」

 結局、結構自然な流れで会話(と称した不毛な言い争い)は俺達が観覧車から降りるまで続いていた。



 乗ったときと同じように係員の誘導で観覧車から下ろされ、また夜の遊園地の喧騒と終わりかけの冬特有の微妙に肌にさすような空気の中に投げ出された。

「うへぇ…俺らこんな列に何十分も並んで、乗れたのはたった十分かそこらなのかよ」

「最初に観覧車に私と二人っきりで乗りたいって私を誘ったのはそっちでしょ」

「違うっての、お前があんまりにも絶叫系マシンが好きで俺を巻き込んで乗り回すから、休憩がてらにって言ったんだよ」

「どちらにせよ誘ったんじゃない」

「椅子に座って休むことを休憩すると呼ぶことを良しとしない人がいなければ別段乗りはしなかったかな」

「だってたまたまチケットを二枚ももらえたのに、それを有効活用しないのはもったいないじゃない」

 何故かチケットをもらったくだりを強調してきたり、にやにやと笑っているところを見ると、もしかしたら真奈からチケットを内緒で譲り受けていたのがすでにバレているのかも知れない。

 まあ今俺にそれを確認するすべがないので、せいぜい皮肉を込めて、

「そうだな、美穂の未練が両親にあるって分かったんだし、今日は思い切り楽しまないとな」

って言い返してやった。

 自分がついていた嘘の部分をつかれて、動揺したのか、美穂の笑みが一瞬ひきつったように見えた。

「まあ、時間が半分以上たってから言う言葉じゃないけどな」

「確かにね」

 だが、直後には美穂の顔には余裕が戻っていた。見間違いだろうか?


「………………」

「大丈夫?もしかして具合悪いのか?」

「や、大丈夫大丈夫」

 手をひらひらと振って答える美穂。だが、その声に普段のようなハリがないことから、本調子とは言い難いことが分かる。理由は、多分言うまでもなく自分の未練を言い当てられたから―なのだろうが、ストレートに質問するということが出来ないので、今は『具合悪いのか』という風に聞くことしかできない。

「なあ、無理しなくても普通に休んで…」

「だ、大丈夫だからっ」

 そう言いながら、俺から逃げるように走り出した美穂。だが、休日の、それも観覧車という夜のカップルの巣窟のすぐそばで慌てて走るようなことがあれば、何かしらのトラブルを起こすのは必至だ。

「うわっ!?」

 当然というべきか、美穂は走り出して十秒足らずで通行中の数多のカップルの内一組、それもいかにもなチャラい男女のカップルに衝突し、その場に尻餅をついてしまった。

「おい、大丈…」

 せめてぶつかるならもう少し柔らかい雰囲気のカップルにしてくれよと胸中で愚痴をこぼしつつ、眼前に立ちはだかるやや疎らな人をすり抜けて、美穂の元へ駆け寄った俺は、美穂に声をかけ、ようとして途中で口をつぐんだ。

 美穂は尻餅をついてはいたが、別段罵声を浴びせられていたとか、暴行を加えられていたとか、そういうことは無かった。

 じゃあ、何故俺は閉口してしまったのか。

 実際、美穂が尻餅をついていたのはほんの少しの間だったし、俺もすぐに美穂に手を貸して立ち上がり、カップルの二人組に謝って、その場から立ち去った。

だが、ごく僅かの間、おそらく数秒に満たない時間、美穂がカップルと視線を交錯させていたときがあった。

 その時、その二人組を見ていた美穂の目に、何か普通ではない色が宿っていたのだ。

 少なくとも、その瞳に宿っていた感情は、そば目から見ても何も面識のない人に向けるようなものではないように見えた。


 例えば、憎悪。

  例えば、恐怖。

   例えば、怨嗟。

    例えば、憤怒。

     例えば、絶望。

      例えば、

       例えば、

        例えば―――。


 見るものにドロドロとしたとてつもない悪意を感じさせるような瞳で、美穂はそのカップルを見つめていた。

 見るものすべてを闇の深淵に引きずり込み、挽き潰そうとする意志すら感じ取れるような美穂の横顔に俺は一瞬絶句し、声をかけるのを躊躇ったのだ。

 何百倍、何千倍にも引き延ばされた時間がのろのろと過ぎ去った後、美穂がゆっくりとこっちに向き直ってきたときには、恐怖で五臓六腑全てが浮き上がるかと思ったが、幸いと言うべきか、美穂の表情や瞳に浮かぶ色は普通のものに戻っていて、心底ほっとして胸をなで下ろした。

 そしてまずはカップルに謝罪をし、美穂に手を貸して起こすと、もう一度カップルに謝って足早にその場を立ち去った―というわけだ。

「もう…いいよ」

 ふと、後ろを歩く美穂ポツリとつぶやいた。

 ほぼ同時に、ガクンと後ろに引っ張られる感じがして、無意識に手を繋いでいたことを思い出し、慌てて手を離す。かなりでたらめに走り回っていたせいで、いまどこにいるのかが全く分からない。

「あ…手、ごめん」

「ううん、大丈夫。…ありがと」

 やはり、その言葉にはいつものようなハリや力強さは無かったが、素直にお礼を言われて、思わずはにかんだ。

「いや…まあ、さっきのは俺もほぼ無意識だったしな…」

「あのさ…さっき、見た?」

「……?」

 主語を伴わない疑問文に、俺は困惑した。

「私、の、こと…」

 その一言は、歯切れの悪い呟きであった上に、後半は消え入りかけたような声でしかなかったが、俺がさっき美穂の見せた表情を思い出すには十分な言葉だった。

「…いや、見てない」


頭の中を駆け抜けるイメージに蓋をして、そう答えた。

「ほんとに?」

 心なしか、強めの口調で怯えたように尋ねてくる美穂の声を聞いて正直なところ、良心がいたんだ。ここで素直に本当は見たんだ、と言わなくていいのか―と。

 しばらくの逡巡を見透かされたように、気づいたら美穂が下から目線で俺を見つめていた。


ここに書くことがないって書いてみる。

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