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梅宮宵子編 上

「梅宮宵子編 上」に続いて本日中に、中と下も投稿します。

よろしくお願いします。

 わたしは男性が怖い。


 どれだけの時間が経とうが、もう結婚なんて考えることはないと思う。両親に悪い気もしないではないけれど、孫の顔なんて見せてあげられそうもない。

 あの時のことを思い出すと喉の奥からずっしりとした重いものがせり上がってくるような感覚を覚えるのだ。


 相手が見ていたのは”わたし”ではなかった。

 相手が勝手に自分の中に作り上げた可愛らしい”何か”。

 都合よく愛想を振り撒き、猫撫で声で甘える気味の悪い”何か”。


 あのような、わたしの気持ちを勝手に作って無視してくる生き物、嫌いだ。

 動物的で短絡的で、勝手に想像して——


———


 今日、わたし梅宮宵子は初めて街コンというイベントに参加する。

 きっかけは年齢だ。いわゆるアラサーになってしまって、重い腰をようやく上げる気になったわけだ

 街コンなどという対面のイベントは気が進まなかったが、これまでにした婚活はどれも上手くいかなかった。


 もちろん、マッチングアプリもインストールしてみて恋活から始めてみたが、良い人はいなかったのだ。

 たくさん”いいね”は付くものの、明らかに性格が合わないプロフィールの人や、年齢が十は上の人とかばかりで。さらに、申し訳ない気持ちもあるけれど、顔が受け付けない男性、高卒の男性とかを流していると本当に相手が限られてくる。

 そして限られた相手の中から、いざメッセージでやり取りを始めても二言目には「週末ひま?」とか、「電話しない?」とかそんなものばかりだ。


——なんで、よく知りもしない相手なのに自分と合うと思えるんだろう?メッセージでやり取りして、多少話してから合うか合わないか判断すれば良いのに。それから会った方が良くない?


 宵子はそんなことを考えながら街コンが始まるまでカフェで時間を潰していた。土曜日だからか、カフェには家族連れも多く、賑やかだ。

 カフェ・オ・レの中の氷をストローで沈めながら、街コンを勧めてくれた友人の由美に返信しようとスマホを取り出す。すると、必然目に入るマッチングアプリ。

 スマホのメッセージアプリをまとめたフォルダの中に、馬鹿みたいなピンク色で鎮座するマッチングアプリを苦々しい思いで宵子は眺める。


 宵子の、絆創膏を貼った人差し指がちくりと痛む。今朝落としたマグカップの破片で切ったところだ。


——だめだ、これから街コンなのにスマホを開くと変に気持ちが沈んでしまう。


——わたしと気が合う普通に良い人でいいから会えればな…。できれば、顔もイケメンであればあるほどいいし、さらにお金持ちなら言うことなし!……ま、高望みはしませんけどね。


 無駄な思考を巡らせている途中、ふと右腕につけた淡いピンクの腕時計を見る。安物だけど、おしゃれでお気に入りのものだ。

 腕時計は集合時間の二十分前に分針を合わせていた。


「あ、やばっ、そろそろ会場に向かわないと…。」

 街コンの運営から来たメッセージを改めて確認すると、十五分前から会場入りが始まると書いてあった。もう既に何度かは確認しているが、なんとなく見てしまうのだ。


 手早くハンドバックにスマホを入れ——る前に、カメラアプリで前髪をチェックする。

「うん、変じゃない。行くか…!」


 そうして宵子はカフェの席を立ち会計を済ませたあと、街コンの会場に小走りで向かった。


———


 会場はビルの一室、レンタルオフィスにあった。会場の前まで来ると、スタッフらしき人の声が聞こえてくる。


「〈参加者の方は〜。〉」


——もう、他の参加者の人来てるんだ…。わたしの恋人になるかも知れない人も…。〜っ、だめだっ!


 いざ始まるとなると緊張してきて、一度お手洗いに避難することにした。落ち着かない気分だった。宵子はもう一度鏡でメイクが崩れてないか、前髪がはねてないか確認する。

 そして、数分後に宵子は深く息を吐いて気合を入れてお手洗いを出た。会場前には、他の参加者はいないタイミングだったようで、女性のスタッフしかおらず少し救われた気持ちになる。


「こちらの紙にプロフィールを記入してくださいね。それを元にお相手の方とお話ししてもらいますから。もちろん、全部埋めなくても大丈夫ですよ。」

 スタッフの女性はにっこりと笑いながら、B5くらいの右上に番号が振られた用紙と書きにくいプラスチックの鉛筆を宵子に渡す。渡された用紙の番号は八だった。


「あ、ありがとうござ——」

 宵子はスタッフにお礼を言おうとすると、彼女の視線は背後に向けられていた。

 つられて、宵子も背後に視線を向ける。


 そして、再びにっこりと笑って宵子にした説明を繰り返す。

「あ、参加者の方ですね?こちらの紙に——」


 そこにいたのは細身の背の高い男性だった。

「あ、どうも、すません…。」


 彼も緊張しているらしく、低い声でぼそぼそと——声が小さいわけではないが聞き取りにくい声で——スタッフに頭を下げる。

 そして、周囲を伺うようにスタッフの顔や会場の中を彼は見る。そして、最後に観念するように宵子と視線を合わせた。


——この人も参加者、か。少し年上かな?見た目は悪くないけど、どんな人なんだろう…?


 宵子はごく自然な気持ちで相手を値踏みする。このような場なのだから当然と言えば当然なのだが、そう考えた直後に相手に悪いことをしたと思い直す。

 そして、宵子は詫びる気持ちで微笑み会釈した。


 男性は先手を取られたという感じで、慌てて会釈を返す。


 それを見て満足した宵子は、ひと足先に会場に向かった。

 会場には既に何人も参加者がいて、一心にプロフィールを埋めていた。入り口にほど近い場所に座る、参加者の一人の男性が早めに書き上げたようで、座ったまま宵子に挨拶をしてくる。


「こんにちは、竹原です。会場の場所、少し難しくありませんでした?僕はちょっとわからなくって、裏のビルの方に行っちゃいましたよ…。」

 竹原と名乗った男性は愛想良く笑いながら、頭を掻く。青地のシャツで爽やかな雰囲気だ。だが、ちょっと鼻がぺちゃっと潰れていて、鼻の穴も大きい。


 いきなり話しかけられて、少しどきりとしつつも悪い気まではしない。宵子は会話をつなぐ気持ちで返答する。

「あ、梅宮です。こんにちは、わたしはちょっと早めに来てて、下のカフェでゆっくりしてたから…。」


「なるほど、カフェか!そっちを探してくればストレートに来れたんですかね?いや、僕もそうすればよかったな…。」

「あなたはどうでした?迷いませんでした?」

 竹原は、宵子の後ろで「どの席に座るのが正解なんだ?」と困惑する、先ほど受付で一緒になった男性に声をかけた。


「へ?あ、自分はそんなに迷わなかったかな…。えと、門松って言います。よろしくお願いします。」

「ただ、初めて来たからちょっとだけ遠回りになっちゃったかな?」

 細長い門松は竹原に声をかけられたことで、意を決したように宵子の隣の席に座った。


 椅子を引く門松の腕は細身ではあるが、筋肉もついていて男性の腕をしていた。


——枝みたいな腕って感じだけど、筋肉もあって、すらっとしていて指も綺麗なんだ…。


 別に手がフェチというわけではないが、宵子は少しだけ見入ってしまう。彼氏がいない歴はもうそろそろ五年をこえそうなのだから、仕方ないのだ。


「…えっと、何か…?」

 門松は笑っているつもりらしい表情で宵子を見る。


「あ、や、えーと、梅宮宵子です。こういうところ不慣れで…。緊張しますよね!」


 竹原は宵子の話にのってきて、盛り上げようと大げさなリアクションを取る。

「あ〜そうですよね!僕も緊張します。どうしよ、もう一回トイレ行っとこうかな、ははっ。」


「確かに!俺…僕も早めに書いてトイレ行っとこうかな…。」

「——梅宮さん…宵に子で、よいこですか?」

 門松が宵子の書き始めたプロフィールを覗き見て話しかけてくる。


「そうです。宵に生まれたからということと、駄洒落みたいだけどよい子に育ちますようにって両親が。」

「——”門松”さんって、おめでたい感じの名字なんですね!」

 早速、男性に話しかけられてなんとなく舞い上がってしまう宵子。自然と笑みが溢れる。


 門松も少し緊張がほぐれてきて、宵子につられて微笑む。

「ふっ…。ですね。宵子さんはそのお名前気に入ってるんです、ね?」


——“宵子さん”…?いきなり名前呼びって…。初対面なのに距離感の近い人だな。ちょっと苦手かも…。


「…うーん、嫌いではない…ですけど。…でも、”子”とかつくとちょっと古臭い感じがして、嫌とまでは言わないですけど…。」

 宵子は少しぎこちない表情で笑う。


 宵子と門松、竹原が雑談をしながらプロフィールを埋めていると、受付にいたスタッフの女性が会場に入ってくる。

 既に席の大半が参加者で埋まっており、イベント開始を予感した全員がスタッフの女性に目を向ける。


「では、そろそろお時間ですので始めますね。わたし、運営の篠田と申します。よろしくお願いします。」

 篠田が会釈をする。


 会場内からはぱらぱらと拍手が響く。しかし、全員が拍手をしなかったので、タイミングを間違えたというように、その音はなくなる。


「——ありがとうございます。えー、まずは今日の流れをお話ししますね——」

 篠田がイベントの流れを説明していく。


 要約すると、女性はプロフィール用紙の番号と対応する番号の席に移動して、男性が八分交代で入れ替わりで移動していく形式らしい。気になった人がいれば手元の紙に書いて投票となる。


「——最後にお互いに投票した男女の組がいればカップル成立となります。」

「緊張して話しにくいよ、という方もいらっしゃると思います。それぞれの時間にお題を発表していきますので、そういう方はそれに沿ってお話ししてみてください!」

 説明を終えた篠田。彼女の手元にはいつから使っているのか、年季の入ったラジカセがありスタートボタンが押される。どこかで聴いた覚えのあるクラシックが流れ始め、参加者たちは移動を始めた。


 宵子の最初の相手は竹原だった。


「どうも、さっきぶりですね。改めまして、竹原祐二です。」


「はい、よろしくお願いします。梅宮宵子です。」


「〈お題の発表をしますね。お題は最近した外食について、です!〉」


「外食…か。どうします?お題の話…。」


「ま、無視でいいでしょ。まずは自己紹介しましょ。」

「名前は竹原で、友達からは祐二とか、タッキーとか呼ばれてますね。趣味はサイクリングです。河原とか走ると気持ちいいし、あと自然が好きなんですよね。仕事は普通の会社員やってます。タイプの女性は家庭的な方かな?僕が家に帰ったら晩ご飯用意しててくれて、みたいな。ちょっと考えが古いって言われるんですけど、親父とお袋がそんな感じで、憧れがあるんですよ。」

 竹原はプロフィール用紙をチラチラと見ながら、読み上げるように一息に話してしまう。


——ちょっとしたエピソードも交えながら話すと良いのかな?


「わたしは…梅宮宵子なので、梅ちゃんとかよいちゃんとか呼ばれます。趣味は韓国ドラマ観ることですね。最近は韓国語の勉強もしてて、韓国に一緒に旅行行けたりすると嬉しいです。仕事は運送会社で経理してます。タイプの男性は気遣いができる人、ですね。前の彼氏がちょっとそういうのできない人だったから…。」


「じゃあ、僕おすすめっすよ!お袋に鍛えられて、掃除に洗濯、料理ひと通りできるから、梅宮さん…にしんどい思いとかさせませんし!」

「韓国ドラマ好きなんすね!僕この前あれ見ましたよ、あの六人の男女が同棲してってやつ——」

 竹原は盛り上げるためらしいがこの後もずっとドラマの話をしていた。


 宵子も好きなドラマの一つだったのでのってしまって、お互いのことをあまり話せなかった。そんな感じで過ごしたせいで八分間はあっという間に過ぎてしまって——。


「〈八分経ちましたので、男性はお席の移動をお願いしまーす!〉」

 篠田による終了の声が響く。


「あ、しまったなぁ。つい話し込んじゃいましたね…。ドラマの話またしたいのでよかったら投票よろしく!」

 竹原は残念そうに眉を顰めて笑う。席を立つ時に「よっこいしょ」と言って立ち上がって次の席に向かって行った。


——悪い人ではないんだろうけど、恋人って感じじゃない、かな?ちょっとおじさんくさいし…。


 その後も、三人と話したがピンとは来なかった。キャンプが好きだという人、アピールにならないのにスロットが好きとわざわざ言う人、フリーランスの人。


——なんか、イマイチ誰が良いかわかんないなぁ。キャンプとか、虫が苦手だからあんまり行きたくないし…。


 そして、次が最後の相手だった。

 最後の相手は最初に少し話した門松だった。


「よろしくお願いします。宵子さん。」

 緊張がほぐれて自然体になってきた門松の声は最初より聞き取りやすくなっていた。


「門松さん、よろしくお願いします。」


——この人で最後、か。


「僕から、自己紹介しますね。門松健太と言います。あだ名とかなくって、普通に門松とか、健太って呼ばれます。誕生日は十一月八日です。今はこんな感じですけど、昔は剣道してました。だから、割と運動は嫌いじゃないです。仕事はルート営業ってやつですね。だから、多少場所によって残業になったりするけど、それほど大変さがなくて良い感じです。タイプは好きになった人がタイプって感じですね。付き合ってみないとわからない気がします…。」

 門松は時々顔を顰めるように笑いながら自己紹介を終える。


「改めまして、梅宮宵子です。友達からは梅ちゃんとかよいちゃんて呼ばれます。誕生日は十二月二十七日です。部活は料理研究部に入ってましたね。運動はあまり好きじゃないんですけど、最近ダイエットのためにジムに行ったりしてますね。」


 門松が宵子の話の途中にぱっと表情を変える。

「あ、ジム行くんですね!どこのジムですか?俺はリベラルに行ってますよ。」


「へー!偶然ですね!わたしもリベラルです!あそこシャワーも使い放題だし、24時間あいてるから行きやすいですよね!」

「——で、仕事は経理ですね。決算が近いと大変ですけど、普段は残業とかはなくって。できれば、ずっと働いていたいなって思ってます。で、最後タイプでしたね。タイプは…気遣いができる人がいいですね。」


「うん、確かに。気遣い大切ですよね。夫婦だって、結局は血の繋がらない他人だから、長く続くためには気遣いが大切だと僕も思います。」

 門松は少し嬉しそうな顔で笑いながら相槌を打つ。


「門松さんは今は一人暮らしですか?」


「あ、健太で良いですよ。——今は実家です。大学が地方で一人暮らしだったんですけど、家事とか大変で…。で、こっちに戻ってきてからはなんとなく一人暮らしする気にはなれなくって。だから次家出る時は結婚とかする時かなって考えてます。」

 門松は机の上で右手で左手の指を捕まえて神経質そうに揉む。

「宵子さんは?実家…ですか?」


「いや、わたしは一人暮らしですね。わたしの場合ずっと地元で、大学も地元で…。実家を出る理由がないままだったから…だから、社会人になったタイミングで実家から少し離れたところにアパートを借りました。だから一人暮らし大変とかはわかりますね…。母の偉大さが身にしみます…。」

「でも、今の家は会社まではちょっと遠くて…。できれば中心街の方に引越ししたいなって。ただ、実家から離れると寂しいから恋人と一緒が良いなって思います。」


「そうなんですね!俺も会社まで二回乗り換えがあるから中心街の方に引越したいです!」


——それなら、割と条件的には合いそうな感じかな?


「なるほどー。——健太さんは料理とか結構されるんですか?」


「まあまあですかね。一人暮らししてたから、自炊で色々作ってはいました。今は実家なんであれですけど。」


「わたし…はどうでしょう…。やりはするんですけど、自炊って結局高くついちゃうから…。土日とかはちゃんとレシピ見ながら作ったりしますよ!——あ!メシマズってやつではない自信はあります!」


「なるほどー。仕事しながらだと自炊とか難しいですからね。宵子さんは頑張ってると思います。…素、敵だと思いますよ!」

「どんな料理が得意なんですか?」


——ふふっ、褒めなれてない感じ。ちょっと可愛いかも?


「得意、料理は…だし巻き卵、かな?お弁当に入れるのによく作るから。」

 宵子は少し悩みながら答える。あえて聞かれると得意料理というのは出てきにくい。普段から作っていると、なおさら良し悪しがわかってしまって、簡単に”得意”なんて言いにくいのだ。

 だから、宵子はよく作るものを答えた。


「おぉー、良いですね!綺麗に巻くの難しいんですよね、あれ。最初の方なんか巻くの諦めて適当に端に寄せて塊作って、それを芯に巻いたりしてますね、俺は。」


「ちょっと片栗粉入れるのがコツですよ!破れにくくなるから、巻きやすくなります!それから——」


 門松とは最初の緊張しがちな印象とは裏腹にかなり話しやすかった。

 宵子と門松は共通点が比較的多く、話題が尽きなかったのだ。


——なんというか、不器用なんだろうな。距離感が近い人とか思ったけど、どっちかっていうと間違えてるだけで、馴れ馴れしい人ってわけじゃないみたい。


 盛り上がっていた二人の会話だが、それを分断するように今まで流れていた音楽が止まる。


 そして、篠田によってアナウンスがされる。

「〈本日のイベントはまもなく終了となります!投票用紙に記入いただけましたら、この、わたしが持っているこの箱に投票してください!小休憩を挟んだ後に、成立したカップルを発表しますね!〉」


 門松は名残惜しそうに「じゃあ」と言って席を立つ。


 宵子は門松の背中を見送ってから、手元の投票用紙に視線を落とす。少し悩んだが、”門松”と”竹原”の名前を書き込むことにした。


——健太さんは、ちょっと神経質そうだけど話は合うし、見た目は嫌いじゃない。


——竹原さんは友達には良さそうな感じだけど…。まあ投票しておいたって悪くはない…と思う。


 宵子は少しの迷いを残したまま、投票用紙を篠田の所に持っていく。「悪い選択ではないはずだ」と自分を説得しながら。


———


 十分後。

 参加者たちが投票を終えて、篠田が中身を改め終わる。


「お待たせしました!カップルは…2組成立してます!おめでとうございます!」

 篠田が拍手をして祝う。仕事だから何度もやっているだろうに満面の笑みを浮かべて嬉しそうだ。


 篠田につられて参加者たちもパチパチと拍手をする。


「吉田様と貝塚様のカップル、門松様と梅宮様のカップルの二組です!こちらへどうぞ!」


 篠田に名前を呼ばれて、宵子の心臓がどくんと跳ねる。


——カップル成立…。嬉しい、けど…。今更だけどカップルって言葉ちょっと大袈裟じゃない?まだ、好き同士とかじゃない、”気になる”同士じゃないの…。


 宵子は内心で抵抗を覚える。だが、素直に喜べない自分がなんだか嫌で、表面上は笑顔を作って立ち上がる。

 少し離れた場所で門松と、別の男女の組も立ち上がる。


 篠田の元に向かって宵子が歩いていくと、段々と門松との距離も近づく。宵子の目に彼が顔を赤くして歩いているのが映った。


———


 イベントの終わりはあっさりとしていた。成立したカップルに篠田が何やら祝いの言葉を言って、参加者たちが改めて拍手をした。それからお互いに連絡先を交換した。

 成立はしなかったものの、参加者同士で連絡先を好き好きに交換してから解散となった。


 宵子は竹原にも投票していたが、カップル成立しなかったところを見るに「彼は投票しなかったんだな」と思っていると、彼が宵子のところに歩いてきた。

「カップル成立おめでとう!いや、僕は残念だったよ…。——あと、ちょっと謝っとこうかなって。実は梅宮さんに投票しなかったからさ。なんというか梅宮さんとは友達にしかなれない気がしてね…。」


「それなら、気にしないでください。わたし…は投票はしたんですけど、それは同じく竹原さんとは友達にはなれそうだなって感じたからで…。」


「ほんと!?じゃあさ、連絡先だけ交換しようよ!韓国ドラマの話できる友達はいなくってさ!」


 こういう経緯で宵子は門松と、竹原の連絡先を知ってその日は帰った。

 二次会がどうとかいう話もあったが、宵子は気疲れしてしまって参加はしなかった。門松が少し残念そうな顔をしていたが、仕方ないだろう。またメッセージでやり取りすれば良い。


 宵子が自宅アパートに着くと、もう二十時を回っていた。ひとまず、お風呂を沸かしながら手洗いをして、メイクを落としにかかる。

 ふと思い立ち友人の由美に電話をする。終わったら連絡をしてくれと言われていたのだ。


「〈おつかれぇ〜、よいちゃん遅かったねぇ。今、家…だよね?で、どうだった?〉」

 由美のぽやぽやした声が電話口から聞こえてくる。お酒を飲んでいるらしい。


「う〜ん、まあ行って良かった、かな?」

 宵子は由美の相変わらずな声に安心からくすりと笑う。


「〈良い人見つかったんだ?〉」


「でもこれから仲良くなってからじゃないとわかんないけどね。一応カップル?成立して連絡先交換したよ。」


「〈おぉ〜、やったじゃんかぁ。やっぱありだったっしょ街コン——〉」


ピロンッ


 スマホの電子音が鳴る。宵子が電話中のスマホを見ると通知が表示されていて、門松と書かれていた。


「あ、ごめんちょっと待って。今日の人から連絡きたみたい。」


『今日はありがとうございました。宵子さんとお話しできて楽しかったです!自分緊張しいで、上手く話せなかったから、誰からも投票されないだろうなって思ってたんで、カップル成立して良かったです!』


 開いたメッセージの内容はお礼だった。門松らしい内容だなと思い、宵子は目を細める。返信をどうするか、丁度電話している由美に相談しようとすると——


ピロンッ


 立て続けに門松からメッセージが来る。


『宵子さんとまたたくさんお話できたらなって思ってるんですが、来週末にでもカフェでお話ししませんか??』

お読みくださりありがとうございます。

梅宮宵子編とあるように、門松健太編も後日投稿予定です。

二人の認識がいかにしてズレたのか、何が起こっているのかをお楽しみください。

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