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【連載版】婚約破棄された公爵令嬢が「どこにも行かず、ただ走らせて」と言ったので、辻馬車は夜の王都を走り続ける  作者: Vou@書籍化進行中
第七夜 【乗客】闇夜に隠れる元侯爵

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第二十六話 間違い

 辻馬車が止まったのは、出発地である古文書保管庫の前だった。


 レオナルトは、おかしそうに笑った。


「まさか、探しものの馬車(ロスト・キャリッジ)がここへ帰ってくるとはな」


「父上は、何を探されていたのですか?」


「アルト、おまえも分かっているだろう?」


「……十年前の選択の正解、ですか?」


 レオナルトは頷いた。


「だが、正しい選択など、どこにもなかったのかもしれんな。探しものの馬車(ロスト・キャリッジ)が出発点に戻るなど、聞いたこともない」


「まるで、探しものの馬車(ロスト・キャリッジ)が探すのを諦めたように仰るのですね」


 レオナルトは苦笑した。


「そうかもしれん。存在しえないものを、見つけられるはずもない」


 アルトは静かに言った。


「エルンスト様も、似たようなことを仰っていました。存在しえないものを探していたのだと」


「エルンスト殿下が……?」


「あのお方は、王国民すべてが幸せになる方法を探していらっしゃいました」


 レオナルトは苦笑を深める。


「……王国民を救おうとしていた方の不正を、私は糾弾しようとしていたのか」


「父上も、エルンスト様も、同じように王国のことを考えていらっしゃいました。けれど、お互いに手を取るどころか、敵対してしまった。そのこと自体は、間違っていたように見えるかもしれません」


「そうか……。やはり、間違っていたのか……」


「僕は、父上がそれを間違いだと知っていたとしても、それでも不正を告発していたと思います」


 アルトは前を向いたまま、静かに言った。


「人は、いつでも正しいことを選べるわけではありません。そもそも、何が正しいのかさえ、その時には分からないことの方が多いのだと思います」


「何が言いたいのだ。まるで、私が愚かだったと言いたげだな」


 アルトは首を振った。


「いいえ」


 そして、少しだけ懐かしむように言った。


「アルフレッドが言っていました。なぜ探しものの馬車(ロスト・キャリッジ)が、探しものを見つけられるのかを」


「アルフレッドが?」


「はい。この馬車には、女神様の加護が宿っているのだと」


「アルフレッドは『女神の加護』と言ったのか?」


「はい」


「そうか……。女神か……。よく言ったものだ」


「その女神様の加護によって、馬車は、その人がその時、最も必要としている場所へ連れていってくれるのだと」


 レオナルトは頷いた。


「そして、馬車も、乗る方を選んでいるのだと」


「……」


「僕は、父上のなさったことは、きっと必要なことだったのだと思います。だからこそ、もといたこの古文書保管庫に来て、馬車はそのことを肯定したのではないでしょうか。

 それに……もうそれは起こってしまったことです」


 アルトは、そこで一度言葉を切った。


「ただ、起こってしまったことを、ただの間違いとして終わらせるのも違う気がするのです」


「アルト……おまえは私にどうしろというのだ?」


「父上は、ここで何をされていたのですか?」


「……古い書物を読んでいた」


「何のためにですか?」


「古い書物の中に、王宮の不正を防ぎ、あるいは王国をより良くするための最善の方法がないか探していた」


「見つけられましたか?」


「いくつか発見はあった。だが、これだと言えるものは、まだない」


 アルトは小さく微笑んだ。


「父上……。父上一人では、おそらくいつまでも見つからないでしょう」


「……」


「ですが、僕がいます。たとえ、あの頃のヴェルナー侯爵家はもう戻らないとしても、僕はいつまでも、あなたの息子です」


 レオナルトが目を見開いた。


「おまえが、私の意志を引き継ぐというのか?」


「僕だけではありません」


 アルトは静かに続けた。


「父上が見つけたものを、リディアが追いました。リディアが残したものを、クラリス様が見つけました。そしてついには、エルンスト様が自ら罪を認めるところまで辿り着きました」


 レオナルトは、さらに大きく目を見開いた。


「そのエルンスト様も、今度は不正をすることなく、王国を良くするために再び立ち上がろうとしています」


「……そうか」


「父上の不正告発が、正しかったのか、間違っていたのかは分かりません」


 アルトは、父を見た。


「けれど、今の僕には、それが重要なことだとは思えません」


「……」


「父上が、この王国に一石を投じたこと。その石が、十年経ってもまだ波紋を広げていること。そのことに意味があったのだと思います」


 そこまで聞いて、レオナルトは静かに微笑みを浮かべた。


「ずいぶん言うようになったな。気がつけば、おまえもすっかり大人だ」


 アルトも小さく笑みを浮かべた。


「だが、それでも私の息子だ」

第七夜「闇夜に隠れた元侯爵」をお読みいただき、ありがとうございます。


もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、

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のいずれか一つでも、めちゃくちゃ励みになります。


今後ともぜひお楽しみいただければと思います。

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