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【連載版】婚約破棄された公爵令嬢が「どこにも行かず、ただ走らせて」と言ったので、辻馬車は夜の王都を走り続ける  作者: Vou
第四夜 【乗客】孤児の少年

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第十二話 冷たい王都の温かさ

 翌日の夜、アルトの辻馬車は救護院の前にあった。


 アルトが待っていると、クラリスが救護院の建物から出てくる。


「クラリス様、お疲れ様です」


 アルトは御者台から降り、馬車の扉を開けた。


「アルトさん、お待たせしてしまったわね」


「いえ」


 クラリスがいつものように馬車に乗る。

 その動きは、もうすっかりアルトの馬車に慣れたものだった。


 アルトも御者台に戻る。


「二人はどうですか?」


 二人というのは、ルカとミナの兄妹のことだ。


「栄養状態は、あまり良くなかったわ。……でも大丈夫。これからしっかりケアしていくから」


 クラリスは少しだけ表情を和らげた。


「ミリアも、まだ慣れない様子だけれど、よく面倒を見てくれているわ。ミナの治癒もしてくれて」


「聖女候補のミリア様ですか?」


「ええ。あの方も、ただ民と一緒に泣くだけではなくて、少しでも自分にできることをしようとしてくださっているの」


「そうですか。ありがたいですね」


「ええ」


 クラリスは頷いた。


「ルカも、同じように行き場のない子たちのことを教えてくれて……。これから救護院の心強い協力者になってくれそうだわ」


「それは、よかったです」


 アルトが同意する。


 けれど、クラリスはすぐに目を伏せた。


「それにしても……私たちが見つけられていない子どもは、まだまだいたのね」


「……」


「救えているつもりだったのに、書類にも名簿にも載らないまま、寒い夜を越している子たちがいるのよ。自分の不甲斐なさが、嫌になってしまうわ」


「クラリス様は、これ以上ないくらいやってくださっています」


 アルトは静かに言った。


「一人ずつでも、こうして助けていければ、きっと王都は少しずつ良くなっていきます」


「ありがとう」


「それに、二人を救護院で預かってくださって、本当にありがとうございます」


「いいえ、アルトさん。お礼を言うのは私の方よ」


 クラリスは顔を上げた。


「私たちが見つけられていなかった子どもたちを、あなたが見つけてくれたのだから」


 クラリスが温かい笑みを浮かべる。


「それにしても……私、王都の人々をどこかで諦めていたのかもしれないわ」


「諦める、ですか?」


「ええ。皆、自分のことで精一杯で、他人のことを見る余裕などないのだと。けれど、グスタフさんのような方もいらっしゃるのね」


「顔は怖いですし、口も悪いですけれどね」


 パン屋のグスタフを思い浮かべてアルトがそう言うと、二人は小さく笑った。


「差し出がましいようですが……僕はクラリス様より先に、そのことに気づいていましたよ」


「そうなの?」


「はい。クラリス様にお会いした夜に」


「えっ? 私って顔が怖くて、口も悪いのかしら」


 クラリスが少しだけ目を丸くする。


 アルトは思わず笑った。


「違いますよ。世知辛い王都にも、こんなにお優しい方がいるのだと、そう気づいたのです」


「私なんて……」


 クラリスが小さく言いかける。


 けれど、アルトは静かに首を振った。


「ご自分を責めるほど、誰かを救おうとされる方です」


「……」


「僕は、そういう方を優しい人と呼ぶのだと思います」


 クラリスは少しだけ頬を赤らめた。


「……私が優しくなれたとしたら、アルトさんと出会ったおかげよ」


 とても小さく呟いたその声は、アルトには届かなかった。



「今日は、どちらへ?」


 アルトが尋ねる。


 クラリスは窓の外を見た。


「今日は、公爵家にまっすぐ帰るわ。明日は国王陛下にお会いする予定があるの」


「かしこまりました」


 アルトが軽く手綱を鳴らす。


 馬車がゆっくりと走り出す。


 今夜も辻馬車は、王都の夜を駆けていく。


 乗客を、明日に届けるため。

第四夜「孤児の少年」をお読みいただき、ありがとうございます。


もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、

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のいずれか一つでも、めちゃくちゃ励みになります。


今後ともぜひお楽しみいただければと思います。

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