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あの日の風の、その続き 〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来〜   作者: 凛花


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おまけ ――「いとしのエリシア事件」


※本編の雰囲気を大切にしたい方はご注意ください。







これは、エレンが生まれる、その少し前のお話。



「ようやく私たちもお酒が飲める年になったのねぇ。」


そう言ってリゼは、「乾杯!」とグラスを高く掲げる。


その日、夜の談話室に四人が揃っていた。


テーブルの上には酒瓶が並び、すでに何本かは空いている。



「リゼ、エリシアにはあんまり飲ませるなよ。」


ゼンはそう言うと、テーブルを挟んで向かいに座るエリシアを見る。


その目は少し心配そうに揺れている。


リゼの顔はほんのり赤くなっていて、すでに少し酔っているようだった。


そして。


「えー、大丈夫よ、少しくらい!兄様は見たくないの?酔って赤くなる可愛いエリシアを!」


リゼは自分の隣に座るエリシアの顔をじっ、と見つめる。


「エリシアよ?この白い頬がほんのり赤くなって……。っ、そんなの絶対可愛いに決まってるじゃない!」


そう言ってリゼはエリシアをギュウっと抱きしめた。


「ちょっと、リゼ、酔ってるの?」


エリシアは、どうしたらいいかわからないように苦笑しながらそう言ってリゼの抱擁を受けている。


そんな二人を見ていたゼンは、何も言わずに、自分の目の前にあるグラスを手に取り、グイッと飲み干した。



「へえ、兄様ってお酒いけるんだ」


リゼがまだエリシアを抱きしめながら、向かいの兄をじっと見る。


片手にはグラスを握ったまま。



「嗜む程度だ」


短く返すゼンの声は、いつもと変わらない。


――ように見えた。



「ほんとにぃ?」


にやり、とリゼが笑う。


「じゃあさ、たまには本音とか聞かせてよ。本音」


「必要ない」


ぴしゃりと切る。


クロードは隣で静かにグラスを傾けながら、そのやり取りを眺めていた。


エリシアはというと、少し困ったように笑っている。


「リゼ、あまり困らせては……」


「いいじゃない!こういうのは崩した方が面白いのよ」


その一言が、たぶん引き金だった。


ゼンが、ふっと息を吐く。


「……別に、隠しているつもりはない」


その声が、ほんのわずかに柔らかい。


クロードが、ぴく、と眉を動かした。


(あ、これ少し入ってるな)


経験上、分かる変化だった。


リゼも気づいたのか、にやりと笑みを深める。


「だいたい……」


リゼは続ける。





「兄様は、エリシアをどう思っているの?」




一瞬、空気が止まった。


ゼンの、グラスを持つ手も止まる。



エリシアが目を見開く。


「ちょ、ちょっとリゼ……!」



クロードも、グラスを持ったまま静止している。


ゼンは、無言だった。



沈黙。


ほんの数秒。



――そして。




「……いとしの、エリシア」



低く、静かに。


あまりにも自然に、言った。



リゼが、ぴたりと動きを止める。


クロードが、ゆっくりと顔を伏せる。


エリシアは、完全に固まっていた。



「……え」


ぽつり、と零れた声。


ゼンは変わらず、真顔だった。


「……っ、ちょ、ちょっと待って」


リゼが震え始める。


「今の何!?!?今の何!?」


そして次の瞬間。


「ぶっ――!!!」


耐えきれず、爆発した。


クロードも限界だった。


顔を逸らしたまま、肩が激しく上下している。


(ダメだ、声出すな……!)


必死に堪えているのが分かる。


エリシアはというと――


「…………っ」


真っ赤になって、完全に処理が追いついていない。


「ゼン……今の……」


恐る恐る声をかける。


ゼンは、ほんの一瞬だけ目を細めた。


そして――



「……なんだ」


ほんのわずかに首をかしげる。


「……今、何か言ったか?」


自分の言葉を探るような、記憶の輪郭だけが曖昧に残っているような顔だった。



リゼは再び笑いをこらえながら、震える声で言った。


「な、なんでもない……っ、なんでもないわ……!」


その夜は、それ以上触れられることはなかった。





――そして翌日。


「ねえクロード聞いて!!!」


朝からリゼのテンションは最高潮だった。


「こうよこう!!」


無駄にいい声で、間を取って。


「……いとしのエリシア」


再現度が高すぎた。


クロード、崩壊。


今度は完全に声を出して笑っている。


「やめて!!!」


エリシアが真っ赤になって叫ぶ。


「ほんとにやめて……!!」


そのとき。


「……リゼ」


低い声が、背後から落ちた。


空気が凍る。


振り返ると、そこには――


完全にシラフのゼンが立っていた。


そしてその目は。


わずかに、怒っている。


「なにをしている」


静かに、しかし確実に圧がある。


リゼは一瞬だけ固まり――


そして。


「……いとしのエリシア?」


懲りずにもう一度やった。



「リゼ」



声が、さらに低くなる。


その声で名前を呼ばれた瞬間、リゼは全力で逃げ出した。


クロードは笑いながらその場を離れ、


エリシアはその場に残されて、ただ顔を覆った。


静寂。



ふと、ゼンが視線を向ける。


「……忘れろ。」


ぽつり、と言った。


エリシアは、ゆっくりと顔を上げる。


「……忘れられないわよ」


小さく、でも確かに。


その頬は、まだほんのり赤かった。



――その夜。


一人になった部屋で。


「……いとしの、エリシア……」


小さく呟いて、


さらに赤くなるのは、また別の話。








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