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あの日の風の、その続き 〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来〜   作者: 凛花


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第二十二話 声



ーーー


廊下は、静まり返っていた。


高い天井に、足音が小さく響く。


窓から差し込む光が、磨き上げられた床に淡く揺れていた。


レオンと話して、決意は決めた。


――それでも。


その前に、もう一度だけ。

ただのエリシアとして、ゼンと話をしたかった。


執務室の前で、足を止める。


ノックをしようと手を伸ばしかけて――止まった。


扉の向こうに、人の気配。


そして。


――声が、聞こえた。



「……我ら近衛騎士団としては、総長を……ゼン・クラウディア様を、このまま宮廷護衛隊総長としてお留めくださることを望みます」


誰かの声。


続いて、別の声。


重なるように、次々と。


ゼンを引き止める言葉が、扉の向こうから溢れてくる。


(……え?)


何の話?


そう思ったのに。


耳は、離れなかった。


「総長がいなくなれば、この国の守りは確実に揺らぎます」


(……え)


息を潜める。


――足が、動かない。


ゼンが、いなくなる?


胸が、大きく揺れた。


不安と。


それから――


ほんのわずかな、期待。



舞踏会で、一瞬目が合った気がした。


気のせいだと思っていたけれど。


もしかして――



「ゼン」


低く、穏やかな声。


国王だ。


「私としても、このまま、総長としてこの国を支えてほしい」


静寂が、落ちる。


どくん、と。


胸が大きく鳴った。


(……ゼン)


呼びたい。


でも、呼べない。


沈黙。


ほんの数秒のはずなのに、永遠みたいに長く感じた。


その間に、いくつもの願いが胸をよぎる。


――どうか。


目を閉じる。


祈るみたいに。


そして――



「……承知しました」


ゼンの声が、聞こえた。


ようやく絞り出したような声。


いつもと同じようでいて、ほんのわずかに掠れていた。


(ああ)


その一言で、すべてが終わった。


胸の奥で、何かが音もなく崩れる。


「ありがとう、ゼン」


安堵した国王の声。


騎士たちの気配。


けれど、そのどれもが遠い。


世界が、急に色を失ったみたいだった。


(そっか)


わかっていた。


彼の立場も、責任も。


誰よりも、知っていたはずなのに。


――それでも。


どこかで、期待していた。



(……私、何を期待してたんだろう)


小さく息を吐く。


音を立てないように。


静かに、踵を返す。


扉に、背を向ける。


(忘れよう)


ふと、そんな言葉が浮かぶ。


(ちゃんと、忘れよう)


王女として。


この国のために。


選ぶべき道を、選ぶために。


胸の奥でまだ疼く痛みに、そっと蓋をする。


「……」


振り返らない。


振り返ったら、戻れなくなるから。


そのまま、静かに歩き出した。


ーーー






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