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あの日の風の、その続き 〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来〜   作者: 凛花


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第十五話 遠い人





--窓辺に、やわらかな光が落ちていた。






白いカーテンが、風に揺れる。



その向こうに広がる庭では、近衛騎士たちの訓練が行われていた。




剣がぶつかる音。


短い掛け声。


規則正しい足音。



その中に、見慣れた二つの姿がある。



青銀の髪が揺れる。


それを追うように、黒髪の青年が動く。



息の合った動き。


背中を預けるような距離。



言葉なんて、いらないみたいに。




「……相変わらずね」



小さくこぼれた声は、風にさらわれて消えた。



エリシアは、そっと窓枠に手を置く。



触れているのは、冷たい石。



けれど視線の先にあるのは、確かな温もりのある場所だった。



楽しそうに笑うリゼ。


それを見て、ほんの少しだけ口元を緩めるクロード。



その距離に、迷いはない。



(いいな)



ふと、そんな言葉が浮かんでしまって、


自分でも驚いた。



羨ましい、なんて。


そんな風に思ったことはなかったはずなのに。



「……変ね」



小さく笑う。


でも、その笑みはどこかぎこちない。




昔は、あの中に自分もいた。


名前を呼べば、すぐに振り返ってくれて。


当たり前みたいに、隣にいられた。



――けれど、今は違う。



立場も、距離も、すべてが変わった。




「エリシア様」



後ろから声がかかる。



振り返ると、侍女が一礼していた。




「本日のご予定ですが――」



「ええ、わかっているわ」



言葉を遮るように、静かに微笑む。



王女としての顔。


それは、もう随分と馴染んでしまった。



「……今日だったわね」



エリシアの、17歳の誕生日を祝う式典。



そして、夜には、王家主催の舞踏会。





もう一度だけ、と


エリシアは視線を窓の外へ向けた。




剣を交える二人。


その少し離れた場所に――



もう一人、立っている影。



青銀の髪



金色の瞳




誰よりも冷静で、誰よりも遠い人。




(……ゼン)




名前を呼ぶことは、しなかった。


呼んでしまえば、何かが崩れてしまいそうで。


ただ、見つめる。


届かない距離のまま。



まるで、最初から遠い人だったみたいに。





風が、そっと吹き抜ける。



カーテンが揺れ、光が揺れる。




あの日と同じ風。




何も知らなかった頃、ただ笑っていられたあの時間の名残。




エリシアは、ゆっくりと目を細めた。




"もう大丈夫だ"



そう言って、優しく頭を撫でてくれた、あの時の手の温もりを、思い出す。




「……好き。」




誰にも聞こえないほどの、小さな声。




けれどその言葉は、




誰にも届かずに、宙に消えた。




エリシアは、ふ、と諦めにも似たような笑みをこぼし、侍女の方へと振り返る。



もう一度、窓の外を見ることはなかった。



ドアへ向かって歩き出す。



その背中に、迷いは見せない。



王女としての一歩。



けれどその胸の奥で、


消えない名前が、静かに残り続けていた。







風が、また吹いた。




まるで――




あの日の続きを、そっとなぞるように……。













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