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あの日の風の、その続き 〜戦う公爵令嬢と、王女が選んだ未来〜   作者: 凛花


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第十四話 あなたがいない世界





「総長!リゼ様も!」


次の日の昼過ぎには第3騎士団に合流することができ、私たちの姿を見つけた団員たちが駆け寄ってくる。



「みんな、無事で何よりだ。戦況は?」


ゼンが、そう聞くと、団員たちは互いに目を見合わせた。


私はあの人の姿を探すけれど、見つからない。


団員の1人が、そんな私を見てなんて言ったらいいか、言葉を選ぶように口を開いた。



「あ……クロードが……」

「団長とクロードが、1番前にいたんです。でも突破された時、2人は俺たちに一度撤退するよう命令されて……。」


「クロードは、負傷し、動けない状況のようで、団長と数人の団員とともに、まだ前線に……」



その言葉を聞いた時、視界が、すっと落ちた。


音も、気配も、全部遠のく。




次の瞬間、リゼは走り出していた


団員やゼンがリゼを止めるようになにか叫んでいる。


でも、リゼにはなにも聞こえていなかったーー。






「クロード!!」




「……は?お前、なんで……」



リゼの姿を見て、絶望と怒りが混ざったような顔で固まるクロード。


クロードの姿を見つけ、その場に、力が抜けたように崩れ落ちるリゼ。



クロードが、怪我をした体を引きずりながらも駆け寄ってくる。



「なんできた!こんなところに!お前はっ……!」




そして、リゼの顔を見て、はっ、と言葉を止めた。


肩で息をしながら、



「……よかった。生きてた………っ」



そう言葉を溢すリゼの目に、涙が溜まっていた。



「……は?」



「……クロードが……はぁ、怪我をして動けないって、前線に残ってるって……聞いて……あんたが……あんたがいなくなるって思ったら目の前が真っ暗になって……気付いたら、走ってた……」



髪も服も乱れて、息を切らすその姿を見て、瞬間、クロードはその手を伸ばす。


そして、リゼの体を雑に、力強く引き寄せた。



何かを言いかけて、言葉にならない。



「……馬鹿野郎っ!」




クロードは、リゼを強く抱きしめていた。


その腕に、ぐ、と力が籠る。




「……クロード、痛い……」



そう言うリゼの声はか細く、しかしクロードの存在を確かめるようにそっとその背中に腕を回した。



「生きてた……。


本当に、生きてた……


クロード……生きてた……っ」




いなくなるかもしれない恐怖。


リゼが思い出したのはあの日のあの言葉。



"お前がいない世界で、俺はどうやって生きればいい。"



今、あの言葉が痛いほど胸に刺さった。  




ーークロードがいない世界を想像できなくてーーー。







「立てるか。」



どのくらいそうしてたのか、いや、おそらくは一瞬の時間だった。


クロードの、自分を気遣う声に、リゼは涙を拭きながら顔を上げる。



「あんたこそ。怪我は?」


「大したことない。」



大したことない、そういいつつも、改めてクロードを見ると、その体はボロボロだった。


「動けないって……」


「もう治った。」


ふ、とリゼが笑う。


クロードは、照れ臭そうにリゼから顔を背けると、額から流れる血を乱暴に腕で拭った。


その目は、もう前を見ている。



敵兵が、見えた。




「私も戦う。」


リゼが腰の剣を抜く。


その姿をチラ、と見るクロード。


「無茶はするな。」


「大丈夫。」



そして諦めたように、はぁ、とため息をつくと、リゼの背中に自分の背中を合わせるように、立ち、


「足手纏いになるなよ。」


そう言って剣を構える。


「こっちの、セリフ。」



リゼもまた、剣を構える。



背中は、お互いが守る。



まだ敵は動いている。


だけど――


もう、足は止まらなかった。






その後、追ってきたゼンと、体制を整えた第3騎士団の活躍もあって、ロザリア軍は勝利を収めるーー。



ノース領とウエスト領が始めた国を巻き込んだ戦いは、数名の負傷者を出したものの、奇跡的にロザリア軍から死者を出すこともなく、終わった。




風が、静かに吹き抜けた。


血の匂いも、剣戟の音も、もう遠い。


揺れる草と、かすかな温もりだけが残っていた。



(終わった……)


そう思ったのに。


胸の奥には、まだ何かが残っていた。


言葉にならない想い。


隣にいる、クロードを見る。




――あの日と同じ風が、頬を撫でる。


ふと、思い出す。


無邪気に笑っていた、あの頃。


いつも一緒だった、あの場所。


リゼは、ゆっくりと目を閉じた。







ーーーー

ーー



「――エリシア様」


柔らかな声が、静かな部屋に響く。


窓辺に立つ少女が、振り返った。


揺れる金の髪。


差し込む光の中で、その姿はどこか遠く見える。


「……風が、気持ちいいわね」


そう言って微笑む。


その瞳は、どこか遠くを見ていた。







     


第一部 完

続く第二部もぜひお付き合いいただけると嬉しいです。

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