第九十七話:理科の実験:超電磁加速砲
雲海を割り、王都が誇る最新鋭の飛行魔導艦「レガリア号」が姿を現した。その巨体は開拓地の空を覆い尽くさんばかりで、地上には巨大な影が落ちる。
「ツヨシさん、あれは……山が浮いているようなものです! 我々の弓や魔法では届きません!」
カイルが絶望に染まった声を上げる。
しかし、ツヨシは老眼鏡のブリッジを指で押し上げ、静かに笑った。
「カイル、物理の授業を思い出してごらん。重いものを遠くに飛ばすには、魔法の出力だけじゃなく『加速の距離』と『極性』が重要なんだよ」
1. 魔導レールガン(超電磁加速砲)の提唱
ツヨシが村の中央広場に設置させたのは、二本の巨大な「ミスリル・レール」だった。
全長は三十メートルに及び、その周囲にはびっしりと雷魔法の魔導回路が刻まれている。
「かつての教え子に軍事オタクがいてね。レールガンの仕組みを熱心に語っていたのを思い出したよ。フレミングの左手の法則……この世界なら『雷と風の複合魔導』で再現できるはずだ」
2. 徹甲魔弾の装填
弾丸として用意されたのは、タングステンに近い硬度を持つ「黒鉄」の塊。その表面には、衝突時に「爆裂魔法」が発動する術式が刻印されている。
「これは武器じゃない。ただの『高速投射実験機』だよ。……もっとも、あの艦にとっては致命的な実験になるだろうがね」
ツヨシは村の全魔導蓄電機をシステムに接続した。村中の街灯が一時的に消え、すべてのエネルギーが二本のレールへと収束していく。バチバチという激しい放電音が周囲に響き、空気中のオゾン臭が強まった。
3. 質量兵器の衝撃
「目標、飛行魔導艦の主浮力機関。方位修正……よし。カイル、スイッチを」
カイルが震える手で魔導レバーを倒した。
その瞬間、轟音と共に一閃の閃光が空を裂いた。火薬の爆発音ではない。空気が超音速で切り裂かれた際に生じる衝撃波が村を震わせる。
黒鉄の弾丸は、王都の魔導師たちが展開した「物理防御障壁」を紙切れのように食い破った。あまりの速さに、障壁が反応する時間さえなかったのだ。
弾丸は艦の底部を貫通し、中央の魔力炉に直撃。上空で巨大な魔力の暴走による光の輪が発生し、レガリア号は制御を失ってゆっくりと高度を下げ始めた。
4. 「対等」な対話への招待
レガリア号は村から離れた荒野に不時着した。大破はしているものの、ツヨシが急所に「爆裂」ではなく「放電」の術式を優先させたため、乗組員に大きな死者は出ていない。
呆然とする王都の魔導騎士たちの前に、ツヨシは小型ドローンを飛ばし、再び拡声魔法で声を届けた。
『王都の皆さん。私たちの生活を脅かす「高い視点」は、あまりお勧めしません。対等に話したいのであれば、次は地上から、お茶の一杯でも持参して来てください。その時は、理科の実験ではなく、美味しいお茶の淹れ方を講義しましょう』
こうして、開拓地は「空の主権」をも完全に掌握した。しかし、この一件は「辺境の老人が国家を凌駕する兵器を開発した」という衝撃のニュースとして、隣国にまで広まることとなる。




