風呂場にて
パルスロスト戦を終え、不知火は1人、宮廷の風呂に浸かっていた。
だだっ広い風呂に1人で浸かるって言うのも、中々乙なものである。
しかも、この浴場には露天風呂も備え付けられており、温泉施設顔負けの設備が整っていた。
「はぁ〜、生き返る...」
日本人なら誰もが好きであろうお風呂を、不知火は堪能していた。
「しっかし、今日の試合は厳しかったなぁ。皆んながなんとかしてくれたから良かったが、流石に次はそうはいかないだろうし。」
不知火はアリアがパルスロスト側に要求したモノを知らない。ジャンヌを引く抜き、しばらくしたらチームに加入するとしか伝えられていないのだ。
「ジャンヌが入ってくれるのは、本当に有難い。DFの強化にもなるし、攻撃のパターンも増やせるし。まぁ、ルナやシズク達が騒いでいたのが気になるが。」
何故騒いでたのかに気付いていない不知火は、頭の中で考えながら湯船から上がろうとする。
「お邪魔します...」
突然、ドアの方から声が聞こえる。
今、自分が風呂に入っていることは伝えてある。一体何事かと振り返った先には、身体にタオルを巻いた、シズクとルナがいた。
「は?何でお前らが!?」
「その、お背中を流そうと思い...」
「いやいや、いいから!大丈夫だから!」
自分から入ってきたのに、シズクは恥ずかしいのか、こちらをチラチラ見ては視線を逸らす。ルナに関しては、先程から顔を真っ赤に染めたまま俯いている。まさに爆発寸前、そんな様子である。
「まぁまぁ、そう固い事を仰らず〜。」
シズクが不知火の背中を押して、洗い場へと連れて行く。もちろんタオルはお互い付けたままだ。
シズクはタオルが身体にぴっちり張り付いていて、スタイルの良さが露見している。ルナに関しては、収まりきらんばかりの胸がタオルの上からも分かる。
目のやり場に困り、平常心を保つために椅子に座り目を瞑った。
「それでは始めますね〜」
そう言って、シズクが石鹸を泡立て、不知火の背中を優しく撫でて行く。
ちなみに、ルナはまだ扉の前で俯いたままだ。
そんなことは我知らずと、シズクは1人、不知火への奉仕を始めた。
「お加減いかがですか〜?」
「...シズクって、そんなキャラだったか?」
「...恥ずかしいんです、察してください。」
「...すまん。」
優しく背中を洗うシズクの顔は真っ赤に染まっていた。
不知火はどうしたものかと悩んでいると、シズクが口開いた。
「今日は、ありがとうございました。」
「ん?何がだ?」
「サッカーを楽しめたのは、不知火さんのお陰です。」
「...オレもさ、シズクにお礼を言いたかったんだ。」
シズクは少し驚いた顔をする。
「私は感謝されるようなことをした覚えはないのですが...」
「いや、山程あるよ。」
不知火は苦笑いを浮かべる。
「まずは、2点取ってくれたことだ。シズクが点を取ってくれなかったら、今日は勝てなかった。」
そんなことはない、とでも言いたげなシズクが、その言葉を口にしようとするのを妨げるように、不知火は続ける。
「1点目のターンも凄かったけど、なんせ2点目の飛び出しが良かった。あれはそうそう出来るプレーじゃない。」
まるで子供のように目を輝かせ話す不知火を、どこか面影を見る様な目をするシズク。
「不知火さんって、私の祖父に似てますね。」
「まぁな。オレは吾郎さんにサッカーを教えてもらったから。」
「えぇ!?そうなのですか!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「祖父を知っているとは聞いていましたけど、それは初めて聞きましたよ!」
意外な事実を知り驚くシズク。
「だからかな。オレは今日、シズクのプレーを見て、自分の若い頃を思い出したよ。だから、ありがとな。」
どこか昔を懐かしむような不知火の姿に何を感じたのか、シズクの口から出たのは想定してない言葉だった。
「明日、私の家に来ませんか?」
風呂場のドアの前では、ルナがまだ顔を赤らめ俯いたままだった。
「こんばんは〜!」
「監督〜!」
突然の声に驚き、2人は思っていたより近付いていた身体から、勢い良く離れる。
突然やってきた2人は気にしていない様子でこちらに向かってくる。
1人は小柄で褐色の肌をしている少女、GKのクロエ。もう1人は、紫髪のポニーテール少女、ユリアである。ユリアはクロエと比べ、少し背は高いが、胸はどっこいどっこい。2人でどうすれば大きくなるかを話し合ってることは、ここだけの秘密である。
「ルナちゃん、何してるの?」
ユリアに声をかけられ、ハッとした様子で我に帰るルナ。
「な、なんでもないわ。それより、なんで2人がここに?」
「監督に会いにきたの!」
「いや、わざわざお風呂に来なくても...」
クロエが元気よく答える。不知火としては、クロエとお風呂に入れるというイベントは大変嬉しくはあるが、どうしても目のやり場に困るため、困惑している様子だった。
「とりあえず、身体を洗って湯船に浸かりましょ。」
ルナが歳下2人組を誘導して洗い場に向かう。ルナはお姉さん気質が強いのだろうか、それとも、普段チームを纏める役職にいるため、自然と身についたのか。
そんなことを考えていると、シズクが耳打ちをしてきた。
「さっきの話、お願いしますね。」
妖しげに微笑み、湯船へと向かうシズク。
不知火はしばらくその姿を、身動きできずに眺めていた。
シズクルート開拓か...?




