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51.水練という建前で川遊び

季節感まるでない話になっちゃいますね。

《1553年》天文22年七月─土佐・岡豊 せせらぎの小川


長宗我部小昼

長宗我部宗親

他......


おはよう。こんにゃちは。こんばんばん!小昼です、お忘れになって居ませんか?主役は小昼なのですよ。

さてさて、はいはい。少ーし少し。出番が無くて、拗ねてるとかそんなのではありませんからね、断じてないのです……。


それは置いといて、にーさまを連れ出して今日は天気も良くなって、ギラギラお天道さまの下なのですよ。

ジリジリと肌を焼く地獄に、小昼を叩き込むお天道さまが憎い。

空が青いなー!高いなー!あ!入道雲!


おっと。そんなことやってる場合じゃないんでした。

ニート矯正ちうなのでしたよ。


「置いてくよー!にーさま、歩く!」


「ま、待って…………小昼ぅ」


歩きです。馬でも良いですが、にーさまをリハビリしないとですからね。心を鬼にして歩かせましょう。


少し迷惑なくらいに、じめじめ蒸し蒸ししやがってくれる、と現代利器も無いとずっと井戸の水で水浴びしてるのも、侍女に小姓さんの目に毒と叱られたとかでは別に無いんですよ。断じてそれはない……!


追い出されたとかでは無くて目的を持って近くの小川に来たのです。それは何を隠そう水練ですよ。


バシャッ


「あはははー」


「やったなー、それ!」


「あっちまで競争だ!」


毎年、この季節にもなると岡豊の子供たちは国分川(岩清水川)で連れだって泳いでいるのです。


旧暦も七月となると……夏真っ盛りですねー!


小昼もそれに混ざって去年は水練してました。

平泳ぎにクロールで流れの比較的、緩やかで浅い岸辺ではありましたけどね。


流石に、流れるプールの何倍も凶悪な大河で岸から岸へなんて、御苦労様って感じの水練はまだまだ小昼の年では無理というもの。


江村親家とか国康叔父のとこの、若さみなぎる男子たちはライフガードかな?小昼の護衛に着いて来た癖に、岸から岸へ泳ぎきって返ってくる離れ技をやってのけるんだけどね。

川のまん中は岸で見てる何倍も流れが早くなってるって、何かで読んだ記憶が。


若さっていーよね、小昼は流れが緩やか〜なとこで毎年それを見ているだけでした。

そんな思い出を脳裏に描いてゆるゆると、暑いなもー!

と悪態を心底で声に出さず青筋びくんびくんもので悪態ついていると、言われた通りの川のせせらぎが聞こえてきたのです。


ええ、岡豊から歩いてたぶん10分かからない距離にその小川はありました。

そうであっても、だとしても……にーさまを連れてると、三倍は負担を感じましたよ。


「遅いですよ、にーさま。急ぐ!」


「ひ……あ……ぜぇ……お……に……」


ひきこもりは、暑さに耐性があるのではないのかな?

にーさまは幾分違うようです。

暑さで汗が出る分は良いようなのですけど、干上がるなどと悪態をついてますね。


全く、小昼の方が悪態をつきたいですよ。


にーさま、ホントに男子ですか?ついてます?今のにーさまを小昼が言葉にするとするなら、みそっかすですよ。


小昼の岡豊で持ってる領地の領石川の辺りまでは、馬で行かないとなるとしばらく歩かないと着かないので、ニートずるずる引き摺ったままのにーさまには岡豊のそばの小川くらいしか、辿り着けない。ううん、辿り着かない。


休憩がこの小川に着くまでに、五回も入るていどの体力面に不安の残る嫡男さまなのですよ。


ほんとについてますか?

親家なんかは、小さい頃から国府の方へまで暴れまわりに行っていたそうですよ。って、あっちが本拠で岡豊は父親の社屋みたいな感じだったのかも知れませんけどね。


に、しても情けないですよにーさま。……まさか、ばたあしも出来ないなんて──




「おー水が流れる音が聞こえましたよ。にーさま」


「…………ぜぇ……ぜぇ……こ、小昼……みずぅ」


「ですよね。川についたらいくらでも水がありますから、もう一つ歩きましょうよ、にーさま」


「…………が、……がんばる」


こんな調子で、励ましながらにーさまを小川に連れ出したのです。え、ええ?励ましてるのかそれで、ですか?

はい、小昼なりに励ましながらファイトーしてましたよ。

身ぶり手振り、にーさまには触れないけども、励ます言葉に表も裏もなかったのです。


「もう少しだよーにーさま」


腕を突き上げながらファイトー!両腕を広げながらもう少しだよー!川の方をびしと指差し後で水が飲めますからね!

と、ほらとてもとても小昼は励ましてにーさまをここまで連れてきてるじゃないですか。いやー頑張った。小昼は頑張りましたよ。


「にーさまファイトなのです」


「な……に……ぜぇ……解らんにゃ……」


なのににーさまったら恨みったらしいような、拗ねたような表情をして小川のある岸辺に立っていた楠木の木陰から出てきません。

いじけてるんですかね。


ニート矯正とゆーかひきこもり調きょ……もとい仕付けるのは骨が折れます。


ま、考えて見れば太陽が黄色い……とにーさまが呟いて部屋を出て庭まで連れ出してからまだ二日ですか。

精神にクるものがありますが、こちらが妥協しては治るものも治らないと思うのです、小昼は。だから、にーさまを助けたりはしません。応援だけはさせて貰いますよ。──ですけど、加減というものがあるじゃないですか。

にーさま、ばたあしも出来ないの?


いや、いけません。金槌は叱られるとトラウマになるらしいので、そのまま水を恐がり始めたら目も充てられないのですよ。

小昼が、ゆったりゆっくりばたあしから教えてあげればよいだけですよね。はぁ…………可愛いのですけど、男にしてどうなのですか?


「こ、小昼ぅ……、こうか……?」


「はいはい、弥三郎くん。もっと勢いよくばたばた動かしてー進んでませんよ」


小川に着き、嫌がるにーさまを脱がして『ほおぉ!』なシーンも有りましたけど……これが我が家を支える支柱なのだと頭の隅で考えてしまうともー!不安しかありません。

陽に焼けない不健康で透き通るすべすべの肌。小昼が抱き締めたら見事にばきっと壊れそうな脇腹。ぺたっとして肉のない胸。骨と皮だけの拒食症ばりの腕と足。

太股と足首に然程の太さの違いがない、サリーちゃん足と言われる真っ直ぐででこぼこの無い足なのですけど、よくこれで歩けてますね?

そちらが逆に心配になります。

さらしを胸からへそまで巻いてあげて、さらしと褌だけのにーさまの出来上がり。


対して、小昼は水浴びをしていたまま上も下もさらしをぐるぐる巻きですよ。

肌は健康的で、陽に焼けて少し肌が濃くなっている感じです。

肉着きはよく、小さい時から野山を駆け回っていたから腕も足も筋肉がたくさん付いています。

胸は人並みかな。


自己判断ですけど、水泳の高校生アスリート並みにはがっちりした女子の体つきをしてると思うのですよ。

かと言っても、三十キロはある大鎧を着ての行軍はもって5キロメートルも保ったらいい方でしょう。

死ぬ気で動き回れば半日は戦に耐えられるのは実証済み。割と動ける体してます。


だから、にーさまを見てしまうとガリガリめ!と思ってしまう。

これに少し肉が着けば男の娘っぽく更に見えるでしょう。

更にさらに肉がついてがっしりとした体になれば男の娘脱却できるかな?

妙にオドオドして声に出てこないのは人と接してないせいなので、これは徐々に人に接するのを慣れて貰えば治ると聞いた気がします。

ひきこもりのリハビリも楽じゃないですう。


「先日の可愛い子、男の子だったのかー。そうは見えなかったけどな!」


「鷲羽、いけませんよ!余り殿方をなじるのは」


「ひめせんせー、我々のことは気にせず」


「監視監視」


「御座る御座る」


「ですです!桑名さまより言付けされたのです」


余計な姫衆が付いてきてます。

これも懸念ですよね、小昼がばたあしさせてるのが長宗我部の嫡男だと知られると『情けない』と見られて知らず知らずに噂が流れて……我が家から一族で離反なんて事になると大変だぁ。

なのでにーさまの事はこの女武士さんの群れが居る前では弥三郎くんと呼ぶとしましょうか。


何故、父上でなく桑名の言付けかと言うと、父上は留守を言い付けた兵と家臣だけを残して、全軍を上げて大津参集に参加するため行ってしまったからですよ。

小昼はにーさまを『立派に仕上げるにゃ』と言われて留守の家臣の一人って訳です。


小昼付きの香宗我部も一時、父上に再編成されて取り上げ。もちろん大谷も。戦が始まるのに小昼がその場に居ないなんてちと不思議な気もしますが、戦況は桑名に伝えられ届くそうです。

なにより、長宗我部の戦なら戦力として使えても、他の家が入ると戦場におなごを連れてきて何を考えておるのか、不吉よ!となるそうです。迷信なのにさ、そんなの。


というわけで姫衆と小昼は三好討伐には加われないと言うことを飲まされた訳なのよ。頭にくるのですけど、それを真っ先に言い出したのは天竺らしいのです。

小昼のことをよく思ってないようで。各家の代表がいならぶ前で吉田の爺に言い付けたそうです。


おのれ、天竺花氏ぃぃいぃッそっ首貰い受けるのですう!


──ま、長い休憩と受け止めるしかないですね。姫衆からは温泉にでも行きますかあーなんて声も上がってます。


今まで温泉気にならなかったわけじゃないんですよ、敵地や山奥でそんなとこに数名で乗り込みなんてできないじゃないですか。


戦にいくわけじゃないなら、吾川郡や高岡郡に湧く弘法大師空海が拓いたらしい温泉地にも足を運べるそうで。各関所の目も緩くなるでしょうとのこと。

彼女らもまだまだ娘さんなので、岡豊から出たことは無いようで小昼のように中村にだけは自由に行けてたのは羨ましく思っているようです。


ようは、旅行行きたいってことなのでしょうね。

小昼が金を持っていることは筒抜けですから……たかられるのですね、小昼は。


取り合えず、今は戦のことはほっといてにーさまを鍛える。そして、小昼は夏をエンジョイしますか。


「弥三郎くん、泳ぐためには水の中で目を開けるのです。いいですか、怖がらずにゆっくり開けてみてください」


そうは言いながら、小昼はクロールですいすい。暑っついし汗が気持ち悪いので少し、さぼらせてくださいね。にーさま。


小昼やにーさまがそんな事をしてる背中ではきゃっきゃっして遊んでる声が聞こえてきます。なんか、しらないですけど、聞こえてきます。青筋ビキィ!なりますよね……。育児ノイローゼなりそうよ。


「小昼ぅ……水、怖い」


ちらと窺うと真剣な表情で……違うな、固まっちゃってどーするんですか?にーさま。


「怖くないですよー。岡豊の子供でも出来ます、小昼より小さな女の子もみんな出来ていますから」


間違ってないな、幼稚園児も水の中で目くらい開けられますよ?たぶん、きっと。

岡豊で水遊びしてた子供たちは流れが早くて大きな国分川に行くんですから、大体が元服したかしてないかくらい、中一くらい。

にーさまは元服してるので、にーさまくらいになると岡豊の子供たちは、国分川に繰り出して行くって訳なんでしょう。


そうじゃない子は、田んぼのために引き込んだ用水路やため池で泳ぐとか。ため池と言っても、氾濫水害の副産物なので……小さな沼のようなものですね。


「ぼ、僕は……このままだと……その子以下というか!」


「はい!だから……弥三郎くんは出来ます。弥三郎くんを小昼は信じてます」


おー!にーさまがやる気になってる。声のトーンが父上に向かっていったあの時と被る。

宗親の名を貰ったあの時と。


「や、やってやるぅ!──え、えい!」


たぷん!

水音が跳ねてにーさまが水の中に潜る。


「頑張ってー弥三郎くん!ファイトなのです弥三郎くん!フレーフレー!エイエイオー!」


その後ろで、頑張ろうー頑張ってー頑張れよー!と皆の黄色い声が小昼の応援する声と重なります。


「ぷわっ、やっ!やったぞ!!僕は、水の中で目をっ!」


わー!ぱちぱちと拍手も聞こえてきますね、おーげさですよ。


「良くできました。さすが、弥三郎くんなのです!」


「えへへへ……」


にこぱーっ!て満足そうなにーさま。

手加減を忘れないように小昼は両手を背に回してぎゅっしてあげました。


なんか、やりきった顔して表情緩みまくりですけど……水。膝よりちょっと高いなくらいですからね?

幼稚園児用プールより浅いのですよ。ま、積み重ねですから泳ぐためには水の中で目を開ける必要は絶対だと思うので、できるより出来ないの方が断然イケてない。

出来た子は褒めてあげた方がいいに決まってる。


小昼、甘ちゃんですか?


取り合えず、にーさまをいーこいーこしてあげます。


結果、この日の陽が傾くまで小川で遊んで楽しかったです。やっぱり夏は川遊び。


ん──にーさま?ダメダメ!

まったく!息継ぎが出来ないのです。教え方ヘタだったでしょうか……、苦しくなったら水の上に顔を傾けて口を少しだす感じで、はい!息を吸って──がぶがごば!

って塩梅で。水練コーチって難しい。でも、頑張りますね。頑張ろう、にーさま!頑張ってね、にーさま!情けなくない子に育ってねにーさま!誰に小昼が会わせても恥ずかしくない立派な侍になってください、応援しますから。

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