39.やって来ました!深淵の地!
《1553年》天文22年─土佐・深淵郷大谷
長宗我部小昼
爺の勘違い。先走りの誤解も解け香宗我部城に引き返すのも夜だし暗いしであれなので、泊まりました。ええ、爺も残って。
付き従って来た秀通らは池宮のお爺さん共々、屋敷のある香宗我部城の方に帰って行きましたけどね。
先ずは窯を見ないことには大谷を取り込んだ利点は有りません。ええ、最初から窯を扱える人が居るのと一から教え込むのでは、熟練度合いが全く違うでしょう?
「それで、千内さんは窯を使えるんですか?」
大谷左馬之介が窯の職人を呼んでくれて、小昼と爺とで麓の大谷屋敷にて対面してざっと挨拶も済ませると庭にひょろ長い男が座っていました。
当の左馬之介は忙しい忙しいと言い、場を柔らかく離れる挨拶を済ませると駆けるようにこの場から居なくなったんですけどね。忙しくさせてるのは小昼だったりするから頑張れーとその背に念を送って見送った。その後です。
ひょろ長い男の名は千内さんと言うそうで、深淵の窯で一番腕が良いと言う。
「まぁね。ここにある窯ならどれから焼こうが綺麗に焼けら……です!」
爺も睨みが怖いですからね。殺気が漏れ出てます。
「爺も睨まないの!話を聞いて貰ってお願いをするのはこっちなんだから。そうですよね千内さん」
「へへぇ……!俺らの出来ることなら何でも言って貰って構わねえです……びくっ」
爺の視線だけでびびりまくってますよ、職人の親方だって千内さん。聞いてみると、四十くらいですか。それでも三佐衛門より皺の数は少ないのに。
「窯を改造しましょう!」
それから窯が見たいからって窯のとこへ千内さんに連れて行かれて、じぃっと見てました。あ、これ古いままだ。知ってる窯じゃない、と気付いたんですよ。
当然なんですよね。
時代が違うから。
各地方を巡った時に見た窯と違う。TVで見た窯より、ずっと小さい。ん、大きいのもあるんですけど……大きい壷を焼く用なんですって。中もまるでダメ。
時を重ねて、時を経て、焼き窯も洗練されて行ったのでしょうからそれも又、違ってて当たり前なんですけど。
戦国の世、明のものがどのような形をしてるなんて誰も知らないからでっち上げにはぴったり!
小昼、これを見終わって頭に浮かんだ。そうだ、でっち上げればいいんですって。
それはそのまま小昼の舌の上に現れ、声となって出て行く。
「へっ、……かいぞうですか?」
突然のことでビックリした顔で、目を見開いたまま棒立ちで小昼を覗き込んでくる千内さん。
どこか童顔でまるで猿みたい。
「窯を新しく、明帝国が使っている窯に作り変えます!良いですか?」
そんなことはどうでもいい。クスっと一つ溢してから、そう言いつつ、わざと大袈裟に手を広げて見栄を切るようにアピールをしてですね、千内さんの反応を待つ。
「明帝国の窯を……それは良いものでしょうな」
見れば頬を崩した爺もニコニコと後押しをしてくれます、ナイスです、爺。
小昼的にそれはもう、満面の笑みを浮かべて、不安なんて無いんですよ、やりましょう!との思いを孕んでですね、断ってくれるなー!と少しの不安と戦いながらも悟られないように、そんな葛藤をしながら笑みにも力が隠ります。想いに力を込めていくんですよ!何事もやる気!それが大事!
……なんかの歌でしょうか?
「そりゃもう──新しくなるってんならこっちも願ってもない事で」
「小昼が焼きたいのは茶器。それに鉄。我が家の為に武器を作って欲しいのですよ、ゆくゆくは」
「ゆくゆく……ですか。たたら場も廃れてはありますが、無くは無い。出来なくは無いですが……」
「武器は嫌ですか?」
歯切れの悪い千内さんに畳み掛けます。
ここの職人で武器が造れればその先に火縄銃の自作という、段階に進めるってことですからね。
銃職人は房基に都合つけて貰いましょう。
阿波でも時期は下がりますが自作出来てますから、この土地で造れなくはないと思います。職人の育成は絶対必要なのですよ。
「壷焼きでさ……。俺らは精々が器や壷や瓶がめ、生活の為に窯焼きをしてきたんでさ。今さら鉄焼き、武器を作るって言われても……」
ちらちら小昼の顔を見ながら、更に歯切れが悪くなる千内さん。まるで、生活用品で手一杯といいたげに、今造れる製品を並べあげ始めたので、一度引いて様子を見ることにしましょうかね。
力押し一辺倒では天がひっくり返りでもしないと、やる気を出して貰えないかも知れない。
「鉄が出来ればそれで良いですよ。武器はあちこちに散らばってる南部の人間を使いますから、桶は桶屋。武器は、やっぱり武器の職人が作るものでしょう」
「姫様、南部ですかな?」
「爺、そうよ。一条の伯父様に聞いたの、彼らは津野では鉄で武器を作ったと」
東北の南部家から、技術を持ってやって来て津野に落ち着いた南部の職人さんたちは、津野が負けると更にあちこちに散らばったのです。
一条は安堵を約束したけど、津野が優遇してた以上のものは望めないと……東は安芸、西は宿毛それから御荘(みしょう。一条とくっつきもすれば敵対もした伊予の豪族)まで流れていき、各地に技術を伝播したって話です。
岡豊にも居たので、深淵の辺りに居ついても不思議とは思わない。
「ハー、奥州の南部てトコから来たって奴はここにも居ますよ。鍬作りが上手いんでさ」
「──知っています。岡豊にも居ますからね、鍛治屋の南部さんには小昼も鍬を作って貰いました」
深淵の南部さんにやって貰うのは、鍬作りじゃ無くなると思うんだけどねー。
捨てるほどの水もあり、たたら場で鉄も造れる。
それだけ揃ってるんだから、刀に穂槍と贅沢を言えば火縄銃でしょう。ぜひ、早い段階で自作に漕ぎ着けたい。
「なら話は早い。一人、今連れてきまさあ!」
「あのー、語尾はにゃあ!か、にゃ!にしませんか?」
離れようと小昼の横を通った千内さんを呼び止めて提案します。
深淵の人にも猫語でにゃあにゃあして貰えると和みますからねー。
猫語は江戸の時代に民間で浸透していたらしいけど、先取りといいますか。
「にゃあ……ですかあ?」
千内さん、困った顔を張り付けたまま苦笑いしてしまいました。土佐弁、染み付かせるにはまだまだ時間が進まないとダメかも知れません……残念です。
語尾はにゃあかにゃしか認めないのですよ。
深淵は、岡豊より自由度が高いです。
その後、南部から来た職人さんを紹介されて、色々話をしてから千内さんに設計書を渡して、小昼は深淵郷にばいばいしたのです。
「ん?水が有り余るほどあれば、綿が作れるんじゃないでしたっけね。ロシアの内海を枯らせるほど水を大量に必要とするって思ってたんですけど……深淵の地にはものすごく皆から迷惑がられるだけの水があるんだから、綿の苗木を売って貰いましょうか。次郎法師さんに頼めば手に入るかな。それとも、織田に許可を貰わなきゃいけないとかかな?ですけど……ぶつぶつ」
新しい産業を思い付き、急いで頭の中でそれを可能にしてくれる道筋を探した。
文通相手はそこそこいるんです。伝は房基に。
夕暮れまで話をして、深淵の地を後にした。
滔々と流れる物部川と、オレンジ色に視界いっぱいの景色を染め上げる夕日を見上げながら。
千内さん……もちオリキャラ。大谷に住む窯職人。侍が苦手な童顔気味の純朴な青年
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