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15.初陣

両陣に動き無く、小競り合いの延長のような戦いが続く。

これが、小昼の最初の戦となる。それはもう、なんとゆっていいか判らないほど戦と呼べるかも不安な小さな小さな戦い。

ここで、山田側の主張もとりあけで置こうと思う。


そもそも、山田が挑発をしているのには住民感情というものがある。


土佐は貧しい。食べるものが育たないわけは無いし、そんなことは無いと思うかもしれない。ちがう。育たないわけがないのだ、水は豊富過ぎて氾濫する程あるし、日の光だって暑いくらい射し込んでくる。


ただ、それは圧倒的に土地が無い!の一言に尽きるんじゃない?

土地が無いなら開墾開墾!って、言ってみると簡単な解決法があるにはあるけどそれが出来ない。それが出来るだけの先立つものが無い。

七英雄の勝ち組──ここでは、本山、山田、吉良。は銭はあったけど、その銭が民草にまで落ちてこないのは言うまでもないし、何よりその使える銭を使って公家紛いを始めて、平安時代に退化したんじゃないかって噂されてんのが山田だったりするのですねー。


だから、民はいい思いはないのだ。だから、山田に思うことはひとつ。戦力になって土地増やせよ、と。


そして、それは実質的に山田を采配していた西内常陸の耳を痛くするくらいに響いてきた。陳情として。

元々烏ヶ森城主だった西内常陸は、山田元義の遊興に苛立ち、諫めて来たが元義が聞かないので蟄居させたのです、力ずくで。

これにより西内常陸は山田元義に替わり山田楠目城に拠点を移し、山田領を采配するになる、と。

これって言ってみると、働けと言っても、言うことを聞いてくれないから山田元義の替わりに西内常陸が働いてるって感じなんじゃないかな。

西内常陸による山田家乗っとりだと他の山田一門が黙ってないと思うんだけどそこはまあ今は黙って見ているようだから、西内はここまでは殿様代行をきっちり出来ていたはずで。

その先に土地増やせよ!という陳情が出てきたりしなければ。

それが、我が長宗我部にちょっかいかけることに繋がらなければ。

で、それが今回の戦で効いてくる。久礼田村植田の水利権なんだな。きっと。


つーても、我が家は貧乏で弱小なんだよね。

室町期の資料を読んだとこでも一条の財一万五千貫のとこ、長宗我部三千貫でずばり見事な五倍差だったりする。

で、だ。これ滅亡前の財産なので、現在はこれより少ないことになる。滅亡時の失地が以外と多くてね。

復興間もない長宗我部が本来ある歴史のように立ち直れたのは、戦に次ぐ戦で周辺の勢力を狩り尽くしたから。

で、それとは違う歴史を描いている今の長宗我部はその戦を出来ていない。

やるだけの戦力を唯一無二の当主の娘の嫁入りという道具で周辺勢力の買収が作り出せてないからだよ。

精々が叔母上である清春尼と先の世でなのる、片岡家との繋がりが使えるくらい。

なんだよ、細川家への嫁入りってこう考えると凄い。

香長平野への足掛かりにも壁になってる細川家をどうにかするって意味でも。

此れが出来ないことでいまだに香長平野に手だしが出来てないのよね。

出だしからつまずいてるんだから、これで本来のよーな家が栄えるわけがないんだ。


ただ、銭は緩やかに儲けているし、周辺のあぶれた人たちや弱い立場の河原人が岡豊には流入してくれているから行く行くは。

歴史通りの繁栄を岡豊はしていんんじゃないかな?土佐国府もここだし。


で、戦に話が戻る。

植田への西内の焼き働きという挑発でもう我慢なら無いと息巻いているのが、久礼田城主で西内と山田兵に煮え湯を飲まされっぱなしの久礼田国祐。この久礼田は長宗我部三代の興した分家で、領地も岡豊にすぐ近い。まーなんだ、血を分けた親戚ってとこ。


長宗我部滅亡でも岡豊城が山田側や本山氏、天竺氏なんかに奪われずに形としての長宗我部家が残ったのも、久礼田氏や中島氏のような分家が必死に頑張って守っていたからで、そんな意味でも長宗我部の柱石と言えなくも無い。長宗我部を名乗ってないから反長宗我部から攻撃を受けることもなかったということあったんだろうね。ま、そんな無駄な説明はそれくらいにして、と。


久礼田村なんだから当然。久礼田城の統治、久礼田氏のものなわけだ。それを西内が欲しがってちょっかい出していていい気分なわけが無い。ただ、戦力はそんなに無いんだな。この点は西内も変わりがない。クーデターで山田元義を除け者にしたはいいものの、山田元義がすでに相当使い込んでいた後だったから、戦力を食わしていける銭が足りない。山田の旗を担いだ西内側も本格的な戦は望んでいなかったんで、だから……挑発なんて渋い真似をしているわけなんですよ。


「西内側の戦力はどれくらい?」


「今まで通りなら百たらず。ですな」


「判った。全部たいらげましょう──」


戦場となるのは妙典寺。

山田側が長宗我部との線引きを越えてきたなら、今まで必ず通ってきた道上にある寺で、こっちサイドの一時的な陣城になる。

負けるつもりは無いけど負けたら負けたで、寺の被害をこっちで賠償するという約束で借り受けているわけなんです。


その妙典寺の境内に陣を敷いて敵を待ち受けながら側ですっかり戦人の顔に変わっている爺に尋ねると、そんな返答を受けたんで頭に浮かんだ言葉をそのまま返した。

そんなやり取りをしながらその時を待っていると、参道をかけ上がって境内にやって来る一人の兵士。


これを見てついに来た!と小昼もにんまり。

戦準備をして待っているわけで、田植え直後の初夏を迎える時期。つまり、蒸すのだ、鎧が。肌が。


待っているだけでイライラが増してくるのと、戦が始まる緊張感と、これこそ求めていた戦国という高揚感とが混ざった感情が小昼の中で同居していて、どうにも落ち着かない。


「来ました!

剣片喰に三つ盛州浜、山田の旗が東よりやってきます。その数、三十以上!」


三十以上、はて?と、思うだろうけど戦力が全部旗持ってやって来る訳じゃない。

三〜四人につき旗一つと思っていい。だから単純に計算で百を越えるくらいの戦力は居て、こっちに向かってくる。とこの兵士は伝えている訳なのですよ。


だから西内側戦力は百と判ったので、出るとしましょうか。


「長宗我部元親、出る!

この一戦で、小賢しい、群がる蝿を追い払ってあげましょう!」


妙典寺の境内。報告を聞いて立ち上がった小昼の力いっぱいの出陣の声が響き渡ると、爺や久礼田側から待ったをかける声で元のように座らせられるのでした。解せぬ……。


「お待ちを」


「元親どの、お待ちくだされ。初陣で死なせては面目がたたぬ。まずは儂ら久礼田が迎え撃つので、元親どのは後ろに詰めておってくれればよい」


「と、言っても……抜いた刀は仕舞えないんだけど?」


後ろに詰めておいてくれって言う久礼田さん。

でも、あれだ。出陣するって言ったのと同時に腰の刀をもう抜いて握ってたりする。竹光や模造刀じゃない、真剣をだ。これを抜いておいて、さいですかってすぐに納められない。

連れてきた吉田家の家臣団と中島親吉もこの場に居て、このやり取りをみているんだから意地ですね。面子を保てるかどうかって話なんですよ。


「舞台は用意しましょう、ここはこの孝頼の顔に免じて、その刃置いてはくれませぬか」


「ふん、ここまで来ていて見ているだけなんてバカ言わないでよ。単騎駆けでも出るわよ」


馬というのは高い。

この場に長宗我部家が持ち込めたのが十足らずだったことでも、判って貰える物だと思うんだ。まあ、その内一頭は小昼専用なんだけどそれは置いといて。


「西内を追い返すだけで良いのです。兵力を減らさず守れれば良いのです。けして、元親どのの戦場入りを願っての出陣でないのを判っては貰えぬか。久礼田どのも言ったであろう、初陣で死なせるわけにはいかぬのじゃと」


爺がらしくない怖い顔して諭してくる。確かにこれは初陣だ。長宗我部元親と名乗って元服した小昼の。だからって、爺も久礼田さんも判ってない。初陣だから、経験が少ないからって即、討死に繋げることもない。


「おーけー、おーけー。死ななきゃいいんでしょ?──楽勝よ!」


もう昂った血が。沸騰してきた血が。抑えられないんだよ。

爺と前を塞ぐ家臣の誰かを押し退けて進む。参道をのしのし歩いて馬に飛び乗った。


「待ち焦がれた戦がやっと来たんだ!

これ以上待てますかってゆーの!」




そんなことをやってる間に、敵陣と味方がぶつかって交戦中になっていた。

鉄と鉄とがぶつかり合うガキン!とキン、キン!という堅い音とともに耳に届くのは、どちらの声かも判らないけどオオオォオオオ!という怒号が大音響で耳をつんざくように聞こえ。

人の命の熱がこっちに伝わってくるようです。

あ、TVじゃなくて、ここで。今まさに戦国の戦場にいるんだから当然でしたか。


足元の辺りに目を落とすと、既に敵陣から放たれたと思う折れた矢が見えます。


東から攻め寄せる剣片喰に三つ盛州浜の旗。人の波はほとんど足軽で騎兵は数える程しかいない。つまり。

馬に乗ったやつの命を取れば勝ち!あれのどれかが西内なり、山田なりの大将。

その時は血が脳まで達してあまり考えてなかったから、除外視してたけど、こんな小さい戦いに大将首がいるのかどうか──そんな考えはとりあえずこの時の小昼には無かったとだけ伝えたい。

「やぁあああぁああっ!

我こそは、長宗我部元親!

大将首とお見受けした、その首頂戴します!」


指揮官。と思われる乗馬した鎧武者に斬りかかる。

もちろんのこと足軽は無視して。名乗りを上げて掲げた刀を振り下ろした。


「ほう?大金星が向こうから飛び込んできたか。我は西内常陸が長男、西内元友。この首、取れるものならとってみるがいい!」


案の定、敵な指揮官だった。聞いたことないけど。西内自体がマイナー過ぎて聞いたことないし。仕方無いか。



あー……上背の高さでは敵いません。うん。

それを思い知る。

つばぜり合いを一度二度刃を交えてそれが判る。

なぜなら、じりじりと重ねた刃がこちら側に押されるから。


兜の中が蒸すのか、冷や汗なのか。

その両方か。

流れる汗が止まらない。


凄まじい殺気というか、ころっとあっさり死んじゃうんじゃないかという空気。

これが。

戦場なんだ。


「全部たいらげましょう」


ついさっきまでそんな事、言っていたのに。やっぱそう簡単にはいかないか。

って、ほくそ笑んでしまう。

これが戦国。ここに今こうして立って真剣振り回して戦っている自分に喜びを感じてしまって抑えられなかった。

西内元友からすれば何笑ってやがんだ?って映ったとも思う。

まだ兵器としての種子島すらない戦場。剣と槍で斬った張ったするわけで。これを楽しみにしてたんだから。

楽しくてしょうがないに決まっているのに。

そして、そろそろ──策が花開いて西内をハメるはずだから。

楽しくて、仕方無くて、当然!


「元友どのっ!

お味方が攻撃を受けておる!」


「後ろから矢が!」


「そこらじゅうから長宗我部の旗……丸に七つ酢漿草が!」


「このままでは囲まれるっ」


「急くな!陣が崩れるぞ!」


「敵は長宗我部ぞ!所詮敗者の家ぞ!」


「逃げるな、留まれーい!」


そんな阿鼻叫喚が戦場に響き渡るんです。

小昼、今とっても歪んだ笑い顔を浮かべてることでしょう。もう、勝った気分でいるんですから。


種明かしをすると、策と言うのはこうです。大量に雇った河原者や野盗みたいなごろつきを使って妙典寺周辺に放って散らばらせていたって簡単な仕掛け。

単純にこれを戦力には数えられないかもだけど旗を持って、一斉に矢を射ってきたらどうでしょう?充分に驚異に映るはずですよ。

ですから、西内との戦力が差もなくどちらとめ少数ならこんな単純な罠でも絶大に効いてくるんです。

戦は数ですよ、と誰かが言ってました。



そこを罠と知らずに西内がいつも通りに挑発にやって来て見事に罠にハマる、と。こう言うわけだ。


で、こうなると威勢を放っていた西内元友も気付く。


「伏兵で罠に嵌めたか!ちぃっ!こうなっては勝ちは拾えぬか」


重ねた刃を西内元友が力いっぱいの押して後ろに弾き返される。すると、バランスを崩して今の今までつばぜり合いをしていた二人の距離が開く。

西内元友と小昼の。


「逃がさないっての。これでいいっ!」


西内元友が馬首を返して駆け出そうとした腹に目掛けて斬りつけた。それは当たった。見事に当たったんだけど、狙いとは違ったとこを斬り割いた。


──西内元友の騎乗していた馬の背を。馬の後ろ足に傷跡が続くくらいに深く。

結果、西内元友は落馬。

槍でもあれば突き殺せる場面がそこに生まれた。

あーでも。槍なんて、持ってきて無いんだった。





終わってみれば、この妙典寺の戦いは長宗我部元親ことこの小昼が勝利を飾った形で終わった。


「今一歩のとこだったんだから、もう!」


「敗れた将を追って、手負いの虎に勝負を挑むは……間抜けではありませんかな?」


そんなことを言ってもだな、ほんと勝ててたんだ。

目の前に転がしてやったんだから、敵の指揮官ぽいのを。


こうして、小昼が楽しみにしてた戦国の一大イベント──初陣は。

なんかしょっぱい勝利に終わった。


伏兵で罠に嵌めて、敵の大将首が目の前に転がってたってゆーのに。

馬降りて斬り合えば首取れてたかも知んないのにだ。

西内の家臣だかが転がしてあった西内元友を抱えて去っていくのを見ているだけでしか無かったんです。


周りで味方もわさっと集まってきて勝鬨をあげ始めるし、今の長宗我部にとっての戦はこんな感じなのかも。

えいえいおーの大合唱に包まれながらそう思って一緒に小昼だってえいえいおーに加わる。もちろんさっきまでの殺しにかかる笑顔から営業スマイルでもない、心からの笑顔で。


負けなきゃいい。


今後の課題点になるんじゃないかな、咄嗟の判断で殺しに降りていけるかってゆーのは。


西内元友──周防介。名前が無かったので元義からとってつけました。西内常陸の息子は変わらず。西内常陸は勇将と伝わる─なので、息子の周防介もそれの流れをくんでるだろう、なって妄想の産物です。存在はするけど、活躍は伝わってないので……。


ブクマ増えるといいなぁ……って訳で盛り上がるとこまで一気交信でした



ここまで読んでくれてありがとう!時間に余裕があるとご意見ご感想書いていってね

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