ラプンツェルと町の調査
リルケが森へ帰ってから、私は羽を出して空へ飛び上がり、街の中心でじっと目まぐるしく変化する森の様子を確認していた。
森の主であるリルケが戻ったことで、街を囲む木々は青々と元気を取り戻し、蔓を伸ばしていく。それは瓦礫に埋もれ少し前までは人間の街であった土地を、かつての森へと取り返すように、するすると伸びる。それらはやがて瓦礫や人間の亡骸を巻き込み土へと還し、根をはり、草花が生え、確かに、明確に、鮮やかに……私達とリルケ達の住み処をはっきりと分けているように見えた。
「……すごい」
まるで、テレビ画面を覗き込んでいるような錯覚。早送りした動画を見ているような……これが、リルケの力。
「……やることが、早いなぁ」
△
さっき目にしたばかりの残酷な現実はたった数分でその姿を消して、まるでこの場では何も起こらなかったかのような、ずっとこの緑豊かな森だったかのような景色を見せている。
「こーゆーわけで、今木々の生えていない土地なら亜人が家を建てても大丈夫。逆に木々を斬り倒したりしたら殺されるから気をつけてちょうだいね。もしどうしても必要な時にはリルケに相談しましょう」
「まるで二百年前に戻ったようです……」
「懐かしい」
言葉もない。というのは、多分、今みたいな時に使うんだろうなぁ。街に住む古株のメンバーは感動して、昔を思い出した様子でその場に立ち尽くしていた。
私はその後ろ姿を見ながら、此処からが大変なんだろうなと、他人事のように思ったり。
「仮住まいでも良いから、皆の住める家を早く立てなきゃならないのよね……」
何時までもテント暮らしって訳にもいかないしなぁ。
兎に角、木を使えないなら、土で作るしかない。つち、土、煉瓦かぁ?でもなぁ、正直、煉瓦の作り方なんて知らないし……どうしたもんか。
なぁんて私がひそかに頭を抱えていると、後ろから
「あら、木を使えないのなら煉瓦を作れば良いのよね?」
なーんて、マーちゃんが何でもないことのようににこにこ笑顔でゴル君へ声をかけ。
「おう。煉瓦か?家に使うなら、窯で焼いてやらんとなぁ!」
豪快な笑い声を響かせながら、ゴル君は早速できた仕事に張り切って大木のような腕に力瘤を作って見せてくれた。
ムキムキマッチョのゴル君。
「むんっ」
力瘤も……凄い。
△
結局のところ、私が出来ることはあんまりなかった。
あれから二日。町の亜人達は、ゴル君の一族がやって来るのを心待にしながら、危険去ったテント生活を楽しんでいるように見える。ドワーフ族がたどり着いたら、早速煉瓦用の窯作りから始めて貰うつもりで、ゴル君と町の代表者とギルドマスターで契約を結んだらしい。……私は結局、テントを出したことと、リルケと話したくらいで特に何ができた訳じゃないけど、みんなからは何でもかんでも頼ってられないからそれでいいって言われてしまった。
△
「あーあ。あてにされ過ぎるのも嫌だけど、されなさすぎるのもさみしいような……」
ぽちゃん。ぽちゃん。
疲れきった私はお風呂に浮かんでいる。
ここ数日で、急激な変化が多すぎた。目が覚めたら森で、急に妖精さんになってて、そんでもって二百歳超えのお婆ちゃんで、蓋を開けたら結婚してて、振り返れば旦那さんはすでに亡くなってて、目の前には続々と増える子供と孫、そしてそのお嫁さんたち。私のホームがあった森はすっかり開拓されてたし、人間対亜人だし、リルケは怒ってるし……でも、それもなんとなく受け入れて、解決して。
「人が集まれば、問題も起きそうだ……なぁ」
めんど。
湯気がゆらゆら。お湯の圧が私の肺から酸素を奪って行く。
「ふー」
深呼吸。暖かい。眠い。お腹すいた……。
うとうとしはじめたら、沈みそうで。気力を振り絞って……ざばっと上がって、もそもそベットに潜り込む。今日はもう、暖炉は良いや。
「……あしたは、のんびりできるといいなぁ」




