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ラプンツェルへの手紙。

お気に入り登録81件!ありがとうございます。

拝啓、塔の上のラプンツェル様


心地よい小春日和に、あなた様はお元気でお過ごしでょうか。

あなた様と仲間の方々がお隠れになってから、およそ二百年の時が流れ、世界はがらりと姿を変えてしまいました。戻られてからは随分と戸惑って居られることと存じます。

さて、あなた様は私のことを覚えておられるでしょうか。私はドラゴノイド族長老、マゴクドラと申します。以前、冒険者ギルドを通じあなた様へ指名依頼を出させて頂いた事もあり、一度だけお会いし話したこともございました。

この度、あなた様がお帰りになられたと報を受け、お恥ずかしながら取り急ぎ文をしたためた次第に御座います。


頼みごとと申しますのが、ぜひあなた様の自治区へ我が一族を含むローグ領の亜人を移住させていただきたいのです。我らは二百年より以前、山や谷、川や森の奥に住み暮らしておりましたが、魔族やモンスターの増加により住処を追われ、やむなく人里へと移住したのですが、予想はしていても、人の街での生活はあまりにも酷いものでした。私たちの戦力をあてにした防衛や、無理なモンスター狩り、家族や仲間を亡くした者は数え切れません。私と息子達もつい二十年前、人間の戦力として駆り出され次男を亡くしました。ドラゴノイドやエルフは長命種ゆえ子が出来づらく、街の者は減少の一途を辿っており、このままでは我々は人間の手により近い内にも絶滅してしまうでしょう。


返答につきましては、この手紙を持たせた孫娘へお渡しくださいますようお願い申しあげます。






一緒に渡された白くつるりとした感触の、角か、牙のような代物を机に置き、小さく囁くように声をかけた。


「……貴方が孫娘さんね」


渡された手紙を一通り読み終え、目の前に立つ孫娘さんへと視線を上げる。


「は、はい……改めまして。お初にお目にかかります。私、ドラゴノイド族長老マゴクドラの孫、サーシャリアと申します。この度は急な訪問をお許しいただき、感謝のしようもございません」


かなり緊張してるようすで、固い。若干話しづらいなこの子。

でも、あの頃のお客様の孫で長命種のドラゴノイドってことは彼女、まだ子供だよね?


「はじめまして、私はラプンツェルよ。失礼だけれど、貴女のお爺さまのことは覚えていないの。ごめんなさいね。ただ、あなた方がもし本気でこの地へ移りたいのなら私はそれを拒否する気はないわ」

「えっ!っこほ。よ、宜しいのですか?」


橙色の瞳をパチパチさせて、彼女、サーシャリアは驚きと喜びを取り繕いながら聞き直してきたけれど。私としては別に下の住人が増えようが減ろうが、平穏無事な生活の邪魔さえしなければ好きにすればいいけど……まずは森の主に会いに行かせてくれってとこなのよね。


「ただし、住む場所は下の人間が居なくなってからでないと決められないわ。……何より、マールとポルルガンにも話しを通して、決めごとは守って頂戴ね」

「はい!ラプンツェル様にご迷惑をかけぬよう努力いたします」


室内に響く若々しい声に、元気でいいなぁ。なんて、ため息を一つ吐き出しながら執務机の引き出しから封筒と巻紙を一枚。巻紙をペーパーナイフで適当に切り出し、ドラゴノイドの長老へ向けて返事を書き出した。


それから少し経ち。


「さ、ツェル様」


手紙を封筒にしまったところで、トトが蜜蝋を火で炙り丁度良く溶かしてくれていて。


「ありがとう」


右の小さな鍵付の引き出しに入っていた私の印を押し当てる。それからそうっと放すと、固まった蝋にくっきりと綺麗に妖精の絵柄とラプンツェルとうたれた文字が見て取れた。


「あぁよかった。これで、皆が救われますっ」


そのまま手紙を彼女へ手渡すと、喜びにうち震えて、サーシャリアは涙を落としていた。

……うーん。塔の下の街は其処まで酷くないように見えるけど、それほどまでにローグ領は酷いのだろうか……と考えさせられてしまう。やっぱりギルドマスターが亜人って事が大きな違いになるのかな。

少なくとも、ポルルやマーちゃんは明らかにこの街の誰より強かっただろうしね。人間族もあまり強く出られなかったんだろう。


そしてその事が、それぞれの街に住む亜人達の命運を分けたのだ。


「……少し、街で時間を潰していてもらえる?私は明日森に入って主に会わなければいけないの。聞いているか分からないけれど、森主の状態を確認してからじゃなきゃこの土地の先は決められないから。街の今後や、この話の続きはその後にしましょう」

「……ズッ、はい」


鼻水をすするサーシャリアへ鼻紙を渡し。


「あっ!ちょっと待って下さいよっ」


さて、これで話しは終わりとティーカップへ手を伸ばせば、今度は反対側から知らない男の声が私を呼び止める。

今度は何だ?ぐるーんと首を回して左を向くと、さっき本棚を前に騒いでいた若いエルフの青年だった。



「あの、僕は塔の街代表のエルフ、カイトシエルの息子でカイトリニフと言います。街の亜人として、自治区の……新自治主様にぜひ、その、街の集まりに参加していただきたく、招待状を持ってきました」


どうぞ。と差し出される薄茶色の封筒には【塔の街の亜人一同】と記されていた。


「招待状……悪いけど、これは用事が済んでからにしてね。それが終わったら必ず行くと伝えてちょうだい」


正直に言えるなら、そんな集まりには参加したくない。私はのんびり自分のホームを行き来して暮らしていきたいけど、こっちに来てから全くゆっくり出来ないのはなぜだ!


「あ、え、はあ。えーっと、それで……あの」


もう疲れましたから、早く帰っておくれよ。

くたびれたサラリーマンのように、椅子の背にダラリと体重を任せて彼を睨む。


「まだ何か?」

「あの本棚の蔵書を、その、拝見させて頂けませんか?」


……はぁ?

顔に出してはいけないと思いながらも、つい眉間に寄ってしまった皺にビビったらしいカイトリニフはその場から二歩ほど下がり、またお願いを続けてきた。


「す、すみません。でも、僕は、教師になりたくて。……コホンッ、魔術の教師になるには様々な本を読み学ばなくてはならないのですが、二百年前の事件の関係で以前の書物もあまり現存していないのです」

「……あのね、其処に並ぶ本はほとんど私が書いたものだから、勉強にはならないでしょう。それに、あまり他人に触られたくないのよ。ごめんなさいね。トトもマールもそう言うことだから今日はここまでにしてくれる?」


まさか、誰かに読まれるなんてことを想定して書いてはいないしね。


「でも、この蔵書はきっとこれからの皆の役に!」


うー。しつこい。そして、声がでかい。

若干イラッとして、彼の顔を睨むように見つめると、瞳が真剣そうにキラリと光るのを見てしまった。これは……諦めなさそうだなぁ。


「……それなら、その内それらを纏めて書き写した写本を下の街に置けるように考えてみましょう。ただし、写本する本や内容はこちらで選ばせて貰うわよ。さて、マール、トト、悪いけど本当にもうこの辺にしてちょうだい」

「はーい。わかったのね!さ、二人とも下まで送るのよね!」

「そうですね。ではマールはそのまま二人をお送りして、サーシャリアさんについてはギルドの宿へ泊めて差し上げて下さい。僕はツェル様と共に森の主、リルケノバ様の所へ行ってきますから」


私の苛立ちや疲れを悟ったのか、トトは素早くお互いの仕事を割り振りし、まずは茶器を片付けに。マールはサーシャリアとカイトリニフの背をグイグイ押しながら私へ目礼し部屋を出て行き。


「……」


一人残された私はまた一時、ホッと息を吐く時間を得ることが出来のだった。

あー、感想が欲しいなぁ……とため息吐く今日この頃でございます(苦笑)

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