①
これは、落選した作品です。このまま埋もれるのも嫌なので、こちらの方で連載させていただきます。
とある平凡な大学生 蛍は恋人の帆乃花と共に過ごすキャンパスライフです。どうぞご賞味くださいませ。
帆乃花が黙って私の手を握る。情けない。私は随分と帆乃花を待たせたのであろう。初めてあった時、何を考えているのかわからないミステリアスな雰囲気に一目惚れした。付き合ってみて改めて思う。帆乃花は愛情に敏感だ。いや、愛情への執着が深すぎるというべきか。
「私、重いよ?」
帆乃花から告げられた言葉を今でも鮮明に覚えている。今までも“愛が重い”と言われ、3ヶ月も続かなかったらしい。
帆乃花と付き合ってから1年半が経過しようとしていた。帆乃花は変わらず、私の行動を常に把握したがる。帆乃花からのメッセージに少し時間を置いてしまうと、即座に着信がくる。その時の帆乃花の声は決してヒステリックなものではない。弾けそうな気持ちと私への配慮が混ざった声。相反する気持ちを抑える声は、あのように震えたものになるのであろう。私は帆乃花の声の調子を聴き、そのまま会いにいくことも少なくなかった。
帆乃花とのデート中に、私はゼミの後輩であるサキからのメッセージに返信をしていた。
「ゼミの後輩?」
帆乃花の問いかけに、私は慌てて視線を上げる。
「ごめん。なんか急ぎの用事みたいでさ…」
サキから再びメールが入った。ゼミの資料の総評の書き方に悩んでいるようだ。正直、埒が明かない。
「ちょっと電話してきてもいいかな?」
「いいわよ」
少し間が空いたが、帆乃花の表情は朗らかであった。しかし、私は席を離れて歩く背中に視線が突き刺った。
『先輩、すみません…』
「うん、大丈夫だよ。えっとその部分はね…」
サキの甘えるような声が聞こえた。私は遠目で帆乃花の様子を伺う。帆乃花の寂しそうに佇む姿に罪悪感を覚える。
『先輩!今度、御礼させてください!』
「いや、これぐらいは平気だから…」
サキはようやく納得した答えを自分の中に見つけたようであった。
『先輩は優しいな~今、何しているんですか?』
「え?いや、ちょっと外出してるんだ…」
『そうなんですか?もし良かったら…』
「ごめん、人を待たせているから!」
『えっ?は、はい、すみません…』
罪悪感は他の罪悪感で紛らわせるのが一番である。私は電話を切ると、急いで帆乃花の元へと駆けていった。
「ごめんね…」
「いいの…」
私は黙って帆乃花の顔を見た。帆乃花は視線を落とし、黙々とストローでジュースをかき混ぜている。帆乃花がかき混ぜる氷の擦れる音が妙に毒々しく聞こえる。
「帆乃花…実はゼミの後輩の相談に乗っていたんだよ…」
「その後輩って…女?」
「そうだよ」
私は帆乃花の瞼が一瞬だけ震えていたのを見逃さない。
「隠すのも変だし、普通に伝えたんだけど…嫌だよね。ごめん…」
私はサキとのメッセージのやり取りを帆乃花に見せる。帆乃花は携帯電話を一瞥すると、私を不思議そうに見つめた。
「ううん…蛍君を信じてる!全然気にしてないよ」
帆乃花が私に微笑んだ。私は胸の奥にあった鉛が溶けるのを感じた。
「そう?でも、帆乃花に誤解して欲しくないからさ!」
「大丈夫…」
私は帆乃花の表情や声質を注意深く観察した。この調子であれば問題なさそうだ。
「そろそろ時間だね?」
「そうね。入りましょう?」
今日のデート場所は映画館であった。前から帆乃花と楽しみにしていた映画を観るのだ。それほど話題にはなっていないが、映画の原作が大好きな小説であったのだ。私は右手にジュース、左手に帆乃花の手を取る。私は帆乃花のペースに合わせるも、いつもより少し急ぎ足で館内へと歩いていった。
「ねぇ…」
「ん?」
「私って…やっぱり重い?」
デートの帰り道、電車の窓から見える高層ビル群を見つめていた私は帆乃花の何気ない質問に対して視線を帆乃花に向けた。
「なんでそんなこと聞くの?」
「だって…」
帆乃花が無意識に作る沈黙から、彼女が不安と自制の狭間で苦しんでいることが伝わってくる。私はゆっくりと口を開いた。
「帆乃花は少し心配症なのかな?他人への信頼に対して自信がないというか…」
「うん…そうかも…」
帆乃花は私の言葉に俯いたまま返事をする。私は慎重に帆乃花を観察する。
「でも、そこが可愛いとも感じているんだけどね!」
帆乃花は視線を上げ、口が少し開いていた。
「え…?」
「気にしないでいいよ!不安なことがあったら、遠慮しないで言ってね!」
「うん…」
帆乃花の頬から安堵の笑みと雫が静かに伝う。
「今まで苦しかったね…」
帆乃花は黙って頷く。私は帆乃花の手を優しく握る。
「これで落ち着く?」
帆乃花は黙って頷いた。それから帆乃花の降車駅に到着するまで、帆乃花はずっと鼻を啜っていた。
帆乃花を家まで送り、私も自分の家に帰宅する。一人暮らしの静けさが染み入る。すると、携帯電話が鳴った。
『蛍君、今日はありがとう…』
帆乃花の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
「こちらこそ、色々と聞けて良かった」
『うん…あの…』
「ん?」
『会いたくなっちゃった…』
気持ちを抑えながらも声が振動して聞こえる。
「そっか…テレビ電話にする?今から行こうか?」
『………ううん。ありがとう…我慢する…』
「そう…」
私達は今日のデートのこと、次のデートのことを話した。
『ありがとう。落ち着いた…そろそろ寝るね…』
「うん、おやすみ…」
私は帆乃花が電話を切るのを待った。帆乃花が本当に寝付けたか心配であったが、私はベッドに横になるとすぐに瞼が重くなった。
翌日、大学の待ち合わせ場所に行く。すると、帆乃花が駆け寄ってきた。帆乃花は私の手を掴むと強引に歩いていく。
「帆乃花?」
何も言わない。しかし、その間には怒り等は感じなかった。人通りがない廊下についた。
「帆乃花、どうしたの?」
帆乃花は黙って私に抱きついてきた。私は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに帆乃花の頭を撫でた。
「至らない彼氏ですみませんでした。お姫様…」
帆乃花は私の冗談にクスクスと笑った。
帆乃花をやっとの思いで引き剥がすと、私は授業へと向かう。すると携帯電話からメッセージが入る。帆乃花からであった。
『今日、空いてる?』
「うん、空いてるよ」
私は素早く返信する。
『家、来る?』
帆乃花からの返信も早かった。私は準備していた文を打ち込む。
「うん、いいよ。観たい映画とかある?レンタルしよっか?」
少しでも帆乃花と共有する世界を増やしたかった。
『蛍君と同じやつ…』
帆乃花からのメッセージを受信する。私は帆乃花を大切にしている自信があった。だからこそ心配になるのだ。
講義後、私達は合流すると近くにあるレンタルショップへと歩いていく。私は帆乃花も楽しめそうな作品を探そうと陳列棚を注意深く見ていく。その傍らで、帆乃花は私の腕にしがみ付いて離れようとしない。
「帆乃花…」
帆乃花は額を私の胸元に押し付ける。私は帆乃花への弾けそうな感情を誤魔化しながら、ヒューマンドラマ映画を一作借りた。
「私のこと好き?」
私は帆乃花の言葉を聞いて唖然としてしまうが、はっきりと帆乃花に伝える。
「うん、大好き。ずっと一緒にいたいよ!」
私は昨日とは少しセリフを変え、帆乃花に気持ちを伝えた。帆乃花は私の腕に強くしがみつく。帆乃花は実家暮らしであるが、この時間は誰も帰ってこない。私もそういった感情が無いわけではない。むしろ、いつも帆乃花の誘惑に負けてしまう。しかし、それ以上に帆乃花が心配であった。
「ほ、帆乃花…ダメだよ。映画観てるから…」
帆乃花は甘えるように見つめる。
「いいじゃん…」
私は帆乃花から腕を取り返す。そして、帆乃花を引き寄せる。帆乃花は黙って私の腕の中に埋もれた。私は帆乃花を横抱きにすると、映画の続きを観る。帆乃花は目を丸くしながら私を見上げてくる。
「帆乃花?最近、多過ぎじゃない?僕は嬉しいけど…」
私は自分の言葉と体の矛盾に気が付きながらも、帆乃花を気遣う。帆乃花も私の下半身の変化を背中で感じていることだろう。
「うふふ…面白い人!でも、そんなところが大好き!」
私は思わず帆乃花に顔を近づけてしまう。私もまだまだ未熟者である。
帆乃花を優しく触る。甘い声が私をより奮い立たせる。ゆっくりと丁寧に、私は帆乃花の反応を確かめる。帆乃花の力が強くなった。私は優しく動かしていく。顔が大きく歪んでいく。私は帆乃花を優しく抱きしめた。帆乃花は荒い息遣いで私の股間を触る。そして、私のスボンのチャックを下ろした。
「蛍君…」
帆乃花は少し必死な感じが伝わる。
「帆乃花…?」
帆乃花は何も言わずに続ける。
「ちょっと…」
私は帆乃花を抱き寄せる。
「私、下手?蛍君を満足させられない…いつも私ばっかり…」
私は帆乃花の表情を見て、自分の配慮の位置がズレていたことを呪った。
「ほ、帆乃花…僕はただ…」
帆乃花の頬に二筋の滴りを見た。
「僕はいつも帆乃花から愛を感じているよ。だから、その…印は出てないけど、帆乃花が大好きだよ」
私は胸の中にいる帆乃花に微笑みながら伝える。
「本当に?」
不安そうな帆乃花に私はゆっくりと頷いた。
「僕のせいで心配させちゃったね…」
帆乃花は頬を赤らめて頷く。
「私、飽きられてるのかと思った…でも、蛍君のこと好きだし…でも、そんな自分が…」
私は帆乃花の口を人差し指で押さえる。
「帆乃花…大丈夫だから…」
私は帆乃花の額に唇をつけた。帆乃花の口は小さく開いていく。先程よりも頬が赤く染まっていた。
「今日はまったりするだけにしようね…」
私の提案に帆乃花はどちらとも取れないような表情をしていた。私は帆乃花の耳元で囁く。
「大好きだよ…」
帆乃花の唇が私の頬に触れる。とても柔らかい。
「私も大好き…」
私達は顔を見合わせて微笑み合うと、お互い顔を少し傾けてながら距離を詰めていく。私達はお互いを気遣いながら、溶け合う様に絡み合った。
帆乃花が玄関で靴を履こうとするのを、私は優しく制止した。
「帆乃花をまた家まで送らないといけないだろ。そうなるといつまでも帰れないじゃん」
冗談交じりに言う。
「じゃあ、帰らないでよ…」
帆乃花は冗談には聞こえない様子で私を見つめる。
「帆乃花…」
「ずっとそばにいて…」
私は帆乃花をゆっくりと引き寄せる。
「甲斐性がない恋人でごめんね」
帆乃花は私の胸に額を擦りつける。私はいつもより重い玄関ドアをゆっくりと開けた。
続きは随時更新します。もう出来上がっていますので…




