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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
魔界の門編

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51話 辺境の戦い

 クライン王国の辺境の地。かつて鬱蒼と生い茂っていた原生林が消え去ったその境界に、その農村はあった。数日前から、村は死んだような静寂と、張り詰めた恐怖に包まれていた。畑仕事などとうに手につかない。村の広場に集まった平民たちは、誰もが怯えた目で、遥か彼方の空を睨みつけていた。そこには、わずか数日前まで存在しなかったはずの、おぞましい『魔族の城塞』が聳え立っている。 天を突くほどに高くそびえる漆黒の城壁と、周囲に不気味に渦巻く黒い霧。太陽の光すら遮られた薄暗い空を、鳥のような形をした異形の化け物が無数に飛び回り、不吉な鳴き声を響かせていた。


「村長! もう限界です、今すぐ荷物をまとめて隣領へ逃げるべきです!」


 震える指で城塞を指差す若者の訴えに、老村長は疲れ切った顔で首を横に振るだけだった。その瞳には、頑固さというよりは、逃げ場所のない絶望が濁って張り付いている。


「逃げる……? どこへじゃ。この地を捨てて、隣領へ辿り着く前にあの鳥どもの餌食になるのがオチじゃ。ワシらはここで耐えるしかない。国を、王国軍を信じるんじゃ……」


「そんな……!」


「安心せい。我が村とて無防備ではない。国から配布された最新の魔法装備を持った守護兵が三人もおるんじゃ」


「たった三人じゃどうにもならない! あの化け物は無数にいるんですよ!?」


 その直後、若者の悲痛な叫びは最悪の形で現実となった。


 ズドォォォンッ!!!


「ひっ……、あ、あああああああッ!!?」


 広場を囲う簡易的な丸太の防壁が、凄まじい衝撃と共に粉砕された。砂煙を巻き上げて侵入してきたのは、人間の倍はあろうかという巨体を持った魔族だった。その背後からは、鋭い牙を剥き出しにした犬のような不気味な魔物が数頭、飢えた唸り声を上げて這い出てくる。


「ゲヘヘへ! 美味そうな人間が沢山おるなぁ! 久しぶりの肉だぁ!」


 魔族の合図とともに、飢えた犬の魔物が一斉に村人へと襲いかかった。逃げ惑う人々。逃げ遅れた村人が容赦なくその鋭い牙の餌食となり、広場が瞬く間に鮮血で染まっていく。


「な、なんじゃこれは……! 守護兵を出せ! あの化け物を倒すんじゃ!!」


 村長が腰を抜かしながら叫ぶ。その声に応じるように、クライン王国の制服を纏った三人の若い守護兵が飛び出してきた。国から支給された武器と制服を身に纏ってはいるが、その中身は、ほんの数ヶ月前まで彼らと同じように畑を耕していた、この村の若者たちだった。


「ハァァァッ!!!」


 彼らが手にするのは、柄に人工魔法結晶が埋め込まれた『結晶剣』だ。最新鋭の武器を構えた三人は、果敢に魔物たちへと斬り込んでいった。回路のない人間のはずが、結晶の輝きと共に炎と風の刃を放ち、犬の魔物を次々と一刀両断していく。これこそが、数年前に始まった『魔力革命』の成果だった。


「なに!? 人間の分際で、そのおもちゃはなんだ!?」


「魔族を斬り裂くだと……!? 生意気な虫どもが!」


 想定外の反撃に、巨体の魔族たちが顔を歪めて忌々しげに咆哮する。借り物の力とはいえ、凡人が魔族を圧倒する光景がそこにはあった。しかし――最悪の事態が彼らを襲う。


 キィィィン……ッ!


 連続で魔法を放っていた二人の剣の柄から、突如として不気味な高周波の駆動音が響き、赤い火花が散った。


「しまっ……過熱オーバーヒートだ!」


 魔力を酷使された刀身が真っ赤に焼けただれ、内部の回路が焼き切れて輝きを失う。完全に武器が停止した、その絶望的な一瞬の隙。


「ガァァァッ!!!」


 狂暴な巨体の魔族が、防具ごと二人の守護兵の首筋へと噛みついた。激しい血飛沫が舞い、二人の身体が力なく地面へと崩れ落ちる。


「おい! 嘘だろ……、おい!!」


 残された最後の一人――レオンは、目の前で同期の二人が無残に殺された光景に、一瞬だけ視界を恐怖に染めた。まだ少年の面影を強く残す、細身の青年だ。だが、レオンの心は萎えなかった。恐怖を怒りで、そして義務感でねじ伏せ、彼は血に濡れた結晶剣を強く握り直して立ち塞がった。


「この村は……お前たちのような魔物が、土足で荒らしていい場所じゃない……! 僕が、みんなを守るんだ!!」


 魔法結晶は未だ沈黙している。結晶剣はただの重い鉄の塊に過ぎない。それでも、レオンは叫びながら巨体の魔族へと突撃した。


「死ね、小蠅がぁ!」


 魔族の鋭い爪が、レオンの身体を容赦なく引き裂く。ドカッ、と強烈な一撃を浴び、衣服が裂け、鮮血が飛び散る。しかしレオンは体をひねり致命傷を避け、肉を切らせて骨を断つ一撃で、魔族の膝元へと剣を深く突き立てた。だが――ただの人間が渾身の力で放った突きでは、巨体の魔族を仕留めるには至らない。肉を裂かれた魔族が、苦悶の表情でその場に膝をつくのが限界だった。戦場はどこまでも残酷だった。レオンが泥に塗れて戦うその横を、別の魔物たちがすり抜け、村人たちを襲撃していく。


「助けて!」「嫌だ、来ないで!」と悲鳴が響き渡る。


 レオンは自身の無力さに歯噛みし、悔し涙を流しながらも、決して視線を逸らさなかった。今の自分にできることを、目の前の敵の足を止めることだけを、死に物狂いで続ける。その時、手元の結晶が再び、静かに青い輝きを取り戻した。魔力の再充填チャージが完了したのだ。


「みんなを……これ以上、傷つけさせない……! 結晶よ、応えてくれぇ!」


 極限状態の中、少年の強い気持ちが結晶へと上乗せされる。結晶は本来の出力を遥かに超えた、通常よりも遥かに巨大で眩い炎の刃を形成した。凄まじい炎の嵐が広場を吹き荒れる。


 一発、二発、三発――!


 レオンが放った決死の三連続の魔法が、周囲にいた魔物たちをまとめて切り刻み、一掃する。


パキィィィン……ッ!


 だが、限界を超えた出力に耐えきれず、彼の愛剣は柄から完全にへし折れ、木っ端微塵に壊れてしまった。


「――ッ」


 レオンは一切の躊躇を見せなかった。彼は壊れた柄から、未だ熱を帯びている人工魔法結晶を強引に毟り取ると、それをそのまま口へと咥え込んだ。そして、地面に転がっている、先ほど戦死した仲間たちの結晶剣――まだ生きている二つの武器を素早く拾い上げ、両手に構えた。口に結晶を咥え、両手には死んだ戦友たちの剣。全身から血を流し、息を荒くしながらも、その瞳だけは決して折れずにギラギラと燃え盛っている。その異様な執念を纏った姿に、周囲を取り囲んでいた魔族たちが、一歩、後ずさりした。


「チッ……なんだこいつの目は……!?」


「気味が悪いガキだ……! おい、誰かボスを呼んでこい!」


 魔族たちが本能的な寒気を覚えて叫ぶ。直後、広場の奥、黒い霧の向こうから、それまでに現れたどれよりも一回りは大きく、悍ましい瘴気を纏った「上位の魔物」が、重々しい足音を立てて姿を現した。


 絶望的な実力差。


しかし、両手に剣を握るレオンは、怯える姿など微塵も見せなかった。口に咥えた結晶から、指示を送るように剥き出しの魔力が溢れ、両手の剣の刀身へ狂暴な魔法の輝きが伝播していく。


「う、おおおおおおおおおおッッ!!!」


 死んだ仲間の遺志を背負うように、レオンは絶望が迫る中、叫びながら真っ直ぐに突進していった――。


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