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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
始まり~アステリア

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3話 咆哮する筋肉

 あれから6年が経ち、アステリアの村を包む空気は、成人の儀を目前に控え、一段と重苦しく、そして熱を帯びていた。


 地下に眠る四天王の封印から漏れ出す魔力の残滓ざんしが、季節外れの乾いた風に乗って肌を刺す。この村では十六歳を「成人」とし、その証として村の防衛を担う「守護兵士」への入隊資格が与えられる。


 その前哨戦として行われるのが、一学年上の先輩たちとの「合同模擬戦」だ。


 かつて俺を「無能」と切り捨てた大人たちや、すでに魔法を使いこなす同期たちが冷ややかな視線を送る中、俺は練武場の乾いた土を踏みしめていた。


「おいおい、本気かよ。回路なしのアルスが、十七歳の精鋭とやり合うって?」


「無駄に筋肉だけ鍛えて何になる。魔法の一撃で消し飛ばされるのがオチだ」


 外周を囲む大人たちのひそひそ話が耳に届く。だが、今の俺にはそれすらも心地よいノイズに過ぎなかった。


「アルス、無理はしないで……!負けもいいのよ!」


 観客席から、サリアが祈るように声を張り上げている。彼女はこの一年で、村の若手でも指折りの「治癒と水の使い手」として、大人たちからも一目を置かれる存在になっていた。


 対峙するのは、十七歳の学年でトップクラスの評価を受ける、風属性の使い手――カイル。


 彼はすでに村の守護隊の制服を纏い、洗練された魔力を全身から漂わせている。


「アルス、悪いな。お前の『ごっこ遊び』に付き合ってやるほど、俺たち守護隊は暇じゃないんだ」


 カイルが嘲笑混じりに右手を掲げる。その指先には、不可視の刃である「風の鎌」が数条、渦を巻いて生成されていた。


「始め!」


 審判の合図と同時に、カイルが動いた。


風弾ウィンド・バレット!」


 放たれた不可視の衝撃波。並の人間なら反応すらできず、肉を抉られる速度だ。


 だが、俺の視界せかいは、その瞬間から劇的に変容していた。


(――神経加速ニューラル・ブースト、接続)


 脳を焼くような熱が走り、時間の流れが極限まで引き延ばされる。


 空気を切り裂く風の「揺らぎ」が、色を持って見える。カイルの指先の動き、魔力の指向性、そして着弾までのコンマ数秒のタイムラグ。


 俺は一歩、右へ踏み出した。


 横転するわけでもなく、ただ「そこにあるはずの攻撃」を、最小限の動きで避ける。


「なにっ……!?」


 カイルの顔が驚愕に歪む。間髪入れずに連射される風の刃。


 俺は舞うように、あるいは滑るように土の上を滑走した。


 一歩踏み込むごとに、魔力で補強された筋繊維がバネのように収縮し、凄まじい推進力を生み出す。


 一気に間を詰める。


 カイルが慌てて自分の周囲に風の障壁バリアを展開した。魔法使いの定石だ。近接戦闘を拒むための物理的な壁。


「無駄だ! 魔法を持たないお前の拳が、この暴風を突破できるはずが――」


筋結合マッスル・バインド――右正拳に全魔力を封鎖)


 俺は足を止めず、その「壁」に突っ込んだ。


 右肩から拳にかけて、体内の魔力を強引に圧縮し、逃げ場をなくす。


 骨を折らんばかりの圧力。だが、その圧力こそが破壊力を生む。


 俺は前世の知識……「衝撃」を伝えるための運動連鎖を意識した。


 足首、膝、腰の回転、肩甲骨のスライド。そのすべてが、魔力によって加速された神経に制御され、一点に収束する。


「おあああっ!」


 咆哮と共に放たれた拳が、不可視の風の障壁を「物理的に」叩き割った。


 パリン、とガラスが砕けるような幻聴が響く。


「なっ、ぐはっ……!」


 拳はカイルの腹部、寸前で止めた。


 だが、そこから生じた凄まじい風圧だけで、十七歳の精鋭は木の葉のように吹き飛び、練武場の壁まで転がっていった。


 静寂。


 練武場を支配したのは、これまでにないほどの不気味な沈黙だった。


 誰もが言葉を失っていた。魔法という「神の力」を使わず、ただの肉体だけで、成人の魔法使いを圧倒した少年。


「……勝者、アルス」


 審判の震える声が響く。


 途端に、観客席の一部からどよめきが沸き起こった。


「今の……なんだ? 魔法じゃなかったぞ」


「物理攻撃だけでカイルの防壁を? あんな馬鹿げた筋力、見たことがない……」


 大人たちの目が、それまでの「蔑み」から「畏怖」へと変わり始める。


 もちろん、全員ではない。一部の保守的な長老たちは、魔法を否定されたような屈辱を顔に浮かべていた。だが、村を実際に守る守護隊の戦士たちは、俺の動きに「実用的な暴力」の片鱗を見出し、鋭い眼光を向けていた。


「アルス……!」


 サリアが駆け寄ってくる。その瞳には、かつてのような憐れみはなく、ただ純粋な驚きと、誇らしさが宿っていた。


「すごい……本当に、凄いわアルス! あなた、いつの間にあんなに……」


「まだ、通過点だ。」


 俺は汗を拭い、拳を握り直す。


 視線の先、同期の席に座るライゼンと目が合った。


 彼は不愉快そうに口端を歪め、指先で小さく電撃を散らしている。その目は「俺が叩き潰してやる」と雄弁に語っていた。


(そうだ。それでいい)


 俺は内心で、暗い熱を燃やす。


 佐藤健一として生きた頃なら、ここで満足して「ほどほどの評価」に甘んじていただろう。


だが、今の俺は死を乗り越えこの世界で強く生きるんだ。


 魔法という奇跡に頼り、傲慢になった連中の鼻柱を、この「持たざる肉体」でへし折ってやる。


 その確信が、今の俺にはあった。


「アルス……お前、面白いものを見せてくれたな」


 背後から声をかけてきたのは、村でも武闘派で知られる守護隊長だった。


 彼は俺の肩を強く叩き、ニヤリと笑った。


「成人の儀、楽しみにしているぞ。お前のような『規格外』が暴れるのをな」




 俺がカイルを物理的な圧力だけで沈めた衝撃が、まだ練武場に重く居座っていた。


 だが、その沈黙を切り裂くようにして始まった同期たちの戦いは、大人たちの「驚愕」をさらに深い「畏怖」へと塗り替えていくことになる。


 


第2試合、雷使いライゼン。


 対峙した十七歳の先輩が、防御魔法の詠唱を終えるよりも速かった。


「瞬きをするなよ。見逃すからな」


 ライゼンが指先を向けた瞬間、練武場の空気が焦げ付くようなオゾンの臭いに満たされる。直後、青白い雷光が文字通り「一閃」した。爆音すら置き去りにする雷撃は、先輩が展開した土の盾を紙細工のように貫通し、その胸元を直撃する。


 膝を突く暇さえ与えず、雷光に焼かれた上級生が物言わぬ塊となって地面に転がった。ライゼンは溢れ出す電撃を無造作に手で払うと、退屈そうにその場を後にした。その圧倒的な速度に、守護隊のベテランたちさえ「目で追えなかった……」と戦慄を隠せない。


第3試合 炎使いイグニス。


 彼が軽く右手をかざすと、広場全体の酸素が吸い尽くされるような奇妙な圧迫感が観客を襲う。巨大な火球が出るかと誰もが身構えたが、放たれたのは極限まで圧縮された針のような熱線だった。


「降参しろ。足元がなくなるぞ」


 イグニスの言葉と共に、熱線が地面をなぞる。一瞬で石畳がオレンジ色に輝き、ドロドロの溶岩へと姿を変えた。立ち位置を失い、灼熱の熱気に晒された先輩は、髪を焦がしながら情けない悲鳴を上げて練武場から逃げ出した。火を「放つ」のではなく「環境を支配する」その練度に、長老たちは絶句し、震える手で杖を握りしめていた。


第4試合 風使いウェンディ。


 さらに、ウェンディの戦いはもはや残酷なまでの美しさだった。


 彼女が静かに佇むだけで、周囲には無数の不可視の刃――断罪の風が渦を巻く。攻め込もうとした上級生は、一歩踏み込むたびに自分の制服が、そして皮膚の表面が薄皮一枚ずつ切り裂かれていく恐怖に顔を白くした。


「そこから先は、私の領域テリトリーよ」


 ウェンディが指を一弾きすれば、旋風が弾け、上級生は全身上下をズタズタに切り裂かれた状態で場外へと弾き飛ばされた。その精密な魔力操作は、すでに一兵卒の域を遥かに凌駕していた。


第5試合 岩使いガウル。


 岩石のように変質した彼の肌には、上級生が放つあらゆる魔法が傷一つ付けることができない。


「効かない。次、俺の番だ」


 絶望に染まった上級生の胸元に、ガウルの太い腕が添えられる。軽く押し出されただけに見えたその一撃は、重戦車に衝突されたかのような衝撃を生み、上級生は練武場の外壁を突き破る勢いで吹き飛んでいった。


第6試合 水使いサリア。


 彼女が優雅に手を掲げると、空気中の水分が瞬時に収束し、巨大な水のうねりとなって上級生を包み込む。溺れる恐怖に必死で魔力を練ろうとする相手に対し、サリアは冷徹なまでの静謐さを保っていた。


「降参してください・・・!」


 サリアの呟きと共に、水流がパキパキと音を立てて結晶化し、上級生の手足を美しい氷像へと変え、完全に封じ込めた。治癒術師としての慈愛と、水を支配する冷酷な強さ。その両極端な才能の同居に、村の女たちさえも畏敬の念を込めて彼女を見つめていた。



 模擬戦が終わった頃、練武場を支配していたのは、かつてないほどの濃密な「予感」だった。


 大人たちは、誰もが言葉を失っていた。今年の十六歳は、ただの「有望な若者」ではない。村の歴史を、あるいはこの世界の常識を根底から塗り替える「化け物」たちの集まりなのだと。


 俺は、その熱狂の渦の中心で、静かに自分の拳を見つめていた。


 ライゼンたちの華々しい魔法の輝きは、確かに素晴らしい。だが、俺の内側にある「出力なき魔力」は、それらを目にしてもなお、一度も屈することなく燃え続けている。


「……面白い」


 俺は口元を歪めた


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