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蛾羅巣  作者: 風ラ健る
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第二章 夜の放送

第二章 夜の放送


 足音は、止まらなかった。


 ミシ。


 ミシ。


 廊下の床がゆっくり鳴る。


 暗闇の中、俺はベッドの上で動けなかった。


 父さんか母さんかもしれない。


 そう思おうとした。


 でも違う。


 こんな時間に、わざと音を立てるような歩き方をするはずがない。


 しかも――遅すぎる。


 一歩ごとに、何かを引きずっているみたいだった。


 ミシ。


 ズ……。


 ミシ。


 ズ……。


 喉が乾く。


 スマホのライトをつけようとしたが、なぜか電源が入らない。


 さっきまで動いていたのに。


 足音は部屋の前で止まった。


 その瞬間、空気が急に冷たくなる。


 ドアの向こうに誰かいる。


 わかる。


 息をしていない“何か”が、立っている。


 ゆっくり。


 ドアノブが回り始めた。


 ギ……。


「っ!」


 鍵、閉めたよな――。


 心臓が暴れる。


 だが次の瞬間。


 一階から父さんの声がした。


「悠真ー! ブレーカー落ちたぞー!」


 ドアノブの動きが止まる。


 廊下の気配が、一瞬で消えた。


 まるで最初から何もいなかったみたいに。


     ◆


 電気が戻ったあとも、俺は眠れなかった。


 朝になってから恐る恐る廊下を確認したが、何もない。


 ただ、ドアの前の床だけが妙に濡れていた。


 細い線みたいに、水が廊下の奥まで続いている。


「……雨漏り?」


 そうつぶやいた時だった。


 奥の部屋のドアが少し開いていることに気づいた。


 昨日は閉まっていたはずだ。


 中は暗い。


 古いタンスと段ボールが置かれているだけの部屋だった。


 けれど、壁に何かある。


 近づいて、息が止まった。


 爪あと。


 壁いっぱいに、誰かが引っかいたような跡が残っている。


 しかも同じ言葉が何度も書かれていた。


『みつけて』


『みつけて』


『みつけて』


 赤黒い文字。


 ペンじゃない。


 もっと嫌なものに見えた。


「おい、朝飯できたぞー」


 父さんの声で我に返る。


 もう一度壁を見る。


 すると。


 文字は消えていた。


「……は?」


 壁には何もない。


 ただ古いシミが残っているだけ。


 俺はしばらく動けなかった。


     ◆


 その日の夜。


 俺は近所のコンビニへ行くことにした。


 家にいるほうが落ち着かなかったからだ。


 外は霧が出ていた。


 街灯の光がぼやけている。


 人は少ない。


 というより、ほとんどいない。


 途中、小さな公園を通りかかった時だった。


 ブランコが揺れている。


 誰も乗っていないのに。


 キィ……


 キィ……


 嫌な音。


 思わず目をそらす。


 その時、公園の奥に誰か立っているのが見えた。


 小学生くらいの女の子。


 白いワンピース。


 長い黒髪。


 昨日、窓にいたやつだ。


 女の子はじっと俺を見ていた。


 顔色が異常に白い。


「……お前、誰だよ」


 返事はない。


 すると突然、街中に放送が流れ始めた。


 ザーッ……というノイズ。


 古いスピーカーの音だ。


『午後七時をお知らせします』


 女の声だった。


 どこか機械みたいに平坦な声。


『本日も、夜の外出は禁止されています』


 俺は眉をひそめた。


 そんな話、聞いてない。


『影を見つけても、振り返らないでください』


 ゾッとした。


 公園を見る。


 女の子がいない。


 消えている。


『もし、自分ではない声が聞こえても、返事をしないでください』


 スピーカーがブツブツ途切れる。


 周囲の霧が少し濃くなった気がした。


『――まだ、見つかっていない住民がいます』


 その瞬間。


 背後で、誰かが小さく笑った。


「ねぇ」


 耳元だった。


「やっと来たね」


 全身が凍りつく。


 ゆっくり振り返る。


 そこに立っていたのは。


 制服姿の少女だった。


 首から下が、影になっていた。

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