66 ミュヘンブルグの街
タクミたちは新たな街に入ります。国王からの依頼の事もあり、彼らは一体どうするのでしょうか・・・・・・
タクミたちはミュヘンブルグの街に入る。北部貴族たちが争う戦場はここからまだかなり遠いので、街は行き交う人で賑わっている。というよりも前線に物資を送る拠点として、この街は現在かつてないほどの活況を呈している。
戦争は大量の物資を消費することを考えれば、ある意味この世界では経済活動の一環なのかもしれない。かつてヨーロッパでは公共事業の代わりに戦争が行われていたという説もあるくらいだ。
タクミたちは一先ず冒険者ギルドに立ち寄る。ここで何か目ぼしい情報がないか聞き込みと、お薦めの宿を紹介してもらうためだ。
タクミが代表してカウンターで大まかなこの街とその先にあるシェンブルグの話を聞くが、この場では誰もが知っている程度の情報しか得られなかった。
「宿は聞いてきたけど、他の事はあんまりよくわからないな」
飲食コーナーで飲み物を片手におしゃべりの花を咲かせていた女子たちの所にタクミが戻る。
「ああ、ご苦労さん」
圭子から上から目線の労いの言葉が掛けられるが、今更気にしても仕方がない。これが純然たる力関係というものだ。
「ご主人様、何を召し上がりますか?」
岬から掛けられる優しい言葉、もうこの優しさ無しでは自分は生きていけないのではないかとタクミは心の中で手を合わせる。まさに地獄に仏だ。
「すまない、適当にお茶を頼む」
メイド服姿の岬が立ち上がりカウンターに向かっていく。周囲の男性客たちは声を掛けたそうにしているが、彼女の服を見て仕事中と判断して視線で見送るだけだ。
「それで、何かいい話はあったの?」
圭子は早速本題に入る。『彼女が岬の10分の1でも気遣いが出来たら・・・・・・』という気持ちは全く表に出さずに、タクミは話の結果を伝えた。
「領主はかなり武勇で勇名らしくて、戦乱にも積極的に参加しているそうだ。やはり領地を広げたいとか、より大きな権力を手に入れたという思惑があるんだろう。ただ、シェンブルグの街でもそうだが、領民たちは戦争賛成派と反対派に分かれているらしい」
それ以上はこの場ではわからなかった事も合わせて伝える。
「私たちも面白いお話を聞いたんですよ」
春名が目を輝かせている。好奇心だけは人一倍強い彼女は近くにいた女性の冒険者に話しかけて、色々聞いたそうだ。
「北部の戦いの原因は金鉱の領有権だそうです」
その話によると、北部の山岳地帯で発見された鉱山でかなりの埋蔵量の金が確認されたらしい。本来鉱山開発は国王と政府の許可を受けて行うものだが、どうやら貴族たちは政府には黙って独り占めしようと画策して、その仲間割れが原因で戦乱になっているとの事だ。
もちろんこの街の領主もこの件に絡んでおり、それどころか最大の兵力を送り込んでこの利権に食い込もうとしている。
実はこの事は国王側も情報として掴んではいるが、王都から距離があることや王の権限で帰属を決定するとそこから外れた陣営の反発を招くことが危惧されるので、あえて放置して貴族たちの疲弊を待っているそうだ。
「あの国王もかなりしたたかだな」
先日晩餐に招かれて話をした時の印象と全く違う国王の手腕にタクミは彼の見方を大きく上方修正する。
だが、それよりもタクミたちにとって問題は、火山に行くためにはその問題の金鉱がある山を通っていかなければならない事にある。なるべく争いごとに首を突っ込みたくないので、迂回ルートや突破する方法を検討しなければならなくなった。
「とりあえずは宿に行くか」
タクミの一言で皆が席を立って宿に向かう。ギルドで紹介された宿は歩いて2,3分の所にあって、食事やサービスはまずまずといった感じだ。
彼らは早速集めた情報を元にこれからの方針を相談する。
「伯爵が戦争に絡んでる以上は、まずやつをなんとかするしかなさそうだな」
タクミたちが火山を目指すためには北部の戦いがこれ以上激化しないように、可能ならば沈静化する方向が望ましい。それには最大の兵力を送っている伯爵に手を引かせる必要がある。
「おそらく伯爵は金鉱の利権絡みで王子を誘拐しようとした」
美智香の分析に一同が頷く。というよりもそれしか考えられない。彼は王子を人質にして金鉱の利権を国王に認めさせる画策をしていたと断定せざるを得ない。
「これはやるしかないでしょう!」
圭子が目を輝かせている。元はといえば彼女の考え無しの返事で、伯爵をとっちめることを請け負ったが、ここに来て最早それだけでは済まされなくなったこちら側の事情も絡んでくる。
「具体的な方策はどうするの?」
美智香も圭子の意見には賛成だが、彼女の方がより先の事まで考えている。
「命までは取らないが、伯爵を拉致して俺たちや国王に2度と逆らいたくなくなるような目に会わせるという事でいいな」
タクミの意見に皆が頷く。この世界で今までの経験上、貴族一人を拉致するくらいは彼らにとって簡単なお仕事だ。正面から乗り込んで警備の者を無力化し、堂々と連れ去ればいい。
話題は伯爵をどんな目に会わせるかという事に移る。
「森に連れて行って魔物の正面に放っぽリ出す!」
圭子が自身ありげに言うが、この近くにはそれほど強力な魔物がいないことや、森まで連れて行く手間がかかることで却下される。
「ホモの中に裸に剥いて投げ込む!」
空の願望丸出しの意見だが、どうやってそのホモたちを確保するのかで躓いて却下される。
「磔にして魔法を打ち込む!」
美智香の意見は生命の保証が出来ないという事で却下される。
「罰として街中のお掃除をさせるのはいかがでしょうか?」
岬の意見は手緩いと却下される。
こうして次々に意見が出されては様々な理由で却下されて話がまとまらない。
「大した手間を掛けずに俺たちに反抗出来ないような目に会わせる方法か・・・・・・中々難しいな」
タクミは腕を組んで考え込む。彼も一応は学校で『人権には配慮しろ』と習っているので、最初から拷問等は考えから除外している。
「あのー・・・・・・これはどうでしょうか?」
春名が端末を取り出して、とある映像を見せる。
「「「「「「「それだ!!!」」」」」」」
全員が一斉に声を合わせた。
「これは一生心に残るな」(タクミ)
「ハルハル、よく思いついた!」(圭子)
「これなら連邦法の上でも問題はない」(美智香)
「まあ、楽しそうに声を上げていますね」(岬)
「絶対に私は無理です!」(紀絵)
「出来れば最後にホモの皆さんの手荒い祝福を受ける形にしたい」(空)
「それはない!」(一同)
こうして全員一致で作戦名『おしおきだべ大作戦』(命名春名)が決定されて、準備が進められていくことになった。
読んでいただいてありがとうございました。次回はタクミたちの計画が実行されるかな?・・・・・・
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