65 帰還の約束
お待たせしました。改めて国王夫妻に招かれたタクミたちです・・・・・・
夕方国王から晩餐に招かれているタクミたちは王子と一緒に内宮に向かう。そこは国王の居住区で家族と招かれた者しか入ることは出来ないプライベートな区域だ。
王子宮から石畳の道が真っ直ぐに続いており、彼らは歩いて向かっている。王子を先頭に全員がついて来ているが、その中で圭子とタクミは現在腹ペコ状態だ。
国王の言葉を真に受けた圭子が『お腹がすくまでやる!』と始めた鍛錬だったが、結局3時間にも及び疲労と空腹だけが残る結果となった。
体を鍛えることが趣味の圭子はともかく、付き合わされたタクミの方はいい面の皮だ。早く食事をして休みたいと心から願っているが、今夜はさらに岬との何ラウンドに及ぶかわからないスパーリングが残されている。もちろん疎かには出来無いので彼は気持ちの上では手を抜かないつもりだが、果たして疲労困憊の体が言う事を聞いてくれるか非常に不安だ。
内宮に入って通された応接室で、彼らはにこやかに出迎える国王夫妻から改めて礼を述べられる。
「本当にありがとうな。俺たちの最大の悩みの種だったミハイルが元気になって、俺もこいつもうれしいんだ」
とても国王が口にする言葉ではないようなまったく気取らない口調で礼をする国王。
「あなた、いくらなんでも恩人に対して失礼ですよ。それにしても本当にありがとうございました。この子が元気になって私もうれしくてうれしくて・・・・・・」
王妃の瞳には涙が浮かび、それ以上言葉が続けられない。二人は子煩悩で、どうやらとても仲の良い夫妻のようだ。
「適当な場所に座ってくれ」
王にソファーを勧められて腰を下ろす一同に対して涙を拭った王妃から言葉がかかる。
「皆さんびっくりしたでしょう。この人があまりにも柄が悪くてすみません」
頭を下げる王妃に対して、彼女の言う事を気にした風もなく国王は話し始める。
「お前たち冒険者なんだろう? 俺も若いころ冒険者だったんだぜ!」
自慢げに語る国王、彼の話し方はその頃の癖が抜けないらしい。
国王のアンドレアスは、前国王の4男として生まれて周囲からはまったく期待されずに自由に育った。成人してからは冒険者となって各地を転々としていたのだが、彼の兄たちが次々に戦争や病気で亡くなって呼び戻されて已む無く継ぎたくも無い王位を継いだそうだ。
「まあ俺たちの場合はトレジャーハンターという方が正しいな」
アンドレアスは昔を懐かしむ表情で語りだす。彼はパーティーを組んで遺跡の調査や隠された宝を探していたそうだ。もちろん魔物と遭遇して戦う事もしばしばで、危険を省みない無茶も大分やったらしい。
王妃のシスティーナは隣国の下級貴族の3女で商人の男との縁談がいやで冒険になろうとギルドで登録したその日にアンドレアスにパーティーに誘われてそれ以来ずっと一緒だそうだ。
彼らの出会いとのろけ話を散々に聞かされて食事も取っていないうちからお腹いっぱいのタクミたち、だがここで国王の目が変わる。
「この国が現在内乱のさ中にある事はわかっているだろうが、ミハイルを襲った連中は王都のすぐ北にいるデルンシュバイク伯爵の手の者と判明した」
タクミたちにはそれがどこの何者であろうとまったく関係ない話のはずなのになぜこのような話を始めるのか訳がわからない表情で聞いている。
「本当ならかわいい息子を狙ったやつらは俺がこの手で殺してやりたいんだが、今は立場上それが出来ないんだ」
夫妻は兄弟たちから大分年が離れて生まれたミハイルを心からかわいがっている。それが襲われたというのは心穏やかであるはずも無い。
だがもしここで国王自らが軍を率いて伯爵の討伐に乗り出せば、再び国内に新たな火種を撒き散らすことになる。せっかく南部の戦乱が終結しそうなこの時期にそれは出来ない。
「メルゲンシュタットの阿呆を殺したのはお前たちだろう?」
国王はその独自の情報網でメルゲンシュタットで何が起きたかを把握していた。
思いもかけない国王の問いに岬が体を固くする。彼女にとってはそれはまだ克服していない問題だった。
「その問いに対する答えはノーコメントだ」
岬を庇うようにタクミが答える。彼はこれ以上この国の内部事情に関わるつもりは無い。
「まあそれならそれで構わない。俺からお前たちに依頼したい事がある。デルンシュバイクの野郎を二度と俺たちに手を出す気にならないようにとっちめて欲しいんだ。ああ、命まで取る必要は無いぞ」
「よーし! その依頼乗った!!」
横から突然上がった声に皆がその方向を見る。そこにはお腹をすかせて一刻も早く話を終わらせたい圭子がいる。
「何でもいい、やるから早くご飯にして!」
その口から圭子の本音が零れ落ちる。今の彼女にとっては食事以外はまったく些細な問題だった。
「そうか、やってくれるか! よーしご希望に応じて食事にしよう」
国王は一度言質を取ってしまった事に対してこれ以上何も話すつもりが無い。さっさと応接室を出てダイニングに皆を案内する。
一緒に歩く王子と王妃は心配顔をしている。
「本当にあんな約束をして大丈夫なんですか?」
そっと王子が隣にいる空に訪ねる。確かにタクミたちは賊を簡単に倒してしまう実力を持っているが、それと貴族を相手にするのとでは難易度が違いすぎる。
「問題ない、安心していい」
それの自身ありげな言葉に胸を撫で下ろす王子だった。
翌朝、王子をはじめとして従者たちの見送りを受けてタクミたちが乗る馬車は城を出発する。王子との約束で、もちろん帰りには再び城に立ち寄ることになった。
もしこの約束をしなかったら、とてもではないが王子は彼らを離してくれない様子だったので、用件が片付いたら再び戻ってくるという事で納得してもらった。
王都の北に向かう城門をくぐり、一行は次の街に向かう。
圭子が安請け合いした例の伯爵をとっちめる件に関してはタクミは頭を抱えている。対して当の圭子の方は『なるようにしかならない!』と完全に開き直っていた。何も考えていない脳筋はこういう場合最強だ。そしてその周囲がいつも苦労を重ねる羽目に陥る。
タクミたちが向かっている伯爵領には大きな街が二つ存在する。領内の入り口に当たるミュヘンブルグと伯爵の居城があるシェンブルグだ。
とりあえずは、最初のミュヘンブルグの街で情報を収集してからシェンブルグに向かう方針だけ決めて、後は圭子が言う通りの行き当たりばったりで対応するしかない。
馬車を操縦する圭子は安全で比較的整備が行き届いた街道をミュヘンブルグに向かってひた走らせる。ミュヘンブルグまでは戦乱の影響は全く無くて、街道を行きかう商人の姿もそこら中に見かけるし、小さな村も点在している。
のどかな風景を眺めながら旅を続けること4日、ついにミュヘンブルグの街の門が見えてくる。
「さあ、ひと暴れするよ!」
腕を捲って手綱を握る手に力をこめて圭子が高らかに宣言する。さすがに女子たちはいつものように『おおー!』とは同意しなかった。
「圭子ちゃん、お願いですから程々にしてくださいね」
春名が岬のこともあって、なるべく穏やかに事を済ますようにと忠告をするが、そんなのに一々構っている圭子ではない。この街では情報収集をするだけという方針などすっかり忘れて、目の前の敵は全てこの手でぶっ飛ばすという決意を固めて門をくぐるのだった。
読んでいただいてありがとうございました。次の投稿は金曜日の予定です。伯爵をとっちめる計画の話になるのかな・・・・・・
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