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クラスごと異世界に召喚されたのだが、その中に『異星人』が紛れ込んでいる件  作者: 枕崎 削節


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64 アルシュバイン国王

この国の王様の登場です。一体どんな人物なのか・・・・・・

 翌日、午前中から王子が連れてきた絵師が椅子に掛けた岬の肖像画を描く。彼女は何しろ初めての経験なので身を硬くしてモデルを努めているが、じっとしているのもかなり疲れてくるらしくて時々身じろぎしながら早く終わらないかとそれだけを考えている。


 その間に一行が集まる部屋にやって来た王子は早速朝から様々な指示を従者に出していたらしくて、その進捗状況を伝えている。


 2時間ほどでようやく解放された岬は疲れた顔で戻ってくるなり、ソファーでグッタリとしている。彼女には『お疲れ様』と労いの言葉が掛けられるが、普段愛想の良い彼女にしては珍しくかなりおざなりな返事を返すだけだった。


 王子はこの絵本作りを手始めにこの作業で培ったノウハウを元に本格的な印刷技術の開発も視野に入れている。


 またその技術を元に国民の識字率や教育の向上も図っていく計画だそうだ。もっともこれは10年単位で取り組む大事業だけに、王子が成人した頃にようやく実現すれば良い方と考えている。


 ひとつの事業を起こすとなるとそれに関連する必要な技術の裾野がどんどん広がっていく。たとえば印刷をするとなると紙の供給をどうするかという問題が出てくる。


 まだこの世界では手作りで製作しているので紙は貴重で高価なものだ。それをどこまで大量にかつ安価に用意出来るか、その技術も必要になる。


 現在は羊用紙が使用されているが、それでは王子が目指す流通量を賄う事は到底出来ない。そこで羊用紙に代わる新たな素材の紙を用意する必要が出てくる。


 次々に生まれる難問に頭を悩ませる王子だが、ここで美智香が助け舟を出す。


「何も最初から大量生産を目指す必要はない。少量のモデル生産を行ってそこで改めて工程の見直しや必要な技術の洗い出しを行えばいい」


 彼女の言葉に目の覚める思いの王子、彼はたくさん作って早く大勢に届けたいという思いに囚われ過ぎていた事に気が付く。


「そうでした、何もはじめから全て整えなくても、少しずつやってみて手直しを繰り返しながら先に進んでいけばいい事ですよね」


 美智香のドヤ顔を見ながら頷く王子。彼はふと部屋の隅にいる春名が何かを読んでいる事に気が付く。


「春名さん、一体何を読んでいるんですか?」


 実は春名は彼女にとって難しい話が続いたので、飽きて収納から取り出した漫画を読んでいた。一国の王子を前にずいぶん不敬な態度だが、まだ部屋にいるだけ春名はましだ。


 圭子などは自分は議論など向いていない事を自覚しており、タクミの腕を強引に引っ張って外で鍛錬の最中だ。


「ちょっと見せていただけますか」


 王子が興味を引いたようなので春名は漫画を彼に手渡す。それを見て王子は突然大きな声をあげる。


「これだ! これですよ!! 漫画なら多くの色を使わずにストーリーもわかりやすく表現出来る! 春名さん、他にもまだ持っていらっしゃいますか?」


「ありますよ」


 そう言って春名が収納から取り出す漫画の数々、その量は軽く漫画喫茶を営めるほどだった。


 さすがに周囲は春名の漫画好きに呆れ返っている。彼女は授業中もこっそりとこれらを読み耽っているために、いつもテストでは赤点ギリギリなのだ。


 だが、これらの漫画の数々は本星から留学の名目で地球にやって来た春名の心に特大のカルチャーショックを与えた。それ以来ドップリと漫画やアニメに手を出して今日に至っている。言ってみればだめな人の典型例だ。


 王子は数ある春名のコレクションから、何冊か借りることに成功する。春名が布教用に持っていたものだ。


 彼はこの世界に漫画の文化を持ち込もうとしている。もちろん勝算は大いにあった。彼の目はその文化であふれるこの世界の実現に向けて輝いている。




 昼前に鍛錬を終えたタクミと圭子が戻ってくる。二人ともいい汗をかいてシャワーでさっぱりとしてから戻ってきた。


 午後は国王が王子を健康な体にした事のお礼がしたと、謁見の予定が入っているのだ。


 食事を取ってから王子とともに国王の下に同行する。女子たちはそれぞれ街で購入した見栄えのする服に着替えて謁見の間に向かう。


 圭子は久しぶりにスカートを穿いたので、足がスースーすると言って不安げな表情だ。そんな圭子も日本では女子高生らしく短い制服のスカートを穿いていた事などずいぶん昔の話のように感じている。


 呼び出しの声に合わせて、玉座の前に進み出る一同。国王に向かって深く一礼をする。


「うちの息子が世話になってすまん」


 さぞかし重々しい言葉が掛けられると思っていたのだが、立派な椅子に座った国王の口から出た言葉はその辺の商店主が近所の者に話す口調と変わらないフランクな語り口だった。


 面食らってまじまじと国王の顔を見上げる一同。かなり失礼な行為をしているのだが、彼らの態度にむしろしてやったりという表情で国王は笑い出す。


「はっはっは! そのように驚いてもらって愉快愉快! 大臣たちは国王らしい言葉を使えとうるさくて敵わんのだが、あまり堅苦しいのは嫌いでな。まあとにかく楽にしてくれ」


 楽にしてくれと言われてもその辺に座り込むことも出来ないので、直立のまま控えているタクミたち。その様子を見てタクミたちの横に立っている王子が面白そうにクスクス笑い出す。


「あまり堅苦しいことが嫌いな父上なので、言葉遣いも普段通りで大丈夫ですよ」


 そっと小さな声で皆にささやきかける。横の方では大臣たちだろうか、苦虫を噛み潰したような表情で席についている。


 そんなやり取りをしているうちに今度は国王が玉座から降りてきて、ヒョイヒョイと空の前に立ってその手を握り締める。


「聖女様、本当にありがとうございました。心の中では成人までは無事に育つことが出来ないのではないかと危惧していた息子がこうして健康な体になった事を深く感謝します」


 もはや大臣たちの苛立ちはマックスになっているが、国王がそんな事は歯牙にもかけずにタクミたち一人一人の手を取って礼を述べる。


 全員に礼を述べ終わって玉座に戻ってから国王は一言だけ告げる。


「今夜皆さんへのお礼と歓迎を兼ねたささやかな晩餐を用意しているから、どうか腹をすかせて来て欲しい。ここでは出来ない話もあるからよろしく!」


 にこやかその言葉を告げて謁見は終了する。


 部屋を出て長い廊下を歩く一同。


「ずいぶん気さくな王様ですね」


 春名が率直な感想を述べる。それはタクミたち全員に共通する感想だ。


「あれでも父上はだいぶ無理をして畏まっていた方ですよ。普段は『おい、お前!』とか言っていますし」


 王子のフォローが入るが、彼の予想だとおそらく今頃国王は大臣たちによってたかって小言を言われている頃だ。


 この後は部屋に戻って再び王子の事業計画の話をすることになったが、着替えを終えた圭子だけはタクミの腕を取って外に連れ出そうとする。


「午前中散々鍛錬をしただろう」


 抗議をするタクミに対して圭子はまったく聞く耳を持っていない。


「だって王様がお腹をすかせて来るようにって言ってたじゃない!」


 圭子には物の喩えが通用しなかった。彼女は国王に言われた通りに腹をすかせるために再び鍛錬をするつもりだ。


 そして抵抗虚しくそれに付き合わされる羽目に陥るタクミだった。


 

次のお話から再びタクミたちは旅を再開します。新たなトラブルがその行く末に・・・・・・


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