60 救い出した要人
だいぶ間が開きましたが、続きを投稿します。街中で晴れ着姿の方を見かけました。今日は成人の日でしたね。新成人の方おめでとうございます。
馬車を襲う賊に向かって足を進める圭子の肩をタクミが掴んで引き止める、下手をするとこの場の全員を殴り殺しかねないおっかない表情をしているためだ。
「圭子、一旦落ち着け!」
タクミの方を振り向いて『何で人の邪魔をする!』といった目で睨み付ける圭子、その形相は迫力があり過ぎる。女子としてどうなのかといった考えが浮かぶが、タクミがそれを口にする事はない。恐らく一生無いと断言できる。
「わかっていると思うが、黒いやつらだけを倒せよ」
念の為確認するタクミに無言で頷く圭子、だが彼がいいタイミングで呼び止めたので彼女は冷静さを取り戻していた。
そのまま名乗りもせずに黒装束の男に近づいて、相手が反応する前に鳩尾に正拳を叩き込んでいく。
「ぐおーー」
そのまま男は白目を剥いて倒れこむ。新たな敵の出現に黒装束の男たちは警戒を強め、馬車を守って戦っている騎士たちは援軍の出現にその表情を明るくする。
やがてタクミもその中に参加して、右手に持ったバールで次々に敵を昏倒させる。この程度の相手はわざわざナイフを持ち出すまでも無い。
『コン・・・・・・ドサーー コン・・・・・・ドサー』
バールを軽くその頭や体に当てる音が響くたびに、賊は一人また一人と倒れていく。
圭子は全くその手を緩めること無く、とは言っても命まで奪わないように加減はしているが、軽やかに体全体を使いながら時には拳で時には蹴りで男たちを沈めていく。
後ろで備えている美智香まで全く敵がその手を伸ばすことなく、あっという間に賊は鎮圧される。もちろん馬車の中でこの戦いを観戦している皆さんからは拍手喝采だ。
岬だけは自分も戦いに参加したそうにモゾモゾしていたが、固く言いつけを守って耐えている。破壊衝動よりもタクミへの愛が上回っている何よりの証拠だ。
「助太刀感謝する」
馬車を守っていた騎士がタクミたちに歩み寄って丁重に礼を述べる。彼らはどこかのアホ貴族と違ってしっかりと教育が行き届いた護衛の騎士たちだった。
「けが人はいないか?」
多勢に無勢でタクミたちが駆けつけるまでは苦戦していた彼らの無事を確認する。幸いなことに軽症者は出したものの、大きな怪我をしている者はいなかった。どうやら彼らはその物腰からみるに、かなり腕の方にも覚えのある者たちで構成されているようだ。
しばらくすると馬車の扉が開き、中からメイド服の女性が出てくる。彼女は馬車の中にいる主人の身の回りの世話をする係りだ。
だがなぜかそのメイドの表情が危機を脱した割には暗く映る。タクミにはその理由がわからなかったので、近くの騎士に話しかける。
「何かあったのか?」
騎士は困った様子で答えるべきか悩んでいる。うかつには漏らす事が出来ない高貴な身分の主の事を話せないのだ。
だがメイドは意を決してタクミたちに申し出た。
「どなたか回復魔法を使える方はいらっしゃいませんか?」
どうやら馬車の中にいる彼らが守るべき相手は怪我ないし病気をしているらしい。
その問いかけにひとつ頷いたタクミは紀絵に頼んで馬車まで空を呼びに行かせる。紀絵も回復魔法を使えるが、空の方がより精密にその原因を探って根本から治癒する事が出来るからだ。
馬車から出てきた空の姿を見るなり騎士とメイドは声を揃える。
「聖女様! どうかお願いいたします。殿下をお助けください!」
まさかこんな街から離れた森の近くで聖女に出会う幸運を得るとは・・・・・・そんな思いが彼らに過ぎる。
本人の趣味でどこからか調達した修道服に身を包む空はどこから見ても立派な聖女様に見えてしまう。中身の保障はしかねるが、治療の技術はすでにこの世界でも証明済みだ。
「彼女を具合の悪い人の所まで案内してくれ」
タクミの依頼にメイドが頷いて空を馬車の中に案内する。その間に騎士たちはその場に転がされている賊を縛り上げていく。
馬車の中に入り込んだ空の前には、高価なでありながらあまり目立たない色合いの服を着込んだ5歳くらいの男の子がシートの上に寝かされており、苦しそうな呼吸をしてその表情はかなり危険な状態である事を物語っている。
空は直ちに子供の体をスキャンして病気の原因を突き止めにかかる。
その結果男の子は小児ぜん息のかなり危険な発作を起こしている事が判明する。一口にぜん息といってもその原因は様々であるが、この子の場合はアレルギー反応と心因性のストレス発作が複合している事が判明する。
このままでは薬を飲ませる事も困難なので、空はまず発作を止めることを選択して子供の袖を捲り上げてその腕に緊急治療キットを付き立てる。これは薬剤がすばやく体に吸収されるように注射式になっており、タクミが自白剤で打ち込んだものと同様の仕組みだ。もちろん空が使用している物の方がはるかに高い技術で作られている。
メイドの目にはいきなり空が男の子に何かを刺したように映って慌てたが、すぐにそのその子の呼吸が落ち着きをみせた事に今度は目を丸くする。
「これで生命の危険は無くなった。落ち着いてコップと水を用意してほしい」
彼女はメイドにそう告げると、安どの表情を浮かべたメイドはガラスのコップと水差しを準備する。
空はそのコップを受け取ると、収納から取り出した3000年後の未来のぜん息治療薬を水で薄めて、それを子供に飲ませるようにメイドに指示する。
彼女は吸い飲みに薬を移し変えて、ゆっくりと子供に飲ませていく。青褪めて悪かった顔色が次第に赤みを帯びてすべて飲ませ終える頃には、見た目が健康そうな男の子がそこに寝ているだけのように映る。
メイドは彼が生まれてからずっと世話をしてきたが、その彼女が始めて目にする健康そうな男の子の顔色に、その目にはいっぱいの涙がたまっている。
「聖女様、本当にありがとうございます。まさか薬師でも有ったとは思いもしませんでした。お蔭様で殿下のお命が助かりました」
ボロボロと涙を流して礼をするメイドに空は栄養が有る物を食べさせて体力をつけさせる事や、少しずつ散歩などをして体を動かす事などを注意してから馬車の外に出て行く。
外には心配そうな表情で聖女の治療の結果を待っていた騎士たちが、揃って空にその様子を聞きに集まる。
そんな彼らに空は『心配ない、目が覚めたら元気になっている』と告げてからタクミの隣で経過を報告する。タクミはその報告を聞いて軽く頷いてから空に労いの言葉をかける。
そのやり取りが終わってから一人の騎士がタクミの前に進み出て事情を打ち明けた。
「あちらの馬車にいらっしゃいますのは、この国の第4王子のミハエル様でございます。生まれつき病弱で療養のために気候のよい離宮に向かおうとしていた所を賊に襲われた上に殿下も容態が悪くなり、本当に危ないところを救っていただきました」
その話を聞くと彼らは皆王子の傍付きの騎士たちで、病弱ながらも心優しく賢い王子が少しでも健やかに成長するように長年心を砕いたきた者たちだった。中には王子か健康な体になった事に涙を流して喜ぶ者もいる。
大の男たちが涙を流すほど愛されてきた王子の人柄にまだ子供ながらも興味を抱くタクミ。
その後ろでは元々子供好きの圭子がワクワクしている。彼女はアミーと一番仲良しになったように子供に対して同じ目線で接する事が出来る。別に圭子が子供っぽいというわけではなく、その接し方が子供にとってはとても受け入れやすい不思議な力を持っているかのようだ。
騎士たちは相談の上、この場で王子が意識を取り戻すまで野営する事にする。
タクミたちも行き掛り上これに付き合う事にした。先に進もうかと切り出そうとするタクミの口を塞いだ圭子が強引にこの場で野営する事を決定したのだ。
女子たちが賛同した事でその決定に逆らう術のないタクミは素直に従うしか道は残されていない。彼は止む無くまだ日が高いうちから野営の準備に取り掛かるのだった。
この話の続きは水曜日までに投稿します。ちなみにミハイル君はこの物語に結構係わってくる人物です。




