44 獣人の森
次の目的地に向かって出発します。
村の修復も一段落して、いよいよタクミ達が村を出る日がやってきた。
村人たちは朝から『あれを持って行け!』『これも持って行け!』と手に様々な物を携えて彼らの元にやってくる。
そんな中でアミーだけは家の中に引きこもって両親の呼びかけにも応えなかった。
彼女にとっては特に圭子と別れる事が耐えられなかった。昨夜村を旅立つと聞かされた時大粒の涙を流して圭子に『行かないで!』と縋り付いた。
家に戻ってからも自分のベッドで泣き明かし、泣き疲れて寝てしまった。
朝起きても食事もとらずに布団の中でその寂しさに耐えている。相変わらずにその目は泣き腫らしたままだ。
「アミー、起きている!」
そんなアミーの部屋に圭子がズカズカと踏み込んできた。その声にアミーは布団の中でさらに体を硬くして『絶対に出るものか』と抵抗した。
だがその虚しい抵抗も一瞬で終わった。圭子が一気にその布団を剥ぎ取ったのだ。
「いやっ!」
それでも布団に蹲って顔を見せようとはしないアミー、圭子はその小さな体を抱きかかえた。
「アミー、ちゃんと顔を見せなさい!」
圭子の手の中で何とか降りようとしてジタバタしていた動きがその一言で止まる。
「お姉ちゃん・・・・・・」
圭子の腕の中で彼女に抱きついてくるアミー。圭子にはわかっていた、この子は寂しくてどうすることも出来なくて拗ねていたんだと。
自分達が出て行くことは前から決まっていた事で今更変更は出来ない。いつまでもこの子の傍にいてあげるのは無理な事と初めから圭子もわかっていた。
それでもせめて笑って別れたいと思った。アミーの小さな心には無理な事かもしれないが、それでもこの別れを彼女のよい想い出にして欲しいと心から願っていた。
「アミー、お姉ちゃん達は今から出発するよ。だからアミーも笑って見送って欲しいな」
圭子は自分にしがみ付いている小さな体に向かって優しく語り掛けるが、なおもアミーは首を振る。
「いやいや! もっと一緒にいて!!」
その声はすでに涙交じりになっている。その小さな手にさらに力をこめて圭子にしがみ付くアミー。
「お姉ちゃん達は用事が済んだらまたきっとアミーに会いに来るから今は我慢して」
思えば一月前ラフィーヌの路地で倒れているアミーを保護した事が切っ掛けだった。それから自分に懐いてくれた小さなアミーを年の離れた妹のように可愛がった。
離れたくない気持ちは圭子も一緒だ。だがアミーにはわかってもらわなければならない。
圭子は一旦アミーをベッドに降ろすと、背負っているカバンから何かを取り出した。
そしてそれをアミーに手渡す。アミーは何も言わずにそれを見つめている。
圭子が手渡したのは、たまたま春名の収納に入っていた白い犬のぬいぐるみだった。
「アミー、それはシロの代わりよ。きっとその子がアミーを守ってくれるから、また会う日まで大事にしてね」
圭子は優しくアミーの頭を撫でる。ぬいぐるみを抱いたままで圭子を見つめるアミーは、ようやく別れる決心がついたようだ。
「お姉ちゃん、ありがとう。犬神様だと思って大事にする」
それだけ言うと再び圭子に抱きついて小さな声で『早くまた来てね』と耳元でささやいた。
「じゃあ、一緒に外に出ようか」
頷くアミーの手をとって圭子は外に出る。
すでにタクミ達と見送りの村人が勢ぞろいしていた。彼らは口々に改めてお礼を述べていて実直で義理堅い。
アミーの手を引いてやって来た圭子、そして寂しさを堪えてアミーも他のメンバーとシロに別れの挨拶をする。
「お姉ちゃん達また来てねー!」
アミーを初めとして村人全員に見送られて馬車は動き出す。村人達は馬車が見えなくなるまで手を振ってくれた。
タクミ達も窓から顔を出してそれに応える。
やがて馬車は森に隠れて見えなくなった。村人達は日常に戻っていく。アミー一人がぬいぐるみを抱えたままで、馬車の行方をいつまでも見送っていた。
一行を乗せた馬車は森の中を進む。今度は圭子が手綱を握っていた。
親切な村人が次の村まで送っていくと申し出てくれたが、そこまで甘えるわけには行かないので丁重に断った。
村人の話によるとこの先20キロの所に狼人族の村があって、彼らはアルデナントの森に住むエルフと交易をしているそうだ。
したがって次の目的地は狼人族の村になる。ここから1日で到着できる距離だ。
森の中の細い道を進む、狼人族の村までは一本道なので迷うことは無いという話だった。
途中で小さな魔物が出てきたが問題なく村の入り口に夕方近くに到着した。
だがここで問題が発生した。門の前で番をしている狼人族の青年が『人間を村に入れるわけには行かない』とタクミ達の申し出を全く取り合おうとしなかった。
「一体どうしたんですか?」
馬車の中から女子達が次々に降りてくる。そして春名は腕にシロを抱えていた。
その小さなシロの姿を見かけた途端に青年の態度が変わった。シロの前に跪いて祈りを捧げはじめる。
「村長に知らせてくるから待っていろ」
それだけ言い残して彼は村の中に入っていった。
「シロちゃんのお陰で仲に入れてもらえそうですね」
春名はシロの頭を撫でるとシロはその手をペロリと舐める。自分のお陰かどうかなんて事はシロにはどうでもよい事らしい。
しばらく待っていると大勢の狼人族が門までやってきた。全員がシロの前に跪いて祈りを捧げる。さすが霊獣だ。
「犬神様、ようこそお出でくださいました。どうぞ村の中にお入りください」
丁重な物腰で一同を出迎える村長、猫人族の村でもシロは崇められていたが、この村の方がさらにシロのことを神様として扱う気持ちが強いようだ。
シロは彼らにとって犬神なので、猫人よりも狼人の方がより種としては近いのだろう。
村長の家の座敷に通される。家屋の造りは日本の古民家を思わせるような趣のある造りだ。
出された緑茶のようなもので喉を潤してから村長が話を始める。
「犬神様をお連れになっているご一行はいったいどちらの方ですかな?」
タクミが中心になって猫人族を助けた経緯やアルデナントの森を目指している事などを彼に伝えた。
「ほう、彼らの姿が見えなくなったと報告があって、我々も心配していたのですが無事に村に戻していただいたこと感謝いたします」
村長は頭を下げた。猫人族の村は30人しかいない小さな村だがこの狼人族の村は500人以上の村人がおり、魔物の討伐などが手に負えない時などは手を貸しに行っているそうだ。
種族は違っても同じ獣人同士助け合っているらしい。
また村長の話によると、この森には猫人、狼人の他に兎人、犬人、虎人、熊人などが住んで皆で助け合っているそうだ。ただし一つの村が生活していくためにはその規模によって、テリトリーが必要になってくる。
お互いのテリトリーを尊重し合って違う種族でも共存していくというのが、先祖代々この森で受け継がれてきた暮らし方だ。
タクミは彼らの生き方に共感した。それは引退した会社員が山奥にログハウスを建てて住むような感覚に近かったかもしれない。
だがこの森は穏やかに時間が過ぎていく、そんな感覚に陥る素晴らしさを持っていることは確かなことだ。
「さて、エルフの森のことだが・・・・・・」
村長はここで話を区切った。何か話しにくいことでもあるのだろうか?
「彼らと我々は週に一度交易を行ってきた。週ごとに交互に互いの村を訪ねては必要な物を交換しておった。だが、このところ3週間たっても彼らが来ない。こちらから出向こうとしても結界で塞がれて入ることが出来なくなっておる」
非常に困った事だと彼は嘆いていたと同時に、エルフの森で何か起こっているのではないかと心配もしていた。
「色々話をしてもらって感謝する。俺達が様子を見てくるから待っていて欲しい」
タクミは村長にそう告げると彼は大変喜んで途中まで案内を付ける事を約束した。
また、この森とエルフの森は川で隔てられているので、馬車も預かってくれるそうだ。
一行は村長の好意に感謝して翌日早速アルデナントの森に向かうことを伝えて、村長宅を辞した。
翌朝、案内の青年を先頭に村を出発する。
「さあ、エルフに会いに行くよー!」
ファンタジー好きにとっては『異世界=エルフ』という人が多いだろう。圭子もその仲の一人だ。
彼女はエルフに会えるとテンションが高かった。
「出発だー!」
「おおー!」
いつものノリで村を出る一行だった。
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